七十九話目 スペアとカベルネ③
4月14日の更新です。
本日も宜しくお願い致します!
「君がスペアって、どう言う意味かな?」
「ボク、あっちから来タ。カベルネ様ノ体のスペア。それが、ボク達のオ仕事」
彼は、眉をハの字に歪ませながら、魔族領のある方角を指差した。
「あ……」
思わずスプーンを拾う手が止まり、声が漏れる。
カベルネのスペア。そうだ、魔族の研究室だ。
6年前のあの日。ジェイド君が話していた事を、僕はここで漸く思い出した。
円筒形の透明な筒の中に浮かぶ、同じ顔の人形の子供達。
大小大きさの違いはあったらしいけど、その全てが将来新たな【カベルネ】になるかもしれないと言うスペア。
そうか、この子がそうだったんだーー。
「君はそこから逃げ出してきたの?」
更に、裕翔さんが彼に優しく問いかける。心なしか、さっきまでよりも警戒心が薄れている様な気がした。
「ん。カベルネ様のスペあになレるのハ、ほんノ一握り。優秀ナ子だけ。それ以外ハ、処分されル。ボクハ、魔法の的にされタ」
「的?」
「ん。ボク達スペアだけどカベルネ様の一部。だから、とっテモ頑丈。マホー練習する時、使イ勝手ノ良い的になる」
「酷すぎる!」
思わず僕は叫んでいた。
俯きながら喋っていた彼が、ビックリした顔をして顔をあげたのにも構わず、僕は裕翔さんに向かって尚も吠えた。スプーンを握りしめたままで。
「裕翔さん!一刻も早くその研究所叩きに行きましょうよ!?」
そんな僕に、裕翔さんは困った顔をしていた。
◇◆◇◆◇◆
《side:???》
時間は少し巻き戻り、炎の大精霊、通称【ママ】がカベルネのスペアを捕獲した頃。
「怪我の具合が酷いですから、一先ず何処かで手当てをしないと…」
「そうだね?じゃあーー」
裕翔とシエロの声が微かに聞こえる程度離れた岩場。マグマの川で言うところの、魔族領側にあたる岩影に男が隠れている。
まるで【影】の様に、頭から爪先まで全身を黒で纏めた男は、どうやらその場から裕翔達の様子を窺っている様だった。
が、声を拾う事もやっとの距離で、尚も息を潜めているのは、炎の大精霊に気付かれぬ為か、果たして…。
「じゃあ、この先に良い場所がありますので、そこまでご案内しますね?」
「うむ。シエロの隠れ家へ行くのは初めてじゃから、楽しみじゃのう☆」
「ママ……」
男はそのまま暫く、岩場に隠れながら息を潜め、裕翔達の様子を窺っていたが、そのうち彼らの姿が見えなくなると、静かにその場から立ち上がった。
「早く、報告せねば…」
と小さく呟いた男が、指を軽く振って誰かに合図を送る。
と、男が潜んでいた場所とは別の、あちらこちらの岩影から、同じ様な背格好の男達が、男と同じ様に立ち上がった。その数4つ。
「俺はこれから室長殿に事の次第を報告しに行く。他の者は、俺が戻るまでこの場で待機し、奴等の動向を監視。何かあれば逐一報告する様に」
「「「「はっ!」」」」
「では、散開!」
《バババッ》
また先程と同じ様に岩影に隠れた同僚の姿を確認した黒づくめの男は、
「ふぅ。自我か…。厄介な…」
と、小さく呟きながら息を吐き出すとその場から姿を消した。
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