二百十四話目 紛れ込んだ魔族①
10月15日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「兵士の中に紛れ込んでいた魔族は、うちの旦那様がいつも目をかけていた青年の姿をしていましたの」
お祖母様は少し悲しそうに顔を歪めながら、そう話始めた。
旦那様。とは、勿論うちの祖父さん。アーサー・コルトの事だ。
確か、祖父さんは北門でどこかの神父様の力を借りて、1匹のレッサーデーモンと大量のゴブリンを倒したんだったよな?
報告では神父様。としか聞かなかったけど、一体誰なんだろうね?僕の知ってる人かなぁ?
何て考えていると、
「その方の様子が少しおかしい。と、旦那様からお聞きしたのが今から7日くらい前だったかしら?すぐに陛下と宰相様にはご報告しましたの。調べるなら内密に、との事でしたので、私がそのまま請け負う事になりましてね?」
と、お祖母様は続ける。
かいつまんで言うと、いつもの様に稽古をつけたが何だかいつもと様子が少し違う事に野生の勘で気がついた祖父さんは、お祖母様にその話をした。
1週間前にその話を聞いたお祖母様は、早速王様の許可を貰い、独自に動いて調べる事になった。
その兵士とはお祖母様も面識があり、顔は勿論の事、仕草や癖なんかもある程度なら把握していたそうだ。
で、お祖母様は他の兵士に用事があったかの様に振る舞いながら、暫くその兵士を観察していたらしい。
まさか、おおっぴらに兵士を疑ってます。調べてます。って事にはいかないからね?それで、何だか密偵みたいな感じになったらしいよ?
……と、ここまで聞いてて思ったんだけど、王様の祖父さんに対する信頼感とか半端無いよね?おかしいくらいだ。
だってさ、普通、【少し様子がおかしい】とか言われたら、何か悩み事があるのか?くらいにしか思わないよね?
それを聞いて、パッとお祖母様に任せるから調査してみろ。
って考えには絶対ならないでしょ?普通。ねぇ?
「そうして、他の方々とお話をしながら暫く観察していたのですが、おや?と思う点がいくつかありました」
「と、言いますと?」
裕翔さんが相槌を打つ。お祖母様はニッコリ笑うと、また話始めた。
「その兵士は確かに剣術には優れた才がありましたが、魔術の方はからっきしでしたの。魔力量も、シエロちゃんの十分の一もありませんでしたのよ?
ですのに、彼と同じ顔をしたその兵士は、内包する魔力は相当なもので、魔力の質も陰の気を多分に含んだものでした」
「【陰の気】と、言う事は【闇】の?」
「えぇ、その通りですわ?勇者様。自分では上手く誤魔化せていると思っている様子でしたが、私の側に良く来てくれる妖精達が側に近付く事を嫌がる程でしたから、相当な闇の力を持っている。と分かりましたの」
「なるほど。それで?」
まるで寝物語を聞かされている子供みたいな顔をした裕翔さんが、続きを急かす。
お祖母様はまたニッコリ笑うと、続きを話始めた。
「すぐに兵舎から出て、私は陛下にご報告致しました。陛下はすぐに捕まえよう!と動こうとして下さいましたが、理由無く捕まえる訳にはいきませんでしょう?ですから、宰相様とご相談した上で、泳がせる事にしましたの」
お祖母様は楽しそうに話を進めていく。
泳がされた魔族は、泳がされているとも知らずに、コソコソと動き出した。
ばあさん悪巧み中ですww
本日も、此処までお読み頂きましてありがとうございました。
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