百五十話目 発見
7月29日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「こっ、この小さな花が、我が村への入り口だとおっしゃるのでござるか?」
わなわなと震える指で、アサギ君が足下の真っ赤な花を指差している。
花は、菫に良く似た可憐な花で、薔薇の様に真っ赤な色をしていた。花はランスロット先生の真似をして、僕も薬草と一緒にいくつか育てているけど、これは初めて見る花だなぁ。
吸い込まれそうになるくらい綺麗な花なのに、ともすると途端に興味が薄れていく様な不思議さがあって、たぶん認識阻害の術式が組み込まれているのかもしれない。
「えっとね?うん。僕もどう言う原理か分からないんだけど、確かにそこから結界の反応があるんだ。アサギ君が言っていたのと同じ魔力の揺らぎも感じられるし、たぶん、そこが村への入り口。だと、思うよ?」
「思うよ?じゃなくて、完璧、正にそこが、村への入り口だ。アサギと言ったな?村人の君自体がソレの鍵になっている筈だ。そうだな…。花を優しく撫でてみると良い」
僕がアサギ君に答えると、それに被せる様にしてリコレさんが指示を出してくる。
って言うか、流石は森の一族の族長さんだよね?ふざけている様でいて、指示が的確だもの。僕じゃ此処まで的確な指示出しは出来ないや。
チラリとアサギ君の後ろを見ると、ランスロット先生も真剣な顔をして何かメモしていた。
おぉ。あのランスロット先生でも勉強になるって事だったんだね?うん。やっぱり凄いや。
「え……?こっ、こうでござるか?」
そして、それに応える様に、アサギ君も素直に花に手を伸ばす。
でもさ?撫でる。何て簡単に言うけど、下手したら花弁がバラバラになってしまうんじゃないかな?アサギ君も恐る恐る手を伸ばしてるし…。
あれ?
そんな僕の心配を余所に、伸ばされたアサギ君の指をしっかりと受け止めた赤い花は、気持ちよさげに彼の指を受け入れた。アサギ君も驚いた顔をしていたけど、段々と撫でる手がリズミカルになってくる。
いや。花を撫でてる手がリズミカルって、お前何言ってんだよ?って感じだけどさ、何だかアサギ君も楽しそうなんだもん。
《チリンッ》
「?」
アサギ君が花を撫でる様を、野郎5人で見つめていると、何処からか鈴の音が聞こえてきた。そして、少し間があって…。
《《認証完了。六条桔梗が長男、六条浅黄。帰還許可を申請……受諾されました》》
と言う、某おしゃべりソフトが喋っているみたいな、電子音声?って言ったら良いのかな?まぁ、少しキンキンした声が何処からか聞こえてきたんだ。
「なっ、何でござるかっ!??」
《《鳥居オープンまで、5、4、3、2、1……鳥居開きます》》
驚くアサギ君を、まるで無視してほったらかしにしたその電子音声は、ツラツラと独り言の様に捲し立てると…。
《ヴンッ》
《《鳥居展開》》
低い電子音と共に、足下にあった真っ赤な花が閃光と共に弾けた。
「何っ!?」
「まぶしっ!!」
慌てて目を逸らしたものの、近くに居た僕とアサギ君の2人は、モロにフラッシュみたいなその光を見てしまった。うぅ。チカチカして、目が良く見えない。
《チリンッ》
と、また鈴の音が聞こえた。
「ん?」
《シャンッ!》
と。それに引き続いて、今度は鈴が連なったみたいな音が聞こえる。
一体今度は何?と、目が見えないなりに身構えていると…。
「シエロ様、「アサギ君、危ないっ!!」」
と、咲良とランスロット先生らしき声が後ろから聞こえたと思ったら、すごい勢いで体が引っ張られた。
たぶん、咲良が僕のお腹に手をかけて、引っ張ってくれたんだと思う。
「ご無事ですか?」
少しの振動の後、頭上から咲良の声が聞こえてくる。
「うっ、うん。咲良ありがとう。何とか…。まだ目がチカチカしてるけど大丈夫…」
「それは何よりでございました」
「何だ?あれ?鳥居か?」
咲良のいつも通りの少し呆れた声に重なる様に、今度は葵君の困惑した様な声が聞こえてきた。って言うか、鳥居って何?
葵君の言葉が気になって、まだチカチカして、白く光が飛んだ、全体的にぼんやりとした世界の中で目を凝らす。
すると、薄ぼんやりとした緑色の中に、朱色の何かが見えた。
あ~。確かにあのシルエットは鳥居っぽい気がする?
「ん~?」
目をショボショボさせながら目を凝らしていると、朱色のボヤボヤに、突然肌色の何かが被さってきた。
そして、
「ったく、大丈夫か?ほれ」
《ポゥ》
と言う、呆れた様な声と共に、さっきのとは違う柔らかい光が僕の視界を包み込んだ。
「あっ、あれ?見える?あっ、リコレさん」
「ったく。油断大敵だぜ?ほら、治してやったんだから、ちゃんと見てみな?」
声と一緒の呆れ顔のリコレさんが、指差す方を見る。
するとそこには、向こうの世界の神社の入り口にある、真っ赤な朱塗りの鳥居が立っていた。
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新致しますので、また宜しくお願い致します




