百五十六話目 白い腕
8月5日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
《しゅる》
と、白い蛇の様にしなやかな腕が、僕の頬を撫でる様に、首へと絡み付いた。
「え?」
「んフ。お主、可愛い顔をしておるのぅ♪」
頬を撫でていた手が、声と共に、僕を右へと振り向かせる。
振り向いた先には、鼻と鼻がくっつきそうな距離に女の子の姿があった。
「なっ!?」
「マスターからお離れ下さい」
「んん?何じゃこの精霊っ子は!良いではないか!もちっとかわい子ちゃんを愛子愛子させてくれたって良いではないかぁ~?」
【何?】もしくは【誰?】なんて口を挟む間も無く、咲良が首根っこ掴みながら、僕と女の子を引き剥がす。
もしかしなくてもさ。咲良さん、女の子の方も首根っこ引っ掴んでるよね?いくらなんでも、女の子は優しく扱わなきゃ駄目だよ?
「何がめごめごですか!全く、撫子様。お戯れが過ぎますよ?すみません、サクラ殿。当主様は私が引き取ります」
「ブー。藤はいけずじゃ~!」
「撫子様!当主御自ら、お客人にご迷惑をかけないで下さい!!」
そうこうしている間に、フジさんがペコペコと頭を下げながら、咲良が僕からひっぺがした女の子を回収していった。
その間。女の子の方はずっとブーブー文句を言っていたけど、それに対しても含めてフジさんに怒られている。
……って言うか、あの女の子がこの集落の御当主様だったんだね?
アサギ君から、当主様は昔から生きてるって聞いていたから、てっきりミイラ並みにしわくちゃのおばあちゃんが出てくるものだとばっかり思ってたよ。うん、ちょっと驚いたや。
だってあの子、僕と同じくらいか、下手したらサイちゃん、コウちゃん達くらいの年にも見えるもん。
あっ、でもさ、リコレさんとか、うちのピチピチのお婆様の件もあるから、この世界では年寄りって言っても一概に言えないかもだった。
何せ、種族によっては寿命が段違いなんだもんね?
「マスター、大丈夫ですか?」
と、咲良が右腕をあげて軽く振り向く様にしながら、僕に問いかけてきた。
「うん。ちょっとびっくりしただけ」
僕も咲良に答える。咲良が腕をあげてるのは、僕が咲良の腰に巻き付いて、咲良の影に隠れる様にして当主様を見ているからだ。
だって、当主様。出てくる時、気配とか全く無くて、ビックリしたんだもん!!
流石に子供っぽいとは自分でも思うけど、せめて胸のドキドキが治まるまでは許して欲しい。
「あぁん。そんなに怖がらずとも良いではないか~?ほれ、怖くないぞ~?」
「な、で、し、こ、様?」
当主様のナデシコさんが、フジさんに抱えられた状態のまま、此方に向かって、両手でチュバチュバッ!って感じに投げキッスをしてくる。
それに対してフジさんが眉間に皺を寄せて微笑んでいて、ちょっと怖い。
気づかなかったけど、フジさんはランスロット先生タイプかもしれないね?今もナデシコさんにお説教してるし…。
あっ、僕と目があったアサギ君がぎこちなく苦笑してる。もしかしたら、アサギ君も僕と同じこと考えていたのかも?
まぁ、それはさて置くとして…。
「あっ、あの、御当主様」
「んん?何じゃ?可愛い坊や、私の事はナデシコちゃんと呼んでたも?」
「……」
「……」
「何じゃそちら!何か文句でもあるのかの!?」
両方のほっぺに人差し指をそれぞれあてて、キュルンッ!と可愛いポーズをとったナデシコさんに、アサギ君とフジさんが、苦虫を噛み潰したみたいな表情を浮かべていた。
もしかしたら、僕もつられて苦笑いしていたかもしれないけど、まぁそれはナデシコさんのせいって事で。
本日も、此処までお読み頂きありがとうございました。
明日もまた同じ時間に更新致しますので、宜しくお願い致します




