二百七十一話目 魔王の最後
12月26日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。助けて……」
ずぶ。
ずぶぶぶ。
魔王の体が、見る見るうちに時間さんの体の中に沈んでいく。
魔王はぶるぶると恐怖に震え、叫びながらもがくけど、時間さんはただその様を見守っているだけ。
時間さんは、まるで妊娠中のお母さんの様に柔らかく、慈愛にも似た笑みを浮かべていたけど、絶賛逆出産中の時間さんと魔王のもがき具合を見てると、若干SAN値ェックが入りそうな感じにも見える。
だってエグいもの…。
「「「ほら、抗うんじゃない。皆そこで待ってるんだから、ゆっくりお休み?」」」
「何をっ!?……あれ?そうなのかな?嫌、でも……。もう、訳、わかんな………」
《トプン》
最後は目をとろんとさせた魔王は、ウトウトと微睡む様にして時間さんの体の中に沈んでいった。
「お休み」
最後に時間さんは自身のお腹を撫でて微笑んだ。
魔王は、時間さんの体の中に消えた。
何だか呆気なさすぎて実感もへったくれも無いけれど、こうして、僕ーーいや、裕翔さん達の長い戦いは幕をおろしたのだった。
「「「ふふふ。良い子♪」」
呆気に取られている僕達を余所に、時間さんはそう言ってお腹を一撫ですると、フと顔を上げた。
そして、1歩。此方へ向けて足を踏み出す。
ん?
《シャラ》
時間さんが1歩。また1歩と足を踏み出す度、衣擦れの音がする。
でも、時間さんの衣服は今まで不安定で、輪郭がぼんやりしていたからそんな【動く音】なんてしなかったのに、何で?
「あれ?」
観察してみると、おかしな事に気がついた。
「顔が変わらない…?」
今、時間さんはシュッとしたイケメンさんの顔をしているけど、それが固定されていた。
今までの時間さんだったら、見る度に顔や体つきが変わり、一時も同じ顔を見る事はなかったのに、今、僕の目の前には、銀色の髪の毛をサラリと腰まで伸ばした緑色の涼しげな瞳が印象的なイケメンが居る。
そう言えば声もダブらないし体の揺らぎも無くなってるな…。
何て思いながら見つめていると、そのイケメンは同じ顔のまま、僕達…と言うか女神達の前まで歩いてくると、スッと跪いた。
「シルビアーナ様、スカーレット様、ブロナー様、ご無沙汰して申し訳も御座いませんでした」
「いや、気にすることは無い…。しかし、その姿は?」
自身の前で跪く時間さんに、シルビアーナが問いかける。
そんなシルビアーナにニッコリと微笑みを返すと、時間さんは
「はい。魔王を取り込んで、漸く神の頂へと辿り着く事が出来ました♪そのお蔭で、体も定着したのです」
と、答えてくれた。
そっか~、時間さん、神様になったのか~。
……………えぇっ!?
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