七十七話目 スペアとカベルネ①
4月12日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
2019年4月11日 誤字修正致しました
「あ……」
不意に聞こえた小さな声に反応し、カベルネの方を向く。
すると、さっきまでの人形の様な表情から一変。彼は明らかに驚いた様な顔をして、キョドキョドと周りを見回していた。ベットの上で。
「大丈夫?」
ゆっくりと、見慣れぬ場所で怯えている彼をこれ以上驚かさない様に、出来るだけ優しい声になる様に心掛けながら声をかける。
「あ……。こ、ここハ?」
「此処は、僕の家だよ?君は、街の近くで、倒れてたんだ」
初めて言葉を発した人の様な、そんなぎこちない話し方は一旦スルーして、僕は彼の質問に答えた。
「あナタの家?」
「うん。だから安心してね?」
僕がそう言って笑いかけると、彼の体から少しだけ力が抜けた様に見えた。
そんな彼の様子を確認して、僕も中腰のままの体制から、今まで腰掛けていた椅子に座り直す。
彼が起きた時点で、いつでも逃げられる様にしてみたけど、取りあえずはいらない心配だったみたいだね?
実はあの後、流石に傷だらけの彼をそのままにはしておけないから。と、僕達は一度、シュトアネールの街の近くまで戻ってきたんだ。
因みに此処は、よく僕が薬草採取に来た時に使っている小屋で、元々はこの街を作るときに開拓民達が暮らしていた場所何だけど、今は使われていないからと、父さんから許可を貰って使っている。
まさか魔族の大将らしき人物を易々と街の中に入れる訳には行かないので、さっきのマグマの川から街までの中間くらいにあるこの小屋に、皆を案内してきた。と言う訳だ。
「ボク、たおレてタの?」
「うん。真っ赤に燃えたぎった川の岸辺に倒れてたんだよ?何か、思い出せる事はあるかな?怪我もしていたみたいだったけど…」
僕は嘘と真実を織り混ぜながら彼に問いかけた。嘘も混ぜるのは、まだ彼を信用した訳ではないから。
まぁ、嘘も方便って言うし、そこから何か分かるかも知れないから、許して欲しいところだね?
「ケが…あれ?イタく無イ?」
「うん。ごめんね?勝手に治させて貰ったよ?まだどこか痛むところはあるかな?」
「ううん。ナい。ありがト」
体を触って確かめていたカベルネが、にっこりと笑う。
良かった。少しは元気になったみたいだ。
「そっか、なら良かった。あっ!お腹すいたりしてない?僕、何か作ってくるよ」
「あっ…」
僕が立ち上がると、途端に心細そうな顔になる。
うぅ。何だろう。これが演技とかだったら、僕騙されてすぐ殺される自信があるんですけど…。
「大丈夫だよ?すぐ戻ってくるから。ね?」
「ん…。分かっタ」
「うん。ありがとう」
《ガチャ》
「すぐ戻るからね?」
「ん…」
弱々しく頷く彼の姿を見ながら、ゆっくりと扉を閉める。
《バタン》
「どうだった?」
僕が寝室の扉を閉めると、すぐに後ろからやや抑えられた声で話しかけられた。
まぁ、ここは元々狭い小屋だ、廊下なんかある訳も無く、振り返ればそこには待機してくれていた皆さんの姿があった。
さっきの声は裕翔さんかな?
「目を覚ましました。僕は、何か食べるものを持ってくると言って、出てきましたが、今のところ、彼に敵意は無さそうです」
寝室には防音魔法を予めかけてあるので、聞こえないとは思いつつも、裕翔さんにつられて小さめの声で答えを返す。
「そうか。なれば、話は聞けそうかの?」
「う~ん。たぶん大丈夫だとは思うんですが、少し何かに怯えているみたいなので、少人数で短時間ずつならいけると思います」
治した身としては、このまま体を休めていて欲しいところではあるけど、立場的に彼から事情も聞き出したいのが悩ましいところ。
「分かった。じゃあ、俺と誠治さんだけでいこう。あっ、シエロ君も一緒に来てね?」
「了解です」
「よし、じゃあ、隣の部屋に行こうか」
「あっ!待ってください。今、彼に持っていく食べ物用意しますんで!」
僕は、へっ?って顔をする裕翔さんを無視して、台所へと足を向けた。
あっ、台所なんて言ったけど、皆が居た部屋の中にちっちゃな煮炊き場があるだけなんだけどね?
小屋は寝室とリビング兼台所の2部屋しかありません。
トイレは一応お外にありますww
本日も此処までお読み頂きましてありがとうございました!
明日も同じ時間に更新致しますので、また宜しくお願い致します