番外編 小話
1月12日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
◇◆◇服◆◇◆
「う~ん。ユート達が帰る時に預かった服や小物類、どうしようかしらね?」
自宅のリビングで、三つ子の末っ子、スカーレットが頭を捻っている。
目の前には大きめのテーブル。その上には、3着の服がそれぞれ上下セットにされて、きちんと畳まれた状態で並んでいた。
「何をやっているんだ?」
そこへ、長姉シルビアーナがやってきて、テーブルの上を覗き込む。そして、そこへ並べられた服達に気がつくと、
「あぁ。ユート達の服か。預かっていたのだったな?」
と、納得した様に頷きながら、いとおしげに服を撫でた。
姉のそんな様子を、その後ろでスカーレットは微笑ましげに見つめている。
すると、シルビアーナはスカーレットへ振り返りながら、
「で?何を悩んでいたのだ?服なら、ナツヒコのクローゼットに仕舞っておけば良いだろう?」
と、訊ねた。
すると、スカーレットは何故かもじもじし出す。
何故妹がそんな風にもじもじし出したのかが分からず、シルビアーナは首を傾げたが、いくら待ってもスカーレットから明確な返答は返ってこない。
シルビアーナがいい加減やきもきし始めた頃、突然背後から
「スカーレット、は、着てみたい、のよ、姉さん」
と、ボソボソとした声で話しかけられた。
「うわぁ!?」
堪らず悲鳴をあげるシルビアーナに、声の主、ブロナーは謝罪の言葉を口にしながら、件の服を指差した。
「あっ、驚かせた、かな?ごめん、ね?で、スカーレット、だけど、スカーレット、は、アスミ達の、服に、少し憧れ、ていて、着てみたい、と、思って、る、んだ、よ」
「なんだ、そうなのか?それなら着てみれば良いじゃないか?一度くらい着てみたところで、彼等は怒るまい」
「むしろ、《写真送れ!》って、騒ぐ、と、思う…」
2人の姉が妙な結束力でもって納得すると、末っ子はプルプルと震えながら、
「もう止めてー!」
と叫びながら、その場から走り去っていった。
その場に残された2人は、
「何だ?あれは?」
「たぶん、恥ずかしさ、が、限界を、越えた、んだろう、ね?」
「なるほどなぁ…」
そんな事を囁かれているとは露知らず、猛ダッシュで家の外へと走り去ったスカーレットを、シルビアーナとブロナーは生暖かい目で見送ったのでした。
◇◆◇新理事長◆◇◆
「はめられた。やられた。騙された…」
鏡の中にある理事長室の片隅で、うずくまりながらブツブツと呟く影があった。
その影は、ずっとはめられた。と繰り返し呟いている。
「時間だぞ……。何だ、まだそんなところにいたのか?ほら、いつまでそんなところにいるんだ…?さっさと出てこい…」
そこへ、ボサボサ頭の、少し不機嫌そうな顔をした男性が入ってくる。かつてのシエロ達の副担任。スクルド・ヘリアンだ。
いつもの様に、自分で適当に切りました。と言わんばかりのボサボサ髪をボリボリと掻きむしりながら、スクルドは【新・理事長】を影から引きずり出す。
「嫌だ!私ははめられたんです!陰謀だ!横暴だ!騙されたんだーー!!」
「えぇい!大の大人が、しかも男が暴れるんじゃない!!もう決まってから一月も経つんだ。いい加減覚悟を決めんか!!」
非力なスクルドに、それでも何とか引きずり出された人物は、尚も嫌だ何だと叫びながらも、理事長の出口の方まで引きずられて行く。
「嫌だ~。スクルド、後生ですから~」
「喧しい!」
《ペチッ》
「あいたっ!?」
嫌だ嫌だと、ごねていた人物の頭をスクルドがひっぱたく。フィールドワークを余りしない彼の力でも、思いきり叩けばそりゃあ痛いもので、今まで背中を丸めて顔が見えなかった【新・理事長】も、堪らず顔を上げた。
「何するんですかスクルド!」
「いつまでもごねるからだろうが!ほらっ!今日は生徒達への御披露目式なんだから!しゃっきりしてくれよ!?」
文句を垂れるその新理事長…。いや、ランスロット・フェザーに喝を入れながら、新副理事長でもある彼は、新理事長を引きずったまま、鼻息荒く理事長室を後にした。
正直、ランスロット的に言えば、彼も騙された人物なのだが、余りにもランスロットがごねるので、スクルドはごねる暇が与えられなかったのだ。
可哀想なスクルドは、たぶんこれからもごねるランスロットを宥めすかし、時には今の様に怒鳴り、叱りつけながら業務をこなして行くのだろう。
頑張れスクルド。ランスロットが理事長職の面白さに目覚めるその時まで!!
本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。
この回をもって、シエロの物語は一応のお仕舞いを迎えました。
ここまで続ける事が出来ましたのも、今までお読み下さった皆々様方のお蔭です。
本当にありがとうございました。
それでは、またお会い出来るその時まで!!
2019年1月12日 お豚汁子