三十九話目 竜の親子③
2月27日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
2019年4月10日 誤字修正致しました
「繋ぎ、ですか?」
僕らのあげたすっとんきょうな声を華麗にスルーした月島さんが、息子君に問いかける。
すると、息子君はうんと1つ肯定の返事をして、
「俺様、あいつらに捕まってからずっと頭がボーッとしてたから、よくは覚えてないんだけど…」
と前置きした後で、こう続けた。
「その部屋の中にはたくさん同じ形の透明な筒があって、そこに大きさはバラバラだったけど、同じ顔の子供がいっぱい浮かんでたんだ。俺様をそこへ連れて行った奴は、俺様はその子供が育つまでの繋ぎで、育ったらジッケンて言うのに俺様を使う気だったんだって言ってたぞ?」
「ジッケン…実験ですかね?というのも気になりますが、その筒の中に同じ顔の子供がいっぱい居たんですか?」
「ん?うん。筒の中に1つずつ入ってたぞ?何かそこは筒と箱だらけの部屋でさ?箱に向かって何か話しかけたり、箱の表面にいっぱいついた突起を押したりしている白い奴がいっぱいいたんだぞ?」
「筒に箱、それに白い奴、ですか…。何だかSF染みた話しになってきましたねぇ…」
月島さんは会話の最後に、眼鏡をクイッと中指で押し上げながらポツリと呟いた。
銀縁眼鏡の奥がギラリと光って見えたもんだから、貴方の方がよっぽどマッドサイエンティストっぽく見え…こほん。何でもないです。
さて、と。魔族の領地にあった透明な筒に、その中に入れられた子供。そして、それを管理する白い連中かぁ。
うん、確かにSFの世界っぽい。
箱ってのはたぶん筒の中に満たされた培養液を管理する為の機械か魔道具の事だろうし、白い奴ってのは白衣を着た研究者ってところだろう。
この事から、カベルネはクローン魔族なのか?とか、1から作り出された生命体なのか?
とか、第3隊の隊長。何て役職を与えられてはいたけど、後ろからカベルネを操る何者かの隠れ蓑にする為にそんな事をしていたんじゃないか?
とか、何でカベルネ真っ二つなの?とか疑問点は尽きないけれど、息子君に聞いてもそれ以上の事は分からなかった。
その他で分かった事と言えば、息子君の近くで彼の戦いを見ていた【副官】っぽい奴が息子君につけられた装置を操っていたって事だけ。
僕が息子君の頬を殴った時に一緒に飛んだらしい魔力の波が、副官っぽいのが弄っていた装置を壊し、更には頬を殴った時に、頭につけられていた装置の一部が破損したんそうだ。
なるほど。それで装置が壊れた事で、息子君は気絶した訳か。
「それで魔族側は撤退せざるを得なかった訳ですね?装置が壊れてしまっては、もし仮にすぐ彼が目を覚ました場合に暴走する危険性も孕んでいたでしょうから」
「えぇ。でもそのお蔭で私は漏れでた坊やの魔力を探り当てられましたし、撤退途中の混乱しきった魔族達から坊やを救い出す事も出来ましたから…。本当に恩人様にはいくら感謝しても足りないくらいです」
そう言って月島さんと話すウルスラさんの目にはうっすらと涙が見えた。
そして、涙を軽く拭いながら息子君を大事そうに抱きしめ、再度僕に向かって深々とお辞儀をしてくれる。
うぅ、人様の息子さんを、いくらカチンときたからって思いっきりぶん殴っておいて、それで感謝されるとか、分かっていても居心地が悪い。
いや、出来るなら逃げ出したい。それくらい背中がムズムズするのを、僕はひたすら耐えていた。
「あっ!そうだ!」
ムズムズに耐えていると、息子君が急に大きな声を出した。
「ん?どうしたの?」
裕翔さんが優しく息子君に問いかける。
「恩人様に、お願いしたい事があったんだぞ!」
「そうでした。恩人様、何とぞ息子をお助け下さい」
すると、親子共々僕に向き直って頭を下げてきた。うぅ、何かムズムズするんだよなぁ。
「ねぇ?その恩人様っての止めてくれませんか?シエロと呼んでください」
あんまりムズムズするので、お願いして呼び方を変えてもらう。
お母さんのウルスラさんは難色を示していたけれど、息子君はあっさり変えてくれた。正直助かる。
「シエロ、さん!」
流石に呼び捨ては駄目!とお母さんに教えられた息子君が多少つっかえながら僕を呼ぶ。
「うん、僕にお願いってなぁに?」
別に呼び捨てしてくれたって良いのになぁ。とか思いながら息子君に聞いてみると、
「俺様の頭を取って欲しいんだ!」
…ちょっと訳の分からない事を言われた。
ファンタジーに白衣のおっさん出てくると、途端に胡散臭く感じるのは私だけですかね?ドキドキ
本日も此処までお読み下さいまして、ありがとうございました。
明日も18時頃更新致しますので、またお暇潰しにでも活用頂けたら嬉しいです。