閑話 勇者の杖
7月15日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
迷いの森。と噂される森の奥深い場所に、【森の一族】と呼ばれた耳長族の集落がある。
その集落は、本村と、5つの分村に別れた、不思議な造りをしていた。
何故そんな造りに?と問われれば、その答えは至極単純で、5つの分村は本村を守る為にあるから。と一族の誰もが答えるであろう。
では、その本村にある守るべきものとは何か。
勿論、族長を始めとする、爺様、婆様と言った、村の重鎮どころを守る為だ。と言うものも居るだろうし、それも間違いではない。
が、それだけが真実。と言う訳でもなかった。
《カツン……コツン……》
矢鱈と靴音が響く石造りの階段を、灯りも持たずに下りてくる人影があった。
どうやらその影は、階段脇の壁に、所々埋め込まれた魔道具の薄明かりを頼りに歩いている様だ。
魔道具の明かりに、ぼんやりと照らされて浮かび上がるその影は、どうやら耳長族の様だが、その見た目は驚く程に白い。
その人物は、その長い髪も、神官が着る様な裾の長い、ヒラヒラとした服も、その全てが白く、唯一色味のある赤い瞳は、どこか神々しさと儚さを伴っていた。
《カツン……コツン……》
階段を下っていく白い人物の表情は、薄暗い中においても楽しそうに口を弧の字に歪ませていて、その足取りも軽やかだ。
そして、
「~~♪~~~♪」
そのまま白い人物は、どこか調子っぱずれな鼻歌を歌いながら、石の階段を、底まで下っていった。
ーーーーー
ーーー
《カツン……》
最後の階段を下り、最後に彼ーーどうやら、この人物は男性の様だーーが踏みしめたのは、階段とはまた違った材質の床石だった。
階段に使われていた石材が、その形に丁度良い石材を組み合わせて貼り付けただけの簡単なものに対し、床に使われているものには微かながら魔力の流れを感じるのだ。
流れを探る様に見て見れば、床石には毛細血管の如き微細な魔方陣が彫られ、あたかも血液を身体に循環させる機構の様な魔力の巡りが感じられる。
そして、その血管から血を送り出すポンプたる心臓の位置に、1本の杖が突き立てられているのが見てとれた。
薄明かりしかない地下のこの場所で、その杖だけが浮かび上がっている様にも見える。
「久しぶり。元気だったかい?」
誰もいない部屋で、彼は誰かに問いかける。
勿論返事など返ってくる事は無かったが、微かに杖が光を放った気がした。
「ハハハ。そうかそうか、まぁ君も相変わらずだね?」
《ポゥ》
「ん?俺の方かい?こっちも相変わらずだよ。うるさい爺婆にこき使われて、毎日ヘロヘロだ」
《ポゥ、ポポゥ》
「ハハハ。ありがとう」
《ポゥ》
まるで杖と会話をしているかの様なやりとり?は、数分間続き、彼がそろそろ行くね?と言う別れの言葉を呟くまで続けられた。
しかし、その間、彼は決して杖に触ろうとはせず、杖に感情があるのかは分からないが、杖もその事を気にした風も無く、彼との会話を楽しんでいる様にも見えた。
「次来る時は、君の新しいご主人様が現れたよ!何て、良い話を持ってこられたなら良いんだけどな?」
《ボボボゥ!》
今まで淡い光を放っていた杖から、天井に届きそうな程の火柱があがる。
「ハハハ!そう怒るなよ。分かってるさ、お前がナツヒコが大好きだって事は…」
《ポゥ》
「それじゃあな?また来る」
《ポポゥ!》
まるで、じゃあな!とでも言うかの様に、杖が光った。
それを見て、
「おぅっ!」
と、彼は笑い、また、来た道を今度はゆっくりと上っていく。
《ポゥ…》
その様子を、杖は少し寂しそうに見つめていた。
ーーーーーーー
ーーー
《ガダダダダダダダダタ!!》
《ポポゥッ!?》
それから数日が経ったある日。
いつもの様にそこに佇んでいた杖の下へ、恐ろしいまでの勢いで彼が階段を下って下りてきた。
「おいっ!本当にお前の新しいご主人様になれるかもしれない奴がやって来たぜ?」
《ボゥッ!?》
杖が思わず漏らした火の玉を見ながら、彼はニコリと笑った。
閑話は杖とリコレさんのお話しでした☆
次からは新章となりますが、また一週間程お休みを頂いて、少し書き溜めて参ります。
相変わらず筆が遅くて申し訳ありませんが、一週間後の23日頃からまた再開致しますので、宜しくお願い致します!




