クズな約束から始まった今の事。
「ここだよ」
学校から歩いて、一五分くらい。ついたのは……俺の家だった。
「ええっと……どこ?」
「ここ、ですよ?」
「うん。ここの家は、すでに誰か住んでますよ?」
「あ、違う違う。昔住んでた家じゃなくて、その隣――優夏の家だよ」
「ほう、俺の家……ん?俺の、いえ?」
おっかしいなぁ……俺、耳がおかしくなっちまったのかな?もしかして、鼓膜が破れたとか?知らないうちに。そうだ、そうに違いない。ほんとは、『夕方の家』と言ったはずだ。夕方の家ってなんだ?よし、ここは、もう一度聞いてみよう。
「もう一度言ってみ?」
「ゆうくんの、家、ですよ?」
さも当たり前かのように、言ってくるヒナちゃん。
うん。聞き間違いじゃない。……って
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
なんとも予想外な答えが俺の耳に届いたもんだから、素っ頓狂な声が出てしまった。これ後で、近所の人に謝りにいかないと。
「び、びっくりしたぁ……」
「はぅ……」
「いや、俺の方がびっくりだよ⁉マ〇オが、二〇代ぐらいと知った時よりも驚いたよ!ただでさえ、二人が帰って来ただけでも驚いてんのに、それに追い打ちをかけるように、俺の家に住むとか、何があったんだよ⁉」
こんなに驚いたの、ほんと久しぶりだよ!
「えっとね。この辺に住めそうなところがない、ってことは優夏も知ってるよね?」
「うん。そうだね」
だから何?そんなの、どこか探せばいいんじゃないか?……そんなこと言ったら、俺がさっき言ったことが矛盾しちゃうわけだが。
「その、そうすると、ゆうくんの家、しかないんです……」
おおう……なんてこったい……。なにやら、俺の生活環境がおかしな方向、ラノベにありそうな感じになってきたぞ?
このままじゃ、俺の人生という名のストーリーに、『ドキッ!双子姉妹の幼馴染と同棲生活!ポロリはなくとも、ラッキースケベならあるよ!』的なサブタイトルが付いちまう!
それだけは避けなくては!
「で、でもほら!うちには両親がいるし?そういうのは、ちゃんと許可をとらないと……」
「それは、大丈夫です」
「いや、何も大丈夫じゃないんだけど?」
「だから大丈夫だって」
「いやだから、何が?」
彼女らは一体何が言いたいんだろうか?
まさか!『こうすれば、私たち三人で暮らせるよね?(にこ)』みたいな感じで、親を殺す気じゃないだろうな?そんなことになったら、警察沙汰になる前に、俺の命が危険にさらされる!
「もう連絡して、許可は、とってあります」
「…………………ごめん。どうやら、耳が遠くなってしまったみたいだ。もう一度言ってくれるかな?」
「もう許可は取ってあるよ?」
どうやら、聞き間違いではないらしい。あの親、いつ許可したというんだ。
「というわけで」
「今日から」
「「よろしく(ね)(お願いします)‼」
「は、はは……」
もう、笑いしか出てこない……俺の生活、どんな方向に向かうのかな?
もしもこれがゲームだったら、ここでOPが入ってるよね。
「た、ただいまー……」
「「お邪魔します」」
玄関を開けて、とりあえず家に入る。さすがに外で、ってのはキツイものがある。
「あ、おかえりー……って、二人も一緒だったのね」
「はい。今日からお世話になります」
「よ、よろしく、お願いします」
「こちらこそね。自分の家だと思って、くつろいでいいわよ。あなたたちのことは、昔から知っているからね。もしこれで遠慮なんてされたら、こっちが困ったよ」
……話を聞く限り、うちに住むというのは本当の話らしい。
しかも、母さんさっきから嬉しそうだし。
まあ、子供が俺しかいないから、娘ができたみたいで嬉しいんだろうな。
「ええっと、部屋は……今日は、ちょっと狭いけど、優夏の部屋で我慢してもらえないかしら?」
とんでもない爆弾が今、投下された。
「何言ってんだよ、母さん⁉」
「なにって……言葉通りだけど?」
「そうじゃなくて!なんで俺の部屋なんだよ⁉」
「そんなの決まってるじゃない」
「は?」
「部屋が片付いてないからよ」
しれっとした顔でそう言いのけた。
「なんで、前日とかにやらなかったんだよ⁉しかも、いくら昔から知っているとはいえ、女の子二人を男の部屋に泊らせていいのかよ⁉」
襲わないように努力するつもりだが、いつ、なにが起こるかわかったもんじゃねえ。
仮に、一日だけだったら問題はないが、これから毎日過ごすんだ。一日だけでも結構問題だろ。
「大丈夫よ。優夏なら何もしないでしょ?」
「まあ……何もしない自信はあるけど……それでも問題だろ」
「たしかに、何かあったら問題ね」
「だろ?だから——」
言おうとしたところで、
「でもね、この二人の顔を見てみなさいよ」
「へ?」
そう言われて、その言葉の通り二人の顔を見てみた。
「……」
何とも言えなかった。二人の顔は、にやけているというような顔ではなかったが、どういうわけか、きらきらとした、期待の眼差しを俺に向けていた。
その眼差しはまるで、『襲われてもかまわないよ!』と語っているかのようだ。
「ね?それに、万が一何か起きても、優夏が責任とって、二人をお嫁さんにしてあげればいいんだし」
さて、今の発言におかしなところがあった。それはどこだと思う?
