三十二話目 魔族とシエロ⑤
2月20日の更新です。
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裕翔さんが手を伸ばした姿が遠くに見え、僕の目の前までやってきた黒い火の玉は、ゆっくりと僕の張った結界に接触した。
何か全部がスローモーションみたいに見えるんだけど、僕死ぬんかな?
「シエロ君!」
《ズドガァアアアアン!》
激しく、けたたましい音をたてながら、火の玉は結界にぶつかった衝撃で爆ぜた。
「シエロ君!」
「は~い、何とか無事です…」
結論から言うと、結界は何とかもった。もってくれた。
その代わり魔石は使いきったけどね…。
今、腕輪にはめこまれた全部の魔石は、色を失ってスモーククォーツみたいにくすんだ乳白色になっているはずだ。
流石にカベルネが見ている前でスペアと取り替える訳にもいかないから、暫く自分の魔力を消費しながら結界を維持するしかない。
あぁん!地味にキツい!!グスン…。
「「良かった…」」
ガリガリ削られていく魔力に苦笑していると、裕翔さんと共に、何故かカベルネまでが胸を撫で下ろしていた。
カベルネの燃えるような髪の毛が、ため息と共にふわふわと揺れる。
「ん?」
「何だ?」
当然、自身の背後から聞こえたため息に裕翔さんが振り返れば、眉を潜めたカベルネが声をかける。
「何で君がシエロ君の心配をするんだよ?」
裕翔さんの言っている事は、至極まともな事だ。
カベルネは魔族であり、さっきまで僕とも戦っていた敵の将。
やったか?と喜びはすれ、心配されるなど不可解でしかないが…。
「何を言う!未来の花嫁を心配しない旦那がいる訳が無い!!」
目の前の敵は、とんでも無い馬鹿だった様だ。
裕翔さんの口が、声を出さずに【げっ】と呟いた様に見えたけど、僕はそれどころではなかった。
ゴゴゴと、微かに音をたてながら地面が揺れる。
頭の片隅で、あれ?地震かな?何て考えたりもしたけど、僕の視線は此方へ向けて歩いてくるカベルネにロックオンされていた。
「無事で良かったぞ。我が姫ぎ…」
姫君。そう言いたかったのだろうカベルネは、最後まで言葉を発する事無く、宙に浮いた。
◇◆◇◆◇◆
《side:裕翔》
敵の大将。カベルネ・ソーヴィニオンがシエロ君の地雷を踏んだ。
さっきまではその整った顔を歪めて、俺の心配をしてくれていた彼だったけど、今はまるで表情が無くなっている。
こう見ると、本当に人形の様に整った顔立ちをしているなぁ。
表現力が皆無で申し訳ないけど、表情を無くした彼は、お金持ちの家にある、たっかいフランス人形みたいに綺麗な顔をしていた。
あっ、シエロ君に見とれている隙に、カベルネ・ソーヴィニオンがフラフラとシエロ君に近付いていってる!
今、彼に近付かない方が良いんじゃ…。
「無事で良かった。我が姫ぎ…」
「僕は、男だぁああああああああああ!!」
《バキィッ!》
あっ、やられた。
魔王軍第3隊隊長。カベルネ・ソーヴィニオンは、シエロ君の右の拳がクリティカルヒットして、綺麗に弧を描きながら宙に舞った。
幾ら気を抜いていたとは言え、戦闘狂とも言えるカベルネ・ソーヴィニオンがただ殴られるとは…。
あれ?もしかして、シエロ君が勇者した方が良いんじゃね?
俺はこの時、純粋にそう思った。
お約束ww
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