百九十話目 勇者、剣に観察される
9月13日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
《『へ~?ん?なんや自分、もしかして目が眩んでるだけか?光が散ってるから、わいの姿がチラチラ見えとるだけやろ?』》
真っ白に染まった世界の中で、やけに目立つそのフワフワとした光は、俺の周りをふよふよと飛びながら、何やらブツブツ呟いている。
俺は。と言うと、不思議なものが見られた感動と、眩んだ目の衝撃で、言葉を放つ事すら忘れていた。
この光が、剣の正体なのか?と思うと、何故か涙が出そうなくらいに感激している俺がいたんだ。
『《ほれ、ユート!これ、何本に見える?》』
「えっ?あっ…。すいません。俺には貴方が黄色い光にしか見えなくて…」
剣の声に、ハッと我に帰る。
楽しそうな声に水を差す様で申し訳無く思いながら、何とかそう答えると、
《『そりゃそうや。わいらの姿が見える奴かてそう見えるもん。ほら、あっこにいる性悪魔女かてそういう風に見えてんねんで?』》
何て、あっけらかんと返された。
「え?」
《『せやからな?【視える奴】かてそんなもんやって。自分からかうとおもろいんやもん。ちょっとからかったっただけや』》
剣は、そう言いながらケラケラと笑っている。
俺の周りをふよふよではなく、グルグルとスピードにのって回っている事からも、1人大爆笑!って感じなのだろう。
なんだ。からかわれただけか。
《『ん?なんや、怒ったか?』》
グルグルがおさまり、今度は俺の目の前で光が止まる。
顔でも覗き込まれてるのかな?
「いえ、そんな事ないですよ。ただーー」
《『ん?ただ、なんや?』》
「ただ、目が段々慣れてきてしまって、貴方の姿が霞んできたのが悲しくて…」
怒っている様に見えたのだろうか?
まぁ、少しはムッとしたかもしれないけど、それよりも、今の俺には眩んだ目が治ってきてしまった方が今は重要だ。
話しているうちに目が慣れて、俺の周りをふよふよ飛び回っていた黄色い光の姿が、今は薄くなってきてしまっていた。
目の前にいてくれている彼の姿も、大分薄れていて、もう殆ど見えない。それが俺は、酷く寂しかったんだ。
《『なんや、そんな事かいな?声は普通に聞こえよるやろ?』》
「それは…。はい」
《『ほなら平気やん。ほら、わいのこのプリチーな姿が見たかったら、あっこの坊主が作っとった不思議なメガネ?っちゅーのんかけたらええねん?な?頼むで?相棒!』》
元気づける為。だって言うのは分かってるけど、それでも【相棒】って呼んでもらえた事が嬉しくて、俺は、
「はいっ!」
と、この日一番の返事を剣に返したのでした。
うん。我ながら単純なやつだよ。
《『ハハハ。良~い返事やんな?その調子で頼むでぇ?』》
でも、まぁ。剣が楽しそうならそれで良いかな?
この日、剣は【先代からの借り物】から、【俺の剣】に変わった。
そんな気がした。
◇◆オマケ◇◆
《『そう言えば、お前さんがさっき言っとった【勇者の試練】やけどな?そんな試練、ないで?』》
「え?」
《『せやからな?試験なんて、最初からあらへんねんって。あんなん周りの連中が、新しい勇者を構いたいだけや。自分真面目さんやろぉ?だから、からかわれてもうてんや』》
「そっ、そんな!?」
裕翔はその日、一番の叫び声を上げたが、その声は何とも情けない、ひっくり返った声だったそうな。
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