百五話目 扉の先の光景
5月27日の更新です。
本日も宜しくお願い致します!
「じゃあ、開けるぞ?」
《コクリ》
宇美彦の言葉に、皆は頷いて了承の意を唱えた。
こういう、中が分からない扉を開ける時は、大抵宇美彦が開ける事になっているらしい。
これは別に意地悪とかではなく、宇美彦の防御力が他の誰よりも優れているから。何だそうだけど、ついつい、いつでも回復魔法が放てる様に、と身構えてしまうのは仕方が無いと思う。
《キィ~》
重厚そうに見えた扉は、意外にも軽い音をたてながら開いた。
何とも見かけ倒しだな?何て思いながら、徐々に開く扉を見つめながら身構えていたが、特に何も起きる事は無く、宇美彦が怪我をする事も無かった。
ホッとひと安心だ。
「おや、中は真っ暗ですね?」
「中にはあの不思議素材無いのかな~?」
月島さんと亜栖実さんが呟きながら、部屋の中へと入っていく。
入り口の近くなら、まだ階段からの灯りで薄ぼんやり見えるけど、あんまり進むと転びますよ?
と、2人を止めようとすると、
「シエロ君、悪いけど灯りをお願いしてもいいかな?」
「あっ、はい。了解です」
と、裕翔さんからの指示が飛んできたので、
「《光操作:光の玉》」
《ポシュッ、ポシュシュッ》
とりあえず、3つの灯りを出してみた。
LEDの電球をイメージしながら出した光の玉は、3つしか無いとは言え、部屋の中を結構明るく照らし出す。
「おー、明るい~♪」
「これで探索が楽になる…な……」
先頭を行く宇美彦が、途中で黙り込む。
それもその筈だ、扉1枚隔てた先がぐちゃぐちゃだったのだから。
「何だこれ…」
「ふむ。壁や天井は無事な様ですね。これも先から暴れていたと言う輩の仕業なのでしょうか?」
裕翔さんの言葉に冷静に答える月島さん。
確かに彼の言う通り、壁や天井にはヒビ1つ無い。
それなのに部屋の中は文字通りぐちゃぐちゃで、研究に使っていたらしき機器や棚、パイプだったらしき金属の筒やケーブルやらがそこここに散乱している。
中でも特に多いのがガラス片で、床が見えなくなる程ガラスで埋め尽くされていた。
「酷いな……うん。これがスーが入ってたガラスの筒みたいだな」
暫くガラス片に手を当てていた葵君が、顔を上げてそんな事を言う。
ガラスの記憶を読み取っていたみたいだけど、葵君の顔にはやや疲れが見えた。
さっきから力を使いっぱなしだからだろうけど、裕翔さん達はそんな葵君に少し休もう。とも、何も言わない。
黙々とそこかしこを触り続ける葵君の様子を、ただ黙って見つめているだけだ。
さっきの宇美彦の時もそうだけど、こう言う時、彼らは敢えて止めない。
それぞれの役目だ。と割りきっているのかもしれないが、そうでもしないと今まで生き残ってこられなかったのだろう。
今代の勇者は人死にが少ない。とは学園の授業で習った事だ。
けれど、それだってゼロな訳じゃなくて、少なくとも千人単位で人は死んでいる。
ぬくぬくと暖かな場所で守られて育った僕とは違い、彼らは此方へ飛ばされて来てから今日に至るまで戦い通して来たんだ。
だからこその行動なんだろうな…。
「ん?」
と、黙々と作業をしていた葵君が声をあげた。
「どうした葵?」
「何かあったか?」
裕翔さんと宇美彦が葵君に声をかける。
「あぁ。と言うか、分かった」
「何だ?」
「うん……」
言い淀む葵君。
何かとても言いづらい事の様だ。
「ふぅ。あのな?」
1つため息を吐きながら立ち上がった葵君は、クルリと此方に向き直ると、重い口を開いた。
「スーが危ない」
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