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異世界の太陽に焼かれて  作者: わをんわをーん
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第十九話「反撃よ!」


 宗一郎を追って二人の軍人が出て行った後、シンシアは悲しむのをやめ、宗一郎を助けるべきか、助けないべきか、迷っていた。


 (助けるとして、店はどうなる?ここまでやっとのおもいで繁盛させたんだ。捨てるのか、えっ?そんな事できるわけがない!私自身も共謀者でさらし首だよ。身元も姿も見られてるんだからさ……

 ……そうだよ……)


 階下から爆発音のようなものが聞こえてきた。何かが激しくぶつかり合う音も聞こえ、建物自体が地震のように一瞬揺れた。


 (ああ、それに和知氏が出て行ったところでどうもなりゃしない。相手はスベガミ教会の特設部隊員二人だ。司教クラスの魔法師を連れて来ないと相手にならないよ……。

 ……、

 ……どうやっても無理だ、逃げきれっこない……のはわかってるのに、なぜ私はどうやれば宗一郎が助けられるだろうか考えてんだい!?

 どうして!?)


 階下からまた爆発音のようなものが聞こえ、激しくぶつかり合う音、そして振動が建物全体に響いた。


 (……。

 ……ようはつまり……だから、身元不明の司教クラスの魔力の持ち主に二人と戦ってもらって、宗一郎と一緒に逃げてもらって、私はただ店で戦闘が行われて被害を被った店主として、変わらずここで暮らし続ける……。

 というのなら……こういうシナリオなら、助けてあげても良いよ……。しかしそんな荒唐無稽な、ご都合主義な……

 ……、

 ……、

 ……そうだよ……私は……)


 シンシアは、決心をして、顔を上げた。


「フーリ!起きな!」


 シンシアは変わらずぐすか寝ているフーリの頬を全力で往復ビンタをして叩き起こした。


「むにゃむにゃ、なーに?」

「フーリ、よくお聞き。今軍人が乗り込んできて、下で宗一郎を連れて行こうとしているよ!」

「なにー!」


 フーリはそれを聞くと勢いよく立ち上がった。


「そうだよ、ぶっ殺すんだろ、宗一郎を助けるんだろ」

「うん!

 よーし!じゃあ行って――」

「――待ちな!」


 駆け足のポーズをとるフーリを静止すると、両手首のリングを外していった。


「良いの?おばあちゃん、外して?」


 フーリがしていた金のリングは、魔力拘束具であった。強制的に魔力を半減する効果を持っている。これを使わないとまた建物を一棟丸ごと破壊してしまうかも知れないと、強制的に付けさせられていた。


「良いんだよ、もう必要ない。お前さんはちゃんとコントロールできる。だからもう必要ないんだ。

 良いかいフーリ。相手はぬちゃくちゃ強いからね、こっちもこの店がつぶれない程度に本気で行くんだよ!

 それとあと、もう一つ!」


 と言ってシンシアはタンスから自分の、肩まで覆う大判の日焼け防止用マスクと、つば広防止と、顔全面覆う大型サンバイザーをフーリに装着させた。


「ええええ!

 何これぇ!?」


「黙ってな、正体がばれないためだよ!」


 シンシアは残るは体だと、昔来ていたパンクロックな、キスレブ語で「勃起」と背中に大きく書かれたジャケットを着せた。


「ブカブカだよ、この服?」


 余った袖をフーリはブラブラさした。


「さっこれで準備完了だよ!


 良いかい、宗一郎と一緒に逃げるんだよ。絶対だよ、絶対軍に連れていかれちゃだめだからね!」


「わかってるって!


 じゃ、ちょっくら行ってくるわ!」


 フーリは脱兎のごとく居間から飛び出していった。


(できる!

 この子なら宗一郎を助けられる!)


