百六十一話目 伝説の盾
8月10日の更新です。
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「これが、私がナツヒコから預かっておった防具で、その名も、【精霊の盾】と言うのじゃ」
そう言って、ナデシコさんが取り出してきてくれたのは、ガラス細工みたいな繊細な物だった。
薄い緑色の、向こうが透き通る様な、ともすればトンボか何かの翅みたいな、少し細長い楕円形状の板で、ナデシコさんが出してきた物じゃなければ、絶対嘘だ~。って馬鹿にしちゃいそうなくらい脆そうな盾だ。
いや、【盾】って言われてて、一応反対側に取っ手っぽいのが透けて見えるから、かろうじて盾なのかな?って、何とか自分を誤魔化そうとしているだけで、どう見たって盾には思えない代物なんだけどね?
「こっ、これが本当に盾なのでござるか?拙者が一撫でしたら、すぐにでも割れてしまいそうでござるよ!?」
「むっ?浅黄、そなた主の言う事が信用出来ぬと言うのかの?」
恐れながら!と律儀に挙手しながら質問したアサギ君を、ナデシコさんがジロリ、と睨む。
「めっ、滅相もございません!しかし、余りにも軽そうに見えた故、拙者の大切な友人に、もしくはそのお仲間の盾、となるには心もとく見えてしまい申した。誠に申し訳のうございまする」
そう言って、片方の膝を畳に付けてひざまずいたアサギ君を見下ろした、ナデシコさんは、
「ふむ。まぁ、初めて見た者からすればそう見えるのかもしれぬのう?私も今までなるべく人の目に触れぬ様にして来たしの。浅黄、そなたの仲間を思う気持ちに免じて、今の無礼を許そうぞ。その代わり…」
と、言いながら、さっき何処からか取り出した扇子を広げて、自身の口元を隠した。
目は笑ってるし、此方から見たら、笑ってるのがまる分かりだ。
あれでいて、アサギ君に笑ってるのを悟らせない様にしているつもりなんだろうけど、今度は何を企んでるんだろう?
全く、この人と言い、リコレさんと言い、懲りない人ばっかりだなぁ。さぞや、ナツヒコさんは苦労した事だろうさ。
「そっ、その代わりに、拙者は何をすれば?」
あっ!呆れてる間に、アサギ君がナデシコさんの挑発を受けちゃった!?
しまった~。と思っていると、アサギ君の後ろで、フジさんが頭を抱えているのが見える。
アサギ君は、真面目過ぎるくらい真面目な子だから、ナデシコさんみたいな悪い大人におちょくられたり、騙されたりしないかが、本当に心配だよ。
って言うか、今が一番心配だよ!ナデシコさんに、何させられるの?
《パシッ》
「んフフ、よくぞ言ったのぅ浅黄。それでこそ、我が郷の若武者ぞ。では浅黄よ、この盾の強度を測る為に、思いっきり殴ってみるがよい!」
「え?」
口元を隠していた扇子を閉じて、ニヤニヤ顔を全開にしたナデシコさんが、左手に持っていた盾を突きだしてアサギ君に掲げてみせた。
あぁ、やっぱりその手の事をアサギ君に無茶ぶりさせようとしていたのか…。
勇者様から預かっているって言う大切な盾を、アサギ君が殴れる訳が無いって分かっててやってるとしたら、本当に意地が悪い。
「しっ、しかし…」
「何じゃ?やっぱり信用しておらぬではないか。よよよ、郷の子供に信用すらされぬとは、悲しくて堪らぬのぅ」
「そっ、その様な事は滅相もございません!分かり申した。拙者の全身全霊を込めたこの拳にて、その盾を、なぐっ、殴らせて頂きまする!!」
えっ?やんの?
アサギ君は、決意にうち震えながらナデシコさんを見上げた。
あのまま立ち上がったら、アサギ君の角がナデシコさんに刺さりそうだな~。とかぼんやり思いながら、何だかどうでも良くなってきた僕は、少し驚きながらも彼らを見つめた。
「うむ。よう言った浅黄!では、早速来るが良い!!」
「はっ!」
すっくと立ち上がったアサギ君は、着ていた赤地に黒の格子柄の着物をはだけ、右の拳を強く握る。
立ち上がった際、角は刺さらなかった。
残念だ。と、言ったのはリコレさんだ。僕じゃない。
「てりゃーーー!!」
さて、拳を強く握った赤鬼さんは、突進する様にして体全体から拳を打ち出した。
そして、それは吸い込まれる様にして、透明な盾へと進み、そしてーーーーー。
《ゴキリッ》
「ギャー!?」
アサギ君の拳を粉々に砕いた。
浅黄は特殊な訓練を受けています。決して良い子は真似をしない様にして下さ……え?しない?
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