答えは、『二人をお嫁さんにする』だ。
「ちょってまて、母さん」
「なによ?」
「日本の法律に、一夫多妻制度はないんだ。そんなこと、できるわけないだろ?」
それこそ、他の国に行って、結婚式を挙げるぐらいの事をすれば問題はないだろう。けれど、そんな手間のかかることは普通しない。
「何を言っているの?優夏」
そこで、みいちゃんが会話に入って来る。
「なにが?」
「えっと、ゆうくんは、ニュース、観てない、んですか?」
「は?ニュース?」
なんでここでニュース?そんな要素、どこにもなかったじゃないか。
「もしかして、優夏は知らないの?」
「何がだよ?」
「日本の法律が一つ変わったこと」
「法律?」
ニュースの次は法律。これらに関連することはあっただろうか?いや、ないな。
「はぁ……どうやら、本当に知らないみたいね」
呆れているような感じで、母さんがため息を漏らす。
「……本来、この二人が戻ってきたのは、その法律が関係しているのだけどね」
うん?法律に、二人が関係している?どういうことだ?
なにか、犯罪でも侵すようなことを?いや、そんなはずはないな。仮にそうだとしたら、のんきに学校に行くことなんてできないからな。
「はぁ……それじゃ、この新聞を見なさい」
「わかった……」
母さんから渡された新聞を見る。というか、どこから出した。
けれども、そんなことはどうでもいいんだ。問題は、新聞の一面にでかでかと書かれていた記事。
そこには書かれていたのは……
「な、な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ⁉」
『新たに法律制定。政府、重婚認める』というものだった。
本来日本の法律は、重婚を禁止している。ここら辺は国によって違うのだが、日本は禁止側についていた。しかし、この記事、というか見出しだけ見ると、政府に所属している誰かが、重婚をしたみたいになっているが、内容は一切違う。
それだけなら、『こいつ、バッカじゃねえの?』程度で済む。しかしだ、内容が全く違っているので、頭の中がパニックになる。現実ってのは、よくわからない。
その記事の内容というのは、『日本では、重婚を認める』ということだ。
簡単に言うと、『あ、うちの国でも一夫多妻制度いれようぜー』的なノリになったということだ。
しかもこの記事に、その理由らしいものがある。
『少子高齢化対策』こう書かれていた。
……まあ、たしかに日本は、少子高齢化が進んでいる。これぐらいなら、俺の世代の誰もが知っていることだ。
たしかに対策はできるかもしれない。けどさ、そんな重婚を許したところで、そんなことができるのは、本当にモテていて、かつどれだけ仲がいいか、ということによって来るわけだ。だったら、こんな制度入れる必要がないよな?なぜ、入れたし。
「で、どう思う?」
そんな俺の思考をぶった切るかのように、母さんが聞いてきた。何が聞きたいのかは、さっぱりなんだけどな。
「何がだよ?」
「この制度の事」
「……何とも言えない」
肯定も出来なければ、否定もできない、そんなところ。
心のどこかで俺は、この事に対して、『嬉しい』そう思っているかもしれない。
だけど、それとは別に、『これはダメ』という考えも出てくる。
だから、どちらでもない。白でも、黒でもない。
選択肢、今回は少し違うかもしれないが、似たようなものだ。
肯定するか、否定するか、それぐらいの違い。
嬉しいと思った理由は、昔の約束の事。
ダメだと思った理由は、普通ではないこと。
ただ、約束の方は、二人が憶えているかによって来る。
……あり?そ、そういやさっき、『法律が二人に関係している』って、言ってたよな?
