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百八話目 寿命①


5月30日の更新です

本日も宜しくお願い致します



《ズダンッ》


 凄い音をたてて、スー君の身体は床に叩きつけられ…なかった。


 グラリと揺れたスー君の身体を支えようと手を伸ばしたけれど、僕の手は空を掠めただけに終わってしまった。


 すぐ隣に居た宇美彦も、一緒に手を叩きあっていたアトラも身体を支えるのが間に合わない程、急な変化だった。


 じゃあ、何故スー君は床に叩きつけられなかったのか。と言えば、亜栖実さんが間に合ったから。


 一番離れた場所に居た筈なのに、彼女はスー君をしっかりとその腕で支え、


「あ、れぇ?クルクルするぅ…」


「宇美彦、スー君をソファに運んで寝かせてあげて?シエロ君はスー君に呼びかけて」


 と、スー君を抱き抱えたまま、茫然とする僕らに的確に指示を出してくれた。


「了解」


「分かりました!」


 宇美彦はスー君を亜栖実さんから受け取ると、すぐにリビングのソファに彼を横たえた。


 うちのアジトが、玄関入ってすぐリビング。な造りになっていて良かったと思った。


「スー君、聞こえる?どこか苦しい?」


 宇美彦と入れ替わりで、僕はソファに横たわるスー君の顔の横辺りに膝をついた。



《ギシッ》


 スー君が僕の方を見る。


 朦朧としているみたいだけど、どうやら意識はあるみたいだ。


《ギシッ》


 スー君が少し動く度に、ソファが少し軋む。


「スー君?どこか痛い?大丈夫?」


 今度はスー君の頭を出来るだけ優しく撫でながら問いかけてみる。


 すると、スー君はゆるゆると僕の方を見てくれた。何処か虚ろな瞳に、僕が写る。


「し、エロ?」


「うん、僕は此処にいるよ?」


「シエロ、おか、えリ~」


「……うん。ただいま」


 記憶が混濁しているのか、スー君はお帰り、と力無く2回繰り返した。


 勝手に目頭が熱くなる。今、泣いてる時かよ!と自分を叱責して、なんとか堪えて笑顔を作る。



「シエロ君、そのまま話しかけ続けて。葵、スー君はどうなるの?」


「スー君、寒くない?」


「だいじょぶー」


「スーは、寿命が尽きかけてる状態なんだ」


「そんなっっ!?だって、スーはまだ若いじゃないか!??寿命なんて…」


 僕の後ろで、亜栖実さんと葵君、アトラが話している声が聞こえる。アトラは葵君に掴みかかっている様だ。


 葵君の言葉を噛みしめながら、僕はスー君に話しかけ続ける。


「スー君、何か食べたいものとかあるかな?」


「おか、う?」


「お粥だね?分かった」


 風華に少しの間スー君を任せて立ち上がろうとした時、後ろからまた声が聞こえた。



「なぁ、何とかならないのか?」


「何とかならないかと思ってあちこち読み漁った。けど、見つからなかったんだ」


 アトラの言葉に、葵君の申し訳なさそうな声が続く。


「ぶっちゃけ、葵は今立ってるのが不思議なくらい消耗するまで力を使ってくれたよ。でも、見つからなかった」


「スー君は、魔族の大将の為に作られた予備の身体なの。で、予備である為に、何もかも最初から空っぽの状態で作られていてね?ほら、身体を移す時に中に他の誰かが居たら困るでしょ?だから、本当ならスー君の存在は異質な者だそうなんだ」


「要は、スーは元々人型の人形で、何かの拍子で人形に魂が宿ったのがスーって訳だ。だけど、魂が宿っても魔力までは宿らなかった」


「この世界の生き物は皆魔力が高いほど寿命が長くなる傾向にある。だけど、逆に言えば魔力が低ければそれだけ短い。と言う事にもなるんだ。それがまして無いとなれば…」


 亜栖実さんの説明に付け加えて話していた宇美彦が、言い淀む。


《ギリッ》


 僕は亜栖実さん達の話を聞きながら、唇を噛んだ。




本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。

明日も18時頃更新致しますので、また宜しくお願い致します。


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