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虎穴に入らずんば虎子を得ず  作者: 小湊 美々架
第一章 入学試験編
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第一話 『憧れの言ノ葉学園』

 僕の祖母は優秀な言霊使いだった。


その事実を知ったのは、僕が中学校一年生、つい最近のことで、それも祖母が亡くなった後だった。誤解がないように言うが、僕は祖母のことが大好きだった。学校がない休日の日は、毎日のように祖母の元へと言っていたし、何より祖母は僕に色々な言葉を教えてくれた。僕は、そういう祖母が大好きだった。けれど、祖母がやっていた仕事を聞いても、それだけは答えてはくれなかった。何故祖母が教えてくれなかったのか、当時は分からなかったが、祖母が亡くなり、両親から祖母の職業を聞かされたことで尚更その理由が分からなくなった。


 どうして、祖母は自分に言霊使いだったと教えてくれなかったのだろうか?


その理由はいまだに分からない。だが、分からないこそ興味があり、祖母のように人々を助けるようになりたい。そう思った僕は、優秀な言霊使いを育てる学校である『言ノ葉学園』を目指すことにした。どんなに周りにノロマで、何をやっても駄目な奴だと思われても、僕は言ノ葉学園を目指した。

 

いつか、祖母の真意を聞けるようにと考えながら…


                  *


「ここが、あの言ノ葉学園…」


 少年―赤子小虎は目の前の大きな建物『言ノ葉学園』を見上げながら呟いた。赤子は祖母のような優秀な言霊使いになるのを夢見て、この言ノ葉学園の入学試験を受けに来た一人だ。入学試験を受けるためには、この門を潜り受付がある校庭へと向かわなければいけないのだが、赤子はその場から動けずにいた。何故なら…


(みんな、テレビとかでよく見る子だ…)


そう、この言ノ葉学園に通う生徒は将来有望の言霊使いの卵ばかりだ。もちろん、この学園に通うことを夢見て銃剣する生徒も、有名な言霊使いの家柄や、テレビなどでよく見かける有名人ばかりだ。この学園に一般人で受けようとする生徒はいないに等しい。つまり赤子は自分が場違いなところに来てしまったと思い、校門の前から動けずにいたのだ。


(でも、いつまでもここにいるわけにはいかないし…けれど、僕みたいな一般人が行っても大丈夫なのかなぁ…)


赤子は、自分の度胸のなさにため息をついた。もうここまで来てしまったのだ。行くしかない。心の中ではそう言い聞かせているはずなのに、それでもあと一歩勇気が出ない。赤子が困っていると、後ろから肩を叩かれ、誰かに声を掛けられた。こんなところで、自分に話しかけてくる人物とは誰だろう…恐る恐る赤子が後ろへ振り向くと、茶髪の男の子が立っていた。


 「さ、猿山大我…!?」


赤子は、驚いたように目を丸くし、相手の名前を叫んだ。猿山大我とは、言霊使いの名家である猿山家の跡取り息子で、かなりの才能の持ち主だ。その持ち前のルックスと明るさからテレビ番組にも出演しており、今や知らない人物はいないとされる有名人だ。そんな有名人が自分に何の用だろうか、まさか、自分は気づかないうちに何かやらかしてしまったのではないだろうか…恐怖に震えている赤子を、まるで心配するように猿山は、赤子の顔を覗き込んだ。


 「随分顔色悪いようだけど…大丈夫か?」

 「は、はい!だ、だいひょうぶでしゅ!」

 「…全然大丈夫そうには見えねぇけど」


どれだけ優しく声かけても、怖がるだけの赤子に困り果てていた猿山の背後に、黒い高級車が止まる。黒い高級車の中から、金髪の美少女が優雅に登場し、周囲の人々はその美少女に見惚れていた。…ただ一人を除いて。


「げっ」

「あら、誰かと思えば猿山の大将さんじゃない。ここは人間が来るところだけど、お猿さんがどうしてここに?」

「誰が猿だって?」


 猿山のことを猿と比喩する少女―犬神レイカは猿山同様、名家犬神家の令嬢であり、その頭脳と美貌から幼いころからテレビや雑誌に引っ張りだこな有名人だった。そんな彼女だが、同じく名