二百三十八話目 スペアとイチ
11月13日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「俺の名はイチ。陛下より名前を賜った、あの方の影だ」
口元を隠した黒尽くめのスー君は、静かな声音で淡々とそう話した。
たぶん、彼もカベルネになれなかったスペアの1人で、僕がやった様に魔王が魔力を与えて助けたのかもしれない。
髪の色が真っ黒なだけで、スー君に本当にそっくりだったんだもん。誰だってそう思う筈だ。
よし!君の事は黒スーと呼ぼう!!
「貴様」
「ひっ!」
黒スーは、スー君……こっちは白いから白スー君?いや、スー君はスー君か。
黒スーはスー君を見つけるなり、忌々しそうな物を見た。とでも言う様に、憎々しげな表情へと変え、スー君をギロッと睨み付けた。
睨まれたスー君は、今までも青かった顔を更に真っ青にしながら、裕翔さんの腰の辺りまでしゃがみこんで隠れる。
腕を裕翔さんの腰に回して隠れているので、《隠れる》なんて言っても丸見えです。スー君きゃわわ。
「何故魔王陛下に背き、こいつらについた?陛下の温情でのみ生きている貴様が、何故だ?答えろ!」
そんなスー君を未だ睨み付けながら、黒スーはスー君に対して声を荒げ、恫喝する様に問いかけた。
「ひっ!……ぼっ、僕は、シエロに助けてもらったんだもん!まおーさまは、スーを殺そうとしたでしょ!?」
それに対し、スー君は怯えながらもそう返す。
頑張れスー君!後は裕翔さんの腰からチラッと顔を出しながらじゃなきゃ100点だったよ!!
……じゃなかった。
「僕を挟みながらスー君を苛めるな!!」
《ドパゥッ!》
「くっ!?」
いくら僕がチビだからって、僕を飛び越えてスー君を言葉の暴力で攻撃するとは何事か!?
僕は目の前の黒スー目掛け、無詠唱で行使できる最大級の灯りの魔法を放った。
今の僕の練度ではバスケットボールくらいの大きさの光る玉くらいしか撃てないけれど、不殺傷なただの灯りだって目眩ましや不意をつくにはもってこいだと思ったんだ。
威嚇にもなるしね?
「チッ!」
さて、案の定黒スーは、ただ大きいだけの灯りに驚き、わざわざ空間魔法まで使って僕の側から離れた。黒スーに向けて放り投げた灯りの玉は、ぴゅー。っと天井へ放物線を描くように飛んで行った。
馬鹿だな。何で魔王との戦闘を前に、自爆覚悟で攻撃魔法を使わなくちゃいけないんだっつーの。
僕は、わざわざ魔王の側まで転移した黒スーを、冷めた目で見つめながらそう思ったのだった。
「ふふふ。イチもまだまだだねぇ?あんなただの灯りに騙されるなんて♪」
「なっ!陛下、あれがただの灯りなのですか?」
「んフ。そうでしょ?そこのおチビさん?」
口元だけを出して、ニヤニヤと意地悪く笑いながら僕に向かって初めて魔王が話しかけてきた。
へぇ。一応裕翔さん以外も目に入ってたのか。
僕はそんな事を考えながら、コクリと1つ首を縦に振る。
すると、見る見る内に黒スーの目が見開かれていき、真ん丸の目で僕を凝視し出した。
そんな顔は、やっぱりスー君に似ていて、僕はちょっとだけイラッとしてしまった。
スーと黒スー
とでタイトル付け悩みましたww
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
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