三十三話目 カベルネ・ソーヴィニオン①
2月21日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
宙に浮いたら、後は地面と仲良くするだけ。
《ドシャア》
数秒宙を舞ったカベルネは、その後地面と濃厚なキスをした。
つまり、顔面からいった。
カベルネは、そのまま顔を突っ伏した状態で動かなくなる。
「かっ、カベルネ様ぁあああ!!」
魔族側で、裕翔さんとの戦いを一番近くで見ていたちょい偉いっぽい、ザッツ副官って感じの冴えないおっさん風の魔族が、甲高い、キンキンした声で叫ぶ。
「カベルネ様、ご無事ですか!?」
うるせぇ。自業自得だろうが。
カベルネ自身は、その副官っぽいのに話しかけられてもピクリともしない。完璧に気絶している様だ。
「かっ、カベルネ様?」
慌ててカベルネに駆け寄った、その副官っぽいのは、カベルネの口に手をやったり、恐る恐る心臓の音を聞く為にカベルネの体を仰向けにしたりと忙しない。
「あぁ、カベルネ様、おいたわしや!」
そうして、なんやかんやといちいち騒ぎながらカベルネのチェックを終えると、
「カベルネ様をよくも!!この借りは、必ず、必ず返させて頂きますからね!?覚えておいでなさい!!」
と、またキンキンした耳障りな声で喚き散らし、更にはカベルネを近くにいた魔族にホイッと背負わせた。
ん?と誰もが首を傾げていると、副官っぽいのは自身のヒラヒラした服の裾を捲り…。
そのままさっさと魔族領の方へ駆け出していった。
「え?」
誰が洩らした声か、僕達が呆気に取られている間に、残された魔族達もその副官っぽいのを追いかけて、我先にと凄い速さで逃げ出して行く。
「え?ちょっ、ちょっと?」
そして、僕らが混乱していた数分の間に、あんなに居た数千人単位の歩兵や魔物は跡形も無く、姿を消していた。
ご丁寧に、僕らが倒した魔物の死体まで綺麗に拾っていくんだから、逞しいと言うか何と言うか…。
兎に角、あれだけ思わせ振りな感じで、更には夜襲までして街を壊滅させて行ったにしては鮮やか過ぎる魔王軍の引き際に、最初は何かの作戦か?
と疑われていたものの、それから数日経っても、行軍どころか、夜襲等の襲撃すら無い日々が続いた。
いや、寧ろ襲撃どころか、街の様子を探っていたスパイっぽいのまで居なくなっていたので、かえって不気味なくらいの平穏な日が続いた。
あまりに呆気ない幕引きに、此方の大将でもあるガーランドさんが、どうやら、普通に大将がやられたから逃げただけの様だ。
と結論を出したのは、それから1週間後。
大分、街の復興が進んだ頃だった。
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「ふむ。此処まで静かだとかえって不気味。と言うものだが、何とか一区切りついたとみて良いだろうな…」
ガーランドさんが報告を部下の兵士さん達から受けて、難しい顔をながら呟いた。
ガーランドさんはこう言っているけど、結論が出るまでの1週間。
街の復興のお手伝いが出来たんだから、かえって良かったのかな?とも思っている。
まぁ、でもその間大変な事も色々あって、その中でもキツかったのは【勇者様の新しいお仲間が敵の大将を討ち取った!!】と騒ぎになって、めちゃくちゃ持ち上げられちゃった事。
僕は同性から求婚されて腹立って殴っただけなんだけど、端から見たら、結界張って街を守った少女←意義あり!が敵の大将を一殴りで追い払った!!って感じに映ったらしい。
それに尾びれと背びれがついて、いつの間にか【討ち取った】になったみたいだ。カベルネは泣いていい。
そんで、今僕らはガーランドさんを交えて、撤退するかどうかを審議しているところだったんだ。
報告会を兼ねたこの場は、この街の領主様の家をお借りして行っていて、僕達はその食堂の一角を間借りしている。
その食堂に置かれた四角い杉の木のテーブルに、時計回りに僕、裕翔さん、亜栖実さん、月島さんときて、ガーランドさんが座っていた。
報告をする兵士さん達は立っているんだからと、僕は座ることを躊躇したんだけと、今回の立役者が何を言ってるんだとガーランドさんに自分の隣に座らされました。
「その事なんですが、ちょっと思った事があるんですよ」
ん?
ガーランドの呟きを聞いた裕翔さんが、律儀に手を挙げながら声を出した。
街の再建をするにあたり、アッパーカットを華麗にきめたシエロの銅像を作ろうと言う案はシエロ自身が却下致しましたwww
本日も此処までお読み下さいまして、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新させて頂きますので、また宜しくお願い致します。