それでもあなたが好きだった
ここは大きな総合病院。整形外科の待合室が、二人の出会いのはじまり。
「判ってたよ?最初から。俊哉が私と暇潰しの遊びで付き合ってたって。」
私は携帯電話をきつく握りしめながら、彼氏…と呼んでも良いか今となっては判別出来ない俊哉に迫った。
「亜希子!俺、お前の事愛してるよ?信じられないのか!?」
何か逆ギレにも聞こえる。俊哉が自分からメールを寄越さなかったり、何ヵ月も会うの先延ばしにしたりするから、私は彼は本気じゃないんだって悟った。
「なんで!じゃあ何であんなことしたの?あんたが求めたこと、私は全部やってきたのに!!試してたの?操り人形になるかどうかを!」
痩せろだの、メイクが地味だの…誉め言葉は「今日のお前、キレイだったぞ」だとお!?
私は彼の「髪は長い方が好きだ」という言葉と一緒に、美容室で髪をバッサリとショートにした。
「あーっ、スッキリした!」
小さな復讐を成功させたみたいな気分だった。
もう俊哉に媚びるのは止めにするんだ。
電話も次に会う約束も、あてにしない。
どうせまた、反故にされるのだから。
私は彼の一体何番目に大事な存在なのだろう?とふと思う。
日常生活に浮遊している薄い雲みたいなものか。
それとも加熱して溶けてしまった玉ねぎの様な存在か。
彼は私のことを滅多に名前で呼ばない。
それくらいどうでもいいという事か。
私は臆病だった。
自分からメールも電話も出来ないでいる。
それは臆病だからだけが理由じゃない。
タイミングが悪いときに掛けて、嫌われたくなかったから。
彼は自分勝手だ。よく言えば自由。
自らした約束を反故にして、次は?と繋げる事もなく「見たいテレビがあるから…」だとう!?
私はどうやらテレビ以下の存在であるようだ。
ムスッとして私はインテリよろしく(?)小説を読む事にした。
彼のメールには目を覆いたくなる程の日本語が並んでいた。
思わず添削してしまいたくなる衝動に駆られる。
「あーあ。謝ったって言い訳を最後に持ってきちゃ印象が悪いでしょうに」
頭の中で添削しているうちに私はうとうとし始めた。
果たして彼の国語力はどの程度なのだろうか?
「なーんか馬鹿馬鹿しくなってきた。さめたかも」
けれど、恋とは不条理なもので再開した瞬間、想いはぶり返すのである―。
「亜希子ー!この間のドラマ見たか?」
「見てない。興味ない。分からない」
「マジかよ?」
「ドラマは展開が速くて着いていけない」
「そっか」
「あたしさー、俊哉の趣味を押し付けるとこ大っ嫌い!!!」
「自分がいいと思った事が、他の人も必ずしもいいと思うとは限らないの!」
「それに共通の話題がなくても自然に話の種なんていっぱいある。それを拾うことが出来なかった私たちは、お仕舞いだね」
私はそうまくし立てて、俊哉のもとから立ち去った。
立ち去った、けど、まだ好きだった。
顔も、声も、笑うとふにゃあっと緩む頬とか、車に轢かれそうになった時に抱き寄せて護ってくれた時の事とか…忘れられない。
どんなに約束を破られても、私が一番大切じゃなくても…
それでも俊哉、あなたが好きだった―。
敢えて場所の描写を詳しく書きませんでした。




