六十一話目 恩返しと名前
3月26日の更新です!
本日も宜しくお願い致します
「ジェイドさんからお聞きしたよ。勇者殿と共に、シエロも頑張っているんだね?」
ドラゴン君の口の周りを拭いていると、不意に父さんがそんな事を言いながら、頭を撫でてくれた。
何だろう。今日は良く頭を撫でてもらう日だなぁ?とか思いながら父さんの方に向き直ると、父さんは少し寂しそうな顔をして、静かに笑っていた。
「ジェイドさん?」
何だか胸が締め付けられる様な、そんな父さんの笑顔に耐えられそうも無くて、話題を変える為に誰の名前かを問えば、
「え?そのドラゴンさんの名前でしょ?」
と何故か兄さんから返事が返ってきた。
兄さん、残った照り焼きソースをポテトにつけて食べるとか、何処で覚えたの?グッジョブです!何気にそれが一番美味しいよね?
って違う違う。
「えっ!?ドラゴン君、名前つけて貰ったの?」
「そうなんですよ恩人様♪今の俺の名前はジェイドって言うんです。改めまして、宜しくお願いします」
6年前。彼にはまだ名前が無かった。
竜種属の風習なのか、ウルスラさん独自の考え方なのかは分からないけど、一人前のドラゴンになるまでは名前を貰えないんだ~。何て、まだ幼い姿の彼と話したのを覚えている。
「そっか~、一人前になれたんだ。よかったね?」
「はい!これでやっと恩人様のお役に立つ事が出来ます!!」
そんな風にニコニコと【ソラタ】の格好のまま笑う、ドラゴン君改めジェイド君。
両の拳を軽く握り、上下にブンブンと振るその様は、この場の空気を更にホッコリとした物へと昇華させ、チラリと盗み見た父の表情にも悲壮感が消えていた。
いくら好き勝手やらせてもらっている僕とて、身内にあんな顔をされてしまうと、やっぱり困ってしまう。
此方の世界に生まれ変わってから大分経つ。
その年月の間に、前の世界で過ごしていた時の事を思い出す回数が減ってきて、生まれたばかりの頃ははっきりと思い出せていた両親の顔も、今ではぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
兄さんの顔だけは今でもはっきりと思い出せるのに、何て自分は薄情な奴なのかと、少し凹んだりもした。
両方の世界にそれぞれ両親が居る僕は、裕翔さん達の立場とも、ましてプロクス兄さん達の立場とも違う、中途半端な状態だ。
だからこそ、両方の両親を大切にしたかったのになぁ。
僕は皆に心配をかけてばかりだ。
じゃあ今までの何処かで自重する事が出来たのか?と問われても【否】としか言えないけどね?
前の世界で生きてきた分を足せば、もう40も過ぎたおっさんの僕だけど、たぶん自重していたら出会えなかった人や物もある筈な訳で…。
うん。でも、父さんのあんな顔はもう見たくは無いから、これからは程々に無茶しようかな?
『先ず無茶しないで下さい』
色々疲れたそうで、僕のお腹の中で休んでいた筈の咲良さんから鋭い突っ込みが飛んできたけど、これはちょっと無視、もとい、聞こえなかった事にして…。
『マスター。聞こえてますよ!?』
「ところでジェイド君。恩返しって言ったって、どうしたいの?」
と、ドラゴン君改めジェイド君に話しかけた。
「はいっ!不肖ジェイド。まだまだ修行中の身ではありますが、是非とも恩人様のお役に立ちたく!!魔物の討伐でも、皿洗いでも、なんでもさせて下さい!」
すると、口の周りにパンカスを付けたジェイド君がキラキラしたお目目で僕に向かい、ペコリと頭を下げる。
いやいや、いくらなんでも生物界のトップオブトップに皿洗いなんぞさせられないでしょう…。
僕は呆れながら、ジェイド君の口の周りについたパンカスをはらってあげた。
『全く。都合が悪くなるとすぐ無視するのはマスターの悪い癖ですよ?』
きっ、聞こえませ~ん!
ドラゴンがエプロンして食器洗い。
シュール過ぎる!!
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新させて頂きますので、また宜しくお願い致します