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経験値ゼロの召喚士  作者: NAG
7/14

vs.スライム

少しだけアイシャに慰められた俺は、気を取り直して両手に現れた剣で素振りを行う。心配だったからだ。



全くもって初めての剣。ましてや学生時代はもっぱら帰宅部のエースを勤めてきた俺が、扱うことができるのか。



しかし、その心配は杞憂に終わる。



まずは右手を上げ振り下ろす。そのまま同じ軌道で振り上げる。今度は右上から左下に切りつける。丁度、剣道?か剣術?なんかでいう袈裟斬りというやつ。そして、そのまま地面と水平に剣を寝かせて右方向に剣を払う。



その動作を2、3回繰り返し、左でも同じことを行った。が、ここで違和感に気づく。



俺は左手で文字も書けなければ箸も持てないはず。球技なんかも左手で投げようとするとそれはそれは醜態を晒すようなものだった記憶がある。──なのにだ。



そのはずの俺が右手と同じ動作で動くことになんの造作もないことに、違和感を覚えた。



しかし動くものは動くんだから、そんなことを考えても仕方がない。



「そろそろ準備は良さそうだね。」



俺の様子を見たアイシャが声をかけてきた。



無言で頷き少し距離を取るために20メートルほど離れた。もちろん、アイシャを巻き込まないために。



どうやら俺は俺が思う以上に動ける。そんな気がしたからだ。



「蒼真くん、私は今からこの召喚したスライムに戦闘の指示を出すよ!そしたら全力で戦ってね!」



「いつでもどうぞ。」



その言葉を合図に、アイシャがスライムをこちらへ放つ。



すると、スライムはわずか2メートルというとこまで、あっという間に距離を詰めてきた。



はやっ!と思ったのも束の間。



次いで、地面に着地すると同時にこちらをめがけて体当たりをしてくる。それを避けるために体を右に逸らした。



が、うまく避けきれずに左肩に衝撃が走る。柔らかそうな見た目とは裏腹に、中身の詰まった重量級の攻撃だとは、少し油断した。



痛い!と叫びたくなる気持ちを抑え、スライムの追撃を受けないように、態勢を立て直す。



それを見てか、スライムも一度後ろに飛び退き様子を伺っているようだった。



お互いの距離は3メートルほどだったが、状況は明らかにスライムが有利だった。



圧倒的な跳躍力とそのスピード。



対して俺は、戦闘ど素人に加え短い得物が二振り。



そもそも、スライムがこんなに強いって聞いてないぞ?



レベル1の勇者が倒せるのに……。でもよく考えたら勇者も無傷とかありえないし、とりあえずできることからやろう。



そうと決まれば。



「ふぅ……。」



一度呼吸を置き、スライムから視線を外さずにMHSでの付加術師のスキルの一覧を思い浮かべる。



間違ってなければ、詠唱が出来れば発動してくれるはず。実際この剣がそうだったからいける。



まずはスライムとの差を考える。



力はわからない、守りは痛いけど多分耐えられる。速さは圧倒的不利。けど、全部試す。



腕力(アムド)守備力(ガルド)脚力(スピド)付加(エンチャント)!」



赤、青、緑に輝く紋章が地面に現れ、放たれる光が俺を包みこむ。



数秒で光が収まると、軽く体を動かしながらスライムの方向へ進む。



スライムは警戒態勢のまま体を動かし、うさぎのように跳ね始める。



来るか……。



俺が1メートルほど進むと、スライムが突然動き出した。



跳ねる動きを利用し、先ほどと同じ攻撃を繰り出す。が、今回は地面を強く蹴り横に飛びのく。



「うわっ?!」



勢いの良さに体が追いつかず、跳ね飛ばされたかのように地面に転がってしまう。



スライムがそんなチャンスを逃すわけがなく、避けられた先の地面を蹴り、俺にめがけてタックルをして来る。



これをかわそうとするが、その速さについていくことができず、今度は先ほどよりもしっかりと攻撃を受けてしまった。



あれ? あんまり痛くないぞ?



それどころか、攻撃してきたはずなスライムの方がダメージを負っているように見えた。



まるでよそ見をしていて電柱にでもぶつかったような、正確には自分から突っ込んできたんだけど。ある意味事故だよな。



そんなことを考える余裕さえあった。



少し痛がっているスライムに向け、全力で近づき、攻撃を繰り出そうとする。



しかしあまりの速さに攻撃が追いつかず、空振りをしてしまう。擬似的な、スライムはひらりと身をかわしたってやつだろう。



次こそはと考えているが、スライムとてじっとしているわけがなく、すぐさま次の攻撃へと転じていた。



だがここであることに気づく。スライムの動きはいたって単調な直線の動きしかない。



対して俺はその軌道から外れることで身をかわし、次の攻撃に転じることができていた。



なぜなら、攻撃をかわされた後のスライムは常に無防備な背中をこちらに向けているからだ。



避けては背中を攻撃。また避けては背中を攻撃と、繰り返しているとやがてスライムの動きは止まってしまった。



時間にして数十分だろうか。



「もうだめだ……。」



今までにないくらい頭をフル稼働させながら、なおかつ目の前のスライムとの戦闘を行う。



俺って実はちょっとやれるんじゃない?え?



なんて考えていると、アイシャから声がかかる。



「お疲れ! スライムを倒せるならここでもなんとかなるかな。ちょっと休んでからいこうか。」



「…………。」



返事をしたかったがうまく喋ることができず、頷くだけになってしまった。



横たわる俺。横に座るアイシャ。



あれ、俺こんなにコミュ力あったんだ……。それに疲れすぎてて勘違いしてるかもしれないけど、少しだけ力が湧いてきた気がする。



そんなことを考えながら、呼吸を整えた。



すると、アイシャが何かを聞き出そうに俺を呼んでくる。



「ねえ、これもあなたの能力?」



そして指をさされた方に顔を向けると、四角のウィンドウが現れていた。



それを認識した瞬間だった。



機械を通したような女性の声が頭に響き、ウィンドウに文字が表示されていく。



────────────────

メニュー起動



黒野蒼真 付加術師 LV.1

スキル数59


☆チャレンジ☆

スライム LV.7 討伐成功

exp 37 獲得


LV up! LV.1→3

SP 6 獲得

ステータスが上昇しています。



メニューを終了します。

──────────────



これがいわゆるレベルアップってやつか。あんまり実感は湧かないけど、たぶんそういうことだろう。



それまでの様子を見ていたアイシャが口を開いた。



「呼び出しておいてなんだけど。あなた……。何者なの?」



今の俺にもそれが分からず答えることはできなかった。



なぜ俺が呼ばれたのか、俺に宿った付加術師の能力は一体なんのためのものなのか、ここに来た時に持っていたあの本はなんなのか。



分からないことだらけだったが、ひとまず今は考えても仕方ないから分かることだけやっていくことにした。

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