二百四十七話目 始まりの女神
11月24日の更新です。
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魔王の話は続く。
「始まりの女神様は、ある男に恋をしていたんだ。その男は地上に住む、普通の男でね?別に勇者としての素質も、賢者としての賢さも無い、普通の農家の次男坊だった」
ふふふ。懐かしいな。と笑いながら、心底懐かしそうに、感慨深げに語る魔王には、さっきまでの狂気を孕んだ邪悪な影はどこにも見当たらなかった。
僕は、本当にさっきまでの魔王と、今こうして話している魔王が同一人物だとは思えないな…。何て考えてしまうくらいには、魔王の話に引き込まれていたんだと思う。
「始まりの女神様の初めての我が儘に、妹である三つ子達は、応援するよ!と初めははしゃいでいた。だけど、それは本心じゃなかったんだ」
「と、言うと?」
裕翔さんが相槌を打つ。
「うん。実は、三つ子は始まりの女神様を疎ましく思っていたんだ。いや、三つ子と言うよりは、シルビアーナが、と言った方が良いかな?ほら、アレは気が強いわりには人生経験が浅くて、恋愛感情なんて持ち合わせていなかったから、まして地上の人間と、しかも何の功績も無い、普通の男に惹かれる姉が許せなかったんだろうね?」
くっくっく。と嘲笑する様に笑いながら、魔王は更に続けた。
フ、と僕の隣を見ると、普通なら《そんな事は無い!》とか言いながら割って入りそうなコローレまで、何故か魔王の話に耳を傾けている。
僕は、そんなコローレの態度に不思議に思いながらも、宇美彦と月島さんに回復魔法を重ねがけしつつ、魔王の方へまた意識を戻した。
悪巧みを始めたシルビアーナに対し、ブロナーとスカーレットは本気で始まりの女神を応援していた。
寿命が無い彼女達と、すぐに死んでしまう人とでは時間の流れが違いすぎる。その事を先ず考えた2人は、天界へ男を呼ぶことを考えたんだ。
でも、その案はすぐに始まりの女神様自身によって却下された。
当然だ。彼女は下界で精一杯生きる彼に惹かれたんだからね。
だから、始まりの女神はこのまま、彼を見ているだけで良かったんだ。
でも、それに反対したのは、他ならぬシルビアーナだった。
奴は、始まりの女神様に《彼を此処へ連れてこられないのなら、貴女が行ってはどうか?》と告げたんだよ。
ふふふ。下界に憧れていた女神様に取って、その言葉はどんな言葉よりも甘く、輝いて見えた事だろうね?
しかも、それが可愛い可愛い妹からの進言だ。堪らなく甘美な言葉に聞こえた筈だよ?
魔王は、此処まで話すと不意に悲しそうな表情を浮かべ、
「そうして、女神様は下界へ堕ちる事になったんだ」
と、続けた。
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