百五十七話目 呼び方
8月6日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「して?坊やは私に何が聞きたかったのかぇ?」
いつまでも立ち話ではなんだから。と、ナデシコさん自らから屋敷の中に招待してもらった僕達は、畳に座って、上座に座るナデシコさんと向き合っていた。
そう、畳。
茅葺き屋根があるくらいだからって少し期待はしていたんだけど、久しぶりに嗅ぐ、この何とも言えない藺草の香りが、僕の心をくすぐっていく。
あ~。此処に誰もいなかったら、思う存分ゴロンゴロン転がってやるのにな~。
って、違う違う!
「はい。僕がナデシコ様にお聞きしたいの「違うのじゃ!!」は…。え?」
改めて僕が話し始めると、時代劇のお殿様が使う様な肘掛けにもたれ掛かっていたナデシコさんが急に言葉を遮ってきた。
明らかにムッとした顔で此方を見ているナデシコさんに、流石の僕も焦るし怯む。
「なに、か…?」
「違う!と言うておるのじゃ!」
少し怒気を含んだ様な声音にドキドキが止まらない。
えっ?マジで僕、何かやらかした?
何てビクビクしていると、何処から取り出したのか扇子を閉じたまま、ビシィッ!と僕に向けてポーズを決めながら
「様では無い!ナデシコちゃんじゃっ!それ以外の呼び名は、お断りなのじゃっ!!」
と、叫んだ。
「……………え?」
《ピチュチュ、チュチュチュ、チチチチチ》
静まり返った部屋の外で、数羽の小鳥が鳴いているのが聞こえる。
まぁ、要は、それだけ皆が固まった。って事なんだけど、そんな中、唯一動いた人がいた。
「……撫子様!そんな事どうでも宜しいではありませんか!今は、シエロさんのお話しを黙ってお聞き下さいませ!!」
「【そんな事】とは何じゃ!【そんな事】とは!!私は可愛い子ちゃんに名前で呼んで欲しいだけじゃあ!」
「下らなさすぎて、皆さんリアクションも取れない程ポカンとなさっているではありませんか!」
唯一動いた人。フジさんが、ナデシコさんを叱り飛ばした。
これには、流石のナデシコさんも怯んだ様で、
「うっ。そっ、そんな事ないのじゃ!」
と、返すナデシコさんの声に力は無い。
嫌々。と子供がする様に、ナデシコさんが首を左右に振ると、頭につけていた金色の髪飾りがシャラシャラと揺れる。
そうそう、ナデシコさんは、巫女さんが祭事の式典で、神様に舞を奉納する時の格好に良く似た服装をしているんだけど、口調が妾系だから、ちょっと違和感があるよね?
「フジ、そのくらいにしておかないか?話がちっとも進まないんだが?」
「え?」
「リコレ様?」
意外にも、2人を止めたのはリコレさんだった。
ギャイギャイ言い合っていた2人の動きが止まる。
「え?あ~。そうだの?時間は有限ぞ。無駄にするには惜しいものだしの?」
「撫子様がそれを仰いますか?はぁ。でも確かにそうですね?お客人をほったらかしにして良い。と言う訳でもありませんしね?」
ナデシコさんが目を泳がせながら、何度も頷く。
それに対して、フジさんは呆れていたけど何とか話を元に戻してくれそうだ。
こうして、リコレさんのお蔭で、ちょっとくだらない○○ちゃん騒動は幕を閉じた。
のかな?
撫子の格好は、赤い袴に白い着物。のスタンダードな巫女装束に良く似た格好に、金細工の冠状の髪細工をつけていると思って頂けたら有り難いです。
あんまりにシエロの説明が短いのでww、ここで補足させて頂きました。
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
明日もまた同じ時間に更新致しますので、宜しくお願い致します