 シンシアは出て行った扉の先をしばらく見守るように見ていた、


   ◇


 フーリが階段を駆け下りると、とりあえず目についた警備兵三人を無詠唱ザーポリで店外に吹き飛ばした。外にいる何人もの警備兵が、扉を突き破って飛んできた仲間と大量の水に何事かと動揺して戸惑っているのを、フーリはチャンスと外へ踊り出て、突っ張りの動きで無詠唱バッセを連射していく。


 店の前に居たやじ馬、トイ車含め何もかもが、カルカット・バーの半径一チョーから居なくなった。


「よし!」


 と、自分の仕事に満足げにうなずき、踵を返して店内に戻っていくフーリ。


 店外での異様な騒ぎに気づいたノーはソファからおもわず手を放し、入口の方を打ち振り向いた。


「なんだ?何の騒ぎだ?」


 グレイブレも異変の方に気を取られ打ち振り向く。


「レジスタンスの奴らが来たか?」


「その可能性は……、

――ん?」


 その時ノーの視界に入ったのは、日焼け対策をこれほどまでもとした子供――フーリはホールへとやって来た。少女の目に軍人二人が映る、その刹那、無詠唱バッセを軍人二人に向けて連射した。


 しかし、ノーとグレイブレも反射的にバッセを連射し、相殺していく。


 右手をノー、左手でグレイブレの相手をしていたフーリであったが、分が悪いと驚き感じたのはノーと

グレイブレの方であった。


 二人ともが押されていた。じりじりとバッセ同士の打ち消しあう衝撃波が、彼らにじりよって来きているのをどうしようもなく堪えるのに精いっぱいだった。


 特に押されていたグレイブレは、たまりかねてノーに合図をすると、二人は同時にイデデで宙に飛び上がって、二人で連携強化したパッセをそこら中に連射した。


 ホール内が強烈な光に包まれる。


 その隙をついて後ろに回ろうとしたノーとグレイブレであったが、シンシアの強力なUVカット仕様のサンバイザーがフーリの目を守っていた。


 少女は後ろに回ろうとする二人に、振り向きざま、


「隙ありぁ!くらいやがれえぇ!!」


 全力のザーポリを食らわす。


 ホールが水没する量の水と強烈な水流に飲まれ、二人はなすすべなく、大量の水と共に入口から外へと噴出されるしかなかった。


 フーリは、さあ他に敵は居ないかと見渡すと、調理室から顔を出して覗いている水浸しの警備兵に気づいた。


「ひゃっ!?」

「こっち見たぞ!」

「逃げろ!」

「逃げろ逃げろ逃げるぞみんな!」


 調理室にまで歩み寄ったフーリはなぜか警備兵が逃げて居なくなったので、他にはと探していると、舞台下に、宗一郎が水浸しになって、こちらを伺っているのを発見する。


「ああ、ああ、宗一郎!!」


 見つけた途端、フーリは全速力で駆け寄って宗一郎に飛びつき、抱き着いた。


「ああ、やっぱりフーリか」

「うん、そうだよ!」


 そう言って、日焼け防止グッズを脱ぎ捨てる。


「何だとおもったよ……もう、何なのその恰好?」

「助けに来たんだよ!正体がばれないようにっておばあちゃんが……ううぅ……宗一郎、会いたかった、寂しかったよぉ!」


 フーリはもう一度きつく抱きしめた。


「三日だけじゃないか」

「ううん、ううん、もう一日も宗一郎と離れたくない!」


 と言って、フーリは宗一郎の目をじっと見つめた。


「……うん……僕もだよフーリ……だから早く今のうちに逃げよう」


 二人は立ち上がった。


「調理室の裏口から出よう」

「よし!」


 再び日焼け対策グッズを着こむフーリ。

 そこへ、


「宗一郎様!」


 と呼ぶ声が響く。調理室の扉から入って来たボンテージ姿のセミナであった。

「ああ、セミナさん!」


 (ていうかいや、セミナさん、なんて格好だ!?)


 セミナは駆け寄っていくと、異様な格好の子に、


「フーリ……よね?」


 と尋ねた。


「うん、そだよ!」


 フーリはサンバイザーを上げて顔を見せる。


「フーリ、外で私含め警備兵を吹き飛ばしてくあなたを見て確信しました、あれはフーリだって!」


 セミアは、その事がよほど嬉しかったのか、少女のように打ちほほ笑んだ。


「えっ!吹き飛ばしちゃってた?ごめんなさい」

「良いんですよ。イデデを唱えて逃げましたから。


 それで、あなた達がまだ店の中に居るというのがわかって、私は宗一郎様に伝えに来たんです」


「僕にですか?」


「はい、アギラ・ヴァカンツァ船長の居場所がわかりましたよ」

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