二百四話目 はめられた王国②
10月5日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
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《side:騎士》
「陛下!御無礼ながら申し上げます!彼等は強いです!!私は彼等があっさり負けるとは思えません!!きっと、連絡がつかぬのは魔族の使う怪しげな魔法で妨害されているのだと思うのです!」
ポツポツと宰相様と王が会話を交わす他は、シンと静まり返った宰相様の部屋の中で、俺の隣で同じ様に壁際に立っていた同僚が、突然大きな声を出した。
ギョッとしてそちらを見れば、泣きそうなのか、王への恐怖心からなのか、ブルブルと握りしめた同僚の拳は震えている。
許しも無く王に話しかけるなど、普通なら不敬罪も良いところな所業だが…。
「そっ、そうだな!そうだ!!勇敢なる勇者達の事だ!負けるなど有り得ぬな?一瞬でも疑ってしまったのが余は情けない。アストラ、許せよ?」
「勿体無きお言葉に御座います!!」
この国の王はあっさりと兵の不敬を許す。しかもこの王、兵の名前を全て覚えているらしい。
自分の部下全てを信じているから。とか?兵も家族だから。何て薄っぺらい感情を、この国では美徳とされているのだから、何とも笑えない笑い話だ。
事実、お前らの敵である魔族の俺に、此処まで侵入を許している時点でこの国は終わっているのだ。
まぁ、兵の名前や特徴を全て覚えている。とか言いやがるからそこだけは苦労したが、俺がこの国の通信網を操っていると知ったらコイツらはどんな顔をするのだろうか?
キヒヒ。何も知らず、我等が魔王陛下の軍によって、この平和ボケした連中が皆殺しになるのもオツってもんだよな?
あぁ。そう思うと、楽しみすぎて笑いそうになる。
俺は笑いそうになる口をギュッと真一文字に結び、その時が来るのをひたすら耐えながら待っているのだった。
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《side:門番A》
「くそっ!援軍はまだかっっ!?」
俺の横で、先輩が叫ぶ。
先輩の周りや、俺の周りには魔物の死骸が散乱していて、血の臭いでむせかえりそうな程だ。
「城へはさっき連絡がついた!すぐに援軍を送ってくれるそうだ!!皆!もう少しの辛抱だ。頑張るぞ!!」
「「「「「おーー!!」」」」」
隊長が檄を飛ばし、俺達を鼓舞してくれる。
隊長はいつも間違えない。だから、隊長がもう少し。と言うのなら、俺達はまだ頑張れる。
門番の俺達が食い止められなければ、門の中で暮らしている人達も、俺の、唯一の家族の母さんも、皆、皆死んでしまうんだ。
頑張らなければ。魔物の血や死体くらいなんぼのもんだ!くらいの気力で乗り切ってやる!!
「うぉおおおー!!」
俺は、気合いを入れ直すと、近くにいたゴブリンの首をはね飛ばし、勢いそのまま別の固体の腹部に相棒のショートソードを突き刺した。
隣では、先輩が自慢のバスタードソードをブンブン振り回しながら、ゴブリンやホブゴブリン達をバッサバッサと切り裂いていく。
士気は未だ高いまま。俺達は魔王軍に斬りかかった。
ーーー
ーー
「ヴォオオー!」
「ちっ!本当にキリがねぇ!!」
他の先輩方や隊長も、それぞれの武器を手に戦っている。が、しかし、何処から湧いてくるのか、門目掛けて襲ってくる魔物達は、一向にその数を減らす事が無い。
いや、寧ろ増えてる気さえする。
あれからどれだけの時間が経ったのか分からない。が、直ぐに来る筈の援軍は未だ来ず、俺達は徐々に疲弊し、削られていった。
「くっ!まだだ!!」
隊長が叫ぶ様に自身のアックスブレードを振り下ろせば、その剣は文字通り火を噴き、近くのゴブリンの体を焼き焦がした。が、その倒れたゴブリンの上を、次のゴブリンが気にした風も無く、歩いて踏み潰しながら進んでくる。
死体の上を次の者が歩き、また更に倒されては次の者が、と言う悪循環が続いているのだ。
「俺は、悪夢でも見ているのか?」
仲の良い同僚がポツリと呟いた。
俺に余力なんてものは無いが、何とか魔物達の隙をついて同僚の姿を盗み見る。見れば、彼は血にまみれながらブルブルと震えていた。
一体何が怖いんだ?いや確かにこの状況は恐怖でしか無いが…。
そう疑問に抱きながら、彼の視線の先を見ると、そこにはーーーー。
「嘘だろ?デーモン?」
ニタリ。と此方を見ながら笑う、悪魔が居た。
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新させて頂きますので、またお読み頂ければ幸いです。