二百七十八話目 おかえり。と、それから
1月2日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
『あっ、そうそう。最後にこれだけは伝えておきたかったんだけどね?』
一通り亜栖実と騒ぎ終えた神様が、満足げにそんな事を言った。
「なんですか?」
最後。って言葉に、自分でも驚くくらいにドキッとしながら問いかける。
『うん。こっちの世界の人じゃあ実感が無くて言ってもらえないだろうからね?』
神様は、そう前置きすると、
『おかえり。今まであっちの世界で、よく頑張ったねぇ?』
と、優しい声でそう言った。
不覚にも泣きそうになり、グッと腹に力を込める。
「不意打ち禁止だよぉ~」
って言うか、亜栖実は号泣してた。
『あぁ、泣かないで?ふふふ。そこで寝たふりしてる君もね?』
《ビクッ》
あ、誠治さんも起きてたのか…。
「泣いてなんか、いませんよ?」
少しだけ赤くなった目を擦りながら、ムクッと姿を起こす。
あはは。泣いてたのがバレバレだ。
『ふふふ。そう言う事にしておいてあげるよ。では皆、またね?』
「あ…」
短い別れの挨拶の後、神様の柔らかい声は聞こえなくなった。
寂しさから、思わず声が漏れる。
《ザワザワ》
と、外から物音と、誰かの話し声が聞こえ始めた。
時間が動き出したんだ。
《ガラッバッターン!》
「裕翔!」
それとほぼ同時くらいに、凄い勢いで病室のスライドドアが開き、見覚えのあるおばさんが飛び込んできた。
「母さん」
それは、向こうに飛ばされてから十数年。会いたくてたまらなかった母さんだった。
いや、母さんだけじゃなくて、家族全員に会いたかったんだけどね?
「あぁ、良かった。爆発事故に巻き込まれた。って聞いて、母さん生きた心地がしなかったんだから…」
「ごっ、ごめん母さん。俺も何がなんだか分かってないんだけどさ…」
「あぁそうよね?何か近くの町工場が爆発したらしいわよ?全く、あそこも廃業してそのままにしとくから悪いのよね?」
ダー!っと捲し立てる様に喋るのは母さんのいつもの癖だ。昔は少しだけ煩わしく思っていたけど、今はそれを聞くのがたまらなく嬉しい。
「あら、誠治さんも目が覚めたのですね?丁度良かった。一緒に検査が出来ますから」
「君ねぇ?第一声からそれですか?」
「あら、ごめんなさい?これでも心配したんですよ?全く、貴方には心配させられてばかりですね?」
「気をつけます」
「亜栖実~?頼まれてたアイス、買ってきたわよ?」
「わっ!やった☆ありがとう母さん」
勝手に潤み出す目を母さんから誤魔化していると、母さんの後ろから2人の女の人が続けて入ってきた。
話し方から亜栖実の方はお母さんだって分かるけど、誠治さんの方は…?
「じゃあ先ずは誠治さんから検査しましょうね?」
「あ~。お手柔らかに頼みますよ?」
……いいや。
今は、それぞれ懐かしい面々との久しぶりの体面を楽しもうじゃないか。
まぁ、後で問い詰める事には変わりないけどね?
本日も此処までお読みいただき、ありがとうございました。
明日もまたこの時間に更新致しますので、宜しくお願い致します