七十六話目 新しい敵?
4月11日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
ぼんやりと此方を見ていたカベルネらしき人物は、全く力の入っていないっぽい立ち姿のまま、ぼーーっとしている。
川の向こう岸に僕らが居る事にも気がついていない様なその様子は、何だか感情が抜け落ちた人形の様にも見えた。
「本当だ。何かおかしいですね?」
「でしょう?一体これは…」
裕翔さんと月島さんが眉をひそめて話始めた時、徐に亜栖実さんが、
「お~い!お前、そんなところで何やってんだ~!?」
と、思いっきり大声だして叫ぶ。と言う暴挙に出た。本当にマジかこの人…。
「「!!???」」
案の定、凄い顔で亜栖実さんの顔を見つめる裕翔さんと月島さん。
亜栖実さんの奇行に慣れてる2人でも、流石にこの行動は予測出来なかった様だ。
でも、問題児のこの行動のお蔭か、向こう岸のカベルネが少し動きをみせる。
「……………」
まぁ、定まって無かった視線が此方に向いたってだけなんだけど…。
しかし、此方を向いた真っ赤な瞳には光が無く、良く見れば燃える様な真っ赤な髪の毛にも元気が無い。
ダラリと垂れ下がった髪が、顔や首筋を隠していた。
あれ?
どうやら服だけで無く、髪の毛も所々焦げているみたいだ。あちこち火傷ではない怪我もしているみたいで、血がそこここから滲んでいる。
……何か僕もこいつに何があったのか気になってきた。
「お~い!大丈夫か?」
「「!!!??」」
あっ、僕まで2人から有り得無いもの見る様な顔で見られちゃった。
「フム。このまま川越しに話しかけていても、埒が開かないのう?」
《クイッ》
暫く後ろで僕らの様子を見ていたママが、そんな事をポツリと漏らした後、右手の平を上に向けて、コイコイと下から上に向かって動かした。
すると、
《グンッ》
向こう岸に居たカベルネの体が、引っ張られる様な不自然な動きを見せた後、此方へ向けて文字通り飛んで……ってママ、何やってんのぉおおお!?
《ポスッ》
「ほれ、この方が話しやすかろう?」
カベルネを体で受け止めたママは、そのままカベルネを抱っこしながらドヤ顔をキメた。
「いやいやいや、いくら話しやすいって言っても、敵の大将を抱っこってーー」
「シエロ君待って!やっぱりコイツ、様子がおかしい…?」
僕がドヤ顔のママにツッコミを入れていると、裕翔さんがまったをかけてきた。
カベルネの様子がおかしいと言われ、見てみれば、確かにおかしかった。
何がおかしいって、此処まで急激に動かされて、しかも自分よりも背が低い女性に抱き留められているのに、無反応だったんだ。
赤ちゃんの様な格好で丸まる様にママの腕の中にいるカベルネは、向こう岸で見た時の様に、ぽ~っとしたまま、大人しく抱っこされている。
「シエロ君、これ、どう思う?」
「これは…酷いですね」
裕翔さんが、カベルネの薄汚れてボロボロになったシャツを捲る。
そこから見えるお腹や、外からでも見える手や足には、無数の痣や擦り傷があり、何とも痛々しい姿をしていた。
「魔族領で、なにがあったんだ?」
裕翔さんが、苦い顔をしながらそう呟いた。
問題児のルビが変わっているのは仕様ですので、宜しくお願い致します!!
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。
明日も18時頃更新させて頂きますので、またお読み頂けたら嬉しいです。




