百六話目 緊急事態
5月28日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
 
《バタバタバタバタ》
王都の石畳を鳴らしながら、僕達はアジトへ向け、全速力で走っていた。
「おっ?ありゃあアスミ様達じゃねぇか?」
「本当だ。あんなにお急ぎで、どうしたんだ?」
しかし、平日の真っ昼間の大通りは行き交う人も多く、普通のスピードでさえ上手く前に進む事が出来ないでいた。
ましてや、今は僕もだけど彼らは勇者パーティーのメンバーで、超がつく程の有名人だ。目立つ事、この上ない。
流石に取り囲まれたりはしないものの、人が彼ら見たさに更に増えるのも無理は無い。無理は無いんだけど!!
僕は、街中で転移の魔法が使えないと言う決まりが、今日ほど腹立たしく感じる事は、後にも先にもこれっきりだろうな。と、やきもきしながら考えていた。
「シエロ君、裏道から行こう!」
「そうだな!こう人が多くちゃ、ぶつかってしまう」
「分かりました!」
亜栖実さんの先導で、僕達は平日でも人だらけな大通りを避け、脇道に入る。
《バタバタバタバタ》
大通りよりは狭いが、殆ど人がいない裏通りのお蔭で、僕達はまた走るスピードを上げる事が出来た。
遠巻きに見ていた人達も、流石に後を追いかけて来る。なんてガッツのある人もおらず、ちょっと胸を撫で下ろす余裕も出てきて、さっきまで感じていた苛立ちも少しは増しになった。
後、少しでアジトだ。
「スー君…」
僕の呟きは、4人分の足音に掻き消された。
◇◆◇◆◇◆
《side:???》
時間は少し巻き戻り、シエロ達が瓦礫の山と化した、元魔族の研究所から飛び出して行ったすぐ後の事。
転移魔法を使い、姿を消した彼らを見届けていた影が、物陰より姿を現した。
「勇者一行、研究所を後に致しました。矢鱈と急いでいる様子ですので、おそらくは、何か掴んだものかと…」
《「そう。フフフ、間に合うと良いねぇ?」》
物陰から現れた黒尽くめの男【イチ】は、フフフと笑うフードの男の笑い声を、通信端末越しに聞いて、首を傾げた。
今、この場にフードの男が居ないからこそ出来る仕草でもあったが、無意識で出てしまった仕草故に、イチ本人も気づいてはいない。
「恐れながら、間に合う。とはどの様な?」
《「あぁ、イチも知らないんだっけ?んーとね、君達カベルネのスペアは、元々あいつの魔力とか意識を移す為の器でしょ?」》
「はい」
《「で~、それらが入る様に、魔力の限界容量とかは多めに作られてるんだけど、最初から満タンに魔力が入ってたり、自我何かがあったりしたら、カベルネのが入る分が無くなるじゃない?ほら、自分の依り代に抵抗されたりしちゃったら困るでしょ?」》
「…はい」
《「だから~、君達は最初から空っぽのお人形さん状態で生まれるの。カベルネが中に入るか、僕が自我なり何なりを作り出して君達に埋め込むまでは、何もかも空っぽのまま、って訳さ♪」》
「そう、だったのですか…」
《「うん!そうだよ~♪だから、いくら勇者がスペア君を匿ったとしても、魔力が無いただの人形がカプセルの外で活動するなんて、もって1週間。それ以降は体の保持が出来ずに崩壊していくだろうね?寿命ってやつ?フフフ、どうやったか知らないけど、血相変えて飛び出して行ったのなら、たぶん、そんなスペアの秘密を知っちゃったんだろうね~?」》
「………っっっ」
イチが息を飲む。
《「大丈夫さ、君が助け出した仲間達を死なせたりなんかしないから。さぁ、早く僕の所へ連れておいで?僕がすべからく救ってあげるよ?フフフ、ハハハハハハハハハハハハハハハ」》
「………」
イチが黙り込む中、通信機から響く、フードの男の高笑いだけが、辺りに木霊していた。
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新致しますので、また宜しくお願い致します。
 




