火山と炭鉱の町──ラトシュ①
あれから少し歩き、無事?に街へと到着した俺たちは辺りも暗くなり始めてるのと先の疲れもあるので宿屋に来ていた。
部屋は別々、と言いたいところだけど生憎部屋は1つしか空いてなくて、しかもシングルというもうドキがムネムネしちゃう展開になってしまっている。
いや、断じてそのような問題は起こしませんよ?むしろ起こせません。
知ってる?童貞だっていいじゃないか、人類だものって言葉があること。教科書でるから、本当覚えといて。
かくいう俺はアイシャが入浴なんて始めてしまうもんだから、もう大変。
宿に着くなり。
「あー、もう無理、汗が。私先にお風呂入るね、覗いたら蒼真くんの中にスライム召喚するからよろしくー。」
って。
これで欲望に負けて覗きに行ったとするだろ?
そして運良くアイシャのアイシャを見ることができたとしよう。
次の瞬間には自分の全身の毛穴という毛穴からスライムが溢れ出てくるところを想像してほしい。
行きますか?
──否。行くわけがない。
と言うわけで、俺は1日の振り返りを始めた。
まず朝だ。起きてからMHSを起動するまでは良かった。いつもと変わらない日常が始まりを告げていた事だろう。
ただし問題はその後。
要請があったと画面に現れたと思ったら、ものすごい成功確率の低さのイベント的なものが発生してて、失敗したらと思ってヤケクソだったけど──多分失敗したらこことは別の世界に召喚されてる──なんとか突破して、この世界?に来た。
状況として言えば、アイシャに呼ばれて来てみたら、MHSでのキャラのステータスが俺に宿ってた。ただしここは別の世界で、あなたはMHSからの友情出演ですってところか。
仮に、ここがMHSだとするなら街とそれ以外とをつなぐ道を歩けたのが疑問として残る。
ゲームをしたことがある人ならわかると思うけど、マップとマップを行き来する時には決まって読込が発生する。
その間、キャラが歩いて次のマップに向かっていると考えることもできるけど、そもそもの話としてその道は組み込まれてないはず。
となれば、さっき俺が呼ばれた地点からこの街に来るまで歩いて来たという事は、この街を含めてのマップか、あるいは別の世界ということになる。と思う。
さらに言えば、俺はこの手のマップを見た事がない。オープンフィールドのゲームもあるけど、やはり街だけは安全地帯のようで通常は敵が入って来ることは無かった。
ここまで考えて、ようやく自分の置かれている状況を理解した。
ひょっとして異世界に転生しちゃってチート並の強さ発揮して、美女に囲まれながらこの先過ごしていく勝ちルート確定なのでは……?
まずい、これは非常にまずい。
考えて欲しい。
言うなれば、アイシャは1人目のヒロインということになる。つまり、物語はすでに始まっているという事になる。
こんなにも冷静に頭フル回転してるの初めてかもしれない。
でもそうでもしないと俺の厨二心が疼いて止まらないどころか表情筋を最大限緩めてしまうのは目に見えている。
そんな顔をアイシャに見られてみろ。
「何ニヤついてるの?」
そう言われるに決まって……。
「……え?」
備え付けのバスローブを羽織ったアイシャが唐突に言葉をぶつけて来る。
「何考えてるか知らないけど、見た事ないくらい気持ち悪い顔してたよ。」
うっ!?
──アイシャの精神攻撃!
──蒼真のHPに9999のダメージ!満身創痍!
──蒼真の物語はここで終わっている。
──え、いや、まだ終わりたくないしなんなら始まってた事に気づいたばっかだから待って。
「アイシャいきなり酷くない?おかげで精神破壊するところだったからな?」
「あはは、ごめんごめん」
顔を火照らせたアイシャが、風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながらさらりと謝って来た。
いや、もう、いい匂いするし可愛いから許す。
というかこんなシチュエーション初めてだし、可愛くなくても許す。
「あ、許す代わりに教えて欲しい事があるんだけどあとで時間いい?」
「うん、いいよ!私でわかる事ならね」
「ありがとう。とりあえず俺もお風呂借りてくるから、話はそのあとよろしくな」
「あ、着替えとかは全部置いてあるからそれ使っていいからね!」
それを聞き、バスルームに移動したところである事に気づいた。
後で聞いてみよう。
そう思い、まあそんなに大したことでもないかなと考えて今はひとまず体の汚れを洗い流す事にする。
ここが違う世界だとして、頭や体を洗う洗剤はどうなんだと思ったけど、その辺りは俺の家のそんなに変わらなかったので一安心だった。
1つ違うとすれば、水晶のようなものに触れるとそれだけで湯船にお湯が現れたりシャワーが出たりと、自分の考えた通りにいろんな事が起こった。
最初はちょっと戸惑ったけど、多分慣れて来るんだろうと思って湯船に浸かる事にした。
男子高校生の入浴シーンを細かく伝える俺、紳士的だな。
そうだ、ちゃんと筋トレとか始めよう。
この先美女が沢山来たとして、こんなよぼよぼのお腹じゃダメだな。
いや、決して太ってはないよ?
むしろ痩せ型だし。お腹がちょっとぷよぷよなだけだから、本当に。
まあそれはいいや。多分続かないだろうから、戦闘でそれを補う事にしよう。うん、それがいい。
なんて考えてるうちに、体が十分温まってきたから出る事にした。
そして、着替えて部屋に向かうと、ベッドで横になるアイシャの姿があった。
「あー、アイシャ。布団かけないと風邪ひくよ?」
俺も母さんに良くされたっけ……。
何にも言わずに居なくなっちゃったけど、心配して……るよな。
冷静に現状飲み込んできたけど、やっぱり早く元の場所に帰ることを目標にしとかないとな。
「おやすみ」
布団をかけ直してアイシャに挨拶をした後、適当に壁に腰掛けて目を閉じると、疲れのせいかすぐに眠りについていた。
「──私が…守るから……」
アイシャの声は、俺の耳には届かなかった。
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とある場所にて。
「状況はどうだ」
「──が、アースから────を召喚したようです」
「なるほどな。アースか。フッフッフッ」
「引き続き、動向に注視します」
「任せたぞ、人の子。──白野緋糸。フッフッフッ……」
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そして、夜が明ける。