あれの意味、わからない……ここは、母さんに聞いた方が良いかもしれない。
「な、なあ母さん」
「なに?」
「その、さ。さっき、二人が戻ってきたのには、この法律が関係している、って言ってたよな?」
「うん。そうね」
「でさ、何が関係しているの?」
「え?憶えていないの?」
「へ?」
母さんが、きょとんとした顔で、言ってくる。
それにつられて、二人は悲しそうな顔をする。だから、なんで?
「優夏」
「ゆうくん」
二人が俺に声をかけたのは、ほぼ同時だった。
「私たち、昔約束したよね?」
約束……あれの事を言っているのだろうか。物語冒頭にでてきた、あれ。
「もしかして、憶えて、いないん、ですか?」
二人して、悲しそうな顔をする。
……憶えていない。そんなわけはない。一度も忘れたことなんてなかったぐらいだ。忘れてたまるか。
「憶えてるよ。二人をお嫁さんにする、だ、ろ……?」
自分で言って気付いた。
まさかとは思うけど、二人が帰って来たのって……
「まさか……俺と?」
「「……」」
嬉しそうに、こくりと頷く二人。どうやら、そういうことらしい。
……それだけで済みそうな問題ではない、そう思えてくるが。
「は、はは……ははは」
またしても、笑い出してしまう。そして、全身の力が抜けて、その場に倒れそうになる。
「ゆ、優夏⁉」
「だ、大丈夫ですか⁉」
倒れそうになる俺を、二人が支えてくれる。その時に、なにか柔らかいものが背中に当たっているが、そんなのを気にしている余裕はない。
「……わけがわからないよ」
そうとしか言いようがない。本当に、わけがわからない。
ある日突然、重婚が認められるようになるとか、どうなってんだ。しかも、よくこんなのが通ったな。誰が言い出したのかはわからんが。
もしかしたら、その辺の事も書いてあるかもしれないな。
もう一度、新聞を手に取って読んでみる。
「……ないか。ん?」
誰が言い出したのかは書いていなかったが、もう一つ、おかしな記事があった。
「……はい?」
「どうしたの?優夏」
「いや、なんか、結婚可能になる年齢の方も、変わってるなと思って」
ある意味、変わっちゃいけないところまで変わってないか?これ。
なんか……男女ともに、結婚可能年齢が一六歳になってるんですけど?
「えっと、それも私たちで変えたの!」
「はあ!?みーちゃんたちが変えたのかよ!?」
「うん!」
ミーちゃんの肯定に、ヒナちゃんも小さく微笑みながら頷く。
どうやって法を改正させたんだ……?そこが謎だ。いやまあ、何で目の前でこんなことが起きているのかも謎なわけだが。
「いやあ、ここまでやるのには苦労したよ。ねー、ヒナ?」
「う、うん。首相の、隠し事がわからなかったら、どうして、いいか、考えてた」
……なんか、聞こえちゃまずいようなものがあったような……?首相の……隠し事?それ、かなり大ごとなんじゃ?というか、なんでそれを知ってるの?こわいんだけど……。というかそれ、完全にスキャンダルなものを知っているということなんじゃ……?
「え、じゃあ、なに?もしかして、二人が帰って来た理由って本当に……」
「うん」
「はい」
「「ゆう君と結婚するためだよ(です)!」」
と、高らかに宣言した二人だった。
これって、幸せ……なのかな?
それからは、二人の荷物を整理したりした。
それが終わるころには夕飯時だった。
で、びっくりなのはそこから。
なぜかごちそうだった。今までほとんど見たことがないくらいの、ごちそうだった。
ステーキに、唐揚げ、シーフードピザ。他にもサラダとか、ローストチキンとか。それにどういうわけか、三段のケーキ。
どこのパーティーだよ?
しかもそのケーキ。なんというか……どうみてもウエディングケーキだった。
それからは母さんたちと、みいちゃんヒナちゃんとの談笑状態。俺はあまり関与しなかった。
その結果、なんだか居づらくなってきたので、気分を紛らわすために風呂に入ることにした。
こんにちは、鯨です。
前回、出せる場所がないと言ったのですが、よく見たら普通にありました。
なので、今回は投稿が可能になりましたが・・・まあ、次からはほんとに白紙なので、ごめんなさい。
では、また次回。