四十九話目 植物の正体②
3月10日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「俺もこんなに巨大化したものを見るのは初めてですが、これ、マスターもよく知ってる植物ですよ?マンドレイクですから」
「あんだけ引っ張っておいて、やけにサラッと言ったねぇ?最近またコローレに似てきたんじゃない?」
「お褒めに与り光栄です」
「いや、だから褒めてないから…。それにしてもマンドレイクかぁ。うん。そう言われて見れば、確かにマンドレイクの葉っぱだね?」
何故かコローレに憧れているらしき咲良の態度に、僕は半ば呆れつつ、今度は本当に触らない様にと気を付けながら、葉っぱの具合を観察してみる。
うん。元のサイズと余りにも違いすぎて分からなかったけど、確かにこれはマンドレイクっぽい。
葉っぱが学校の薬草学の授業で扱った時と同じ
形をしていたから、今更ながら良く分かった。
って事は、この葉っぱの根元にチラッと見えてるのはマンドレイクの実かぁ。なるほどなるほど確かにあれは大根っポイよねっと。
僕は、ゆっくりとしゃがんでいた形から立ち上がると、その足でクレアさんとリーマさんが待つ裏木戸へと近づく。
「クレアさん!これ、マンドレイクでした!念の為、屋敷の中から出ないで下さい!」
「え?ちょっとシエロ君?」
《グイグイ》
《バタン!》
そうと決まれば!と言う事で、クレアさん達を屋敷の中へと押し込む。
クレアさんは然程抵抗らしい抵抗も無く、大人しく屋敷の中に入ってくれた。
「出来るだけ庭から離れた奥の部屋に居てください!変な声が外から聞こえてきたら、耳を塞いでいて下さいね?」
僕がそう木戸越しに声をかけると、中からクレアさんの声が返ってくる。
《シエロ君?貴方は大丈夫ですの?》
「大丈夫ですよ?マンドレイクなら何度も授業で扱って来ましたし、咲良も居ますから!」
《でも…》
扉の中から聞こえたクレアさん声は、とても不安そうだった。
クレアさんはいつも僕の心配をしてくれる優しい人だ。だからなるたけ気を付けよう!とその度に心に刻みつけるんだけど、大した成果は今のところあがっていない。……うぅ、ごめんなさい。
「大丈夫ですよ?大丈夫。あっ、昨日僕が渡した魔道具、今日は持っていますか?」
優しく優しく、穏やかな声を出す事を心がける。
《え?えぇ、ちゃんと持ってきていますけど…》
「それは良かった。じゃあ、それを耳に付けて待っていて下さいね?耳を塞いでいても、それなら僕からの合図も分かりやすいでしょう?」
《……分かりましたわ。ちゃんと耳に付けて、お待ちしております。必ず【合図】を下さいましね?》
「勿論!」
《パタパタ…》
足音が徐々に遠ざかっていく。
程なくして扉が閉まる音が遠くの方から聞こえてきた。
よし、これで一先ずは安心かな?
「んじゃあ、一丁やりますかね?」
「了解です」
改めて巨大な植物に向き直る。
クレアさんを退避させたり、僕と咲良が此処まで緊張しているのは、このマンドレイクと言う植物の特性にあった。
ファンタジー小説や映画にお決まりの様に登場する、この人の形そっくりのセクシー大根にも似ている植物は、人を容易く死に至らしめられるだけの毒がある。
葉っぱの棘に触れる事で毒が体に回るのもさることながら、実の方にも神経を病む毒があり、強い幻覚、幻聴をもたらし、場合によっては死んでしまうんだ。
それだけでも厄介なのに、コイツは世の中の全てを恨んでいるかの様な落ち窪んでいる濁った目と、何処までも深い闇の中の様な、口をぽっかりと開けて、自分を引っこ抜こうとする人間を待っている。
まぁ、要するに、引っこ抜くと泣くんだ。
その声はバカでかくておぞましく、この声も聞き続けていれば衰弱死してしまう。勿論引っこ抜いた方がね?
声の効果が出るのは半径2~3メートルが良いところなのが救いなんだけど、今回問題になっているコイツは、普通のマンドレイクのおよそ100倍以上の大きさだ。
だから、これだけ離れてもらっていてもクレアさんに被害が出ないとは言いきれない。
薬草学の授業では、引っこ抜いたらすぐに泣き止ませる為に口に封印を施したり首の部分を切り落として黙らせていた。
だけど、封印する為の護符がこのデカさのマンドレイクに効くかは分からないし、首の部分を切り落とすにしても、切り落とした瞬間から薬効成分がガクッと劣化していってしまう為に、すぐに加工が出来ないこの状況で使うのは得策ではない。
いくら僕の作った魔法鞄があるとは言え、鞄に入れる準備をしているその少しの時間でもマンドレイクを劣化させるには充分な時間になり得るので、最後の手段としては使えるけれど、此処まで大きく成長したマンドレイクだ。
葉の色艶も完璧だし、出来るなら最高の状態で手に入れたい!
「マンドレイクが毒のある植物ってだけなら諦めもつくんだけどねぇ?」
「マンドレイクは万能薬を作る際の、要の材料ですからね。これだけの量があれば、一体何人の命が救えるのか…」
僕がため息混じりにそう咲良に言うと、咲良からはそんな答えが返ってくる。
そうなんだよなぁ~。
マンドレイクの薬効成分を上手いこと抽出出来れば、その厄介な毒はきれいに無くなり、そのまま使っても強力な回復薬となる。
更に他の材料と掛け合わせれば、難病奇病は勿論の事、体の欠損すらたちどころに回復させる事が出来る万能薬だって作れるんだ。
だから、薬学を扱う者はリスクをしょってでもマンドレイクを飼育したがるもので、うちの学校の薬草園にはそれ専用の菜園がある程。
マンドレイクの足1本で万能薬が2本作れる計算だから、今僕の目の前にあるマンドレイクを無傷で手に入れられたら、それこそどれだけの万能薬が作れるのか!
他の材料との兼ね合いもあるから確実とは言えないけど、この量が全部使えるのならば、たぶん一万くらいはいける筈。
だからこそ、こうして2人して悩んでいる訳なのです。
……本当にどうしたらいいのかな?
僕は目の前に聳え立つマンドレイクの葉っぱを見上げながら、ちょっと途方に暮れた。
ファンタジー小説や映画ではお馴染みのマンドレイクですが、実は普通に存在します。
意外にも茄子科の植物らしいですよ?
日本にもとある場所に行けば見られるそうです。1度で良いから実物を見てみたいなぁw
さて明日の更新は!と言いたいのですが、11日は用事で一日留守をしますので、申し訳ありませんがまたお休みさせて頂きます。
次回の更新は、12日の18時頃を予定しております。
お休みばかりで本当に申し訳無いのですが、また宜しくお願い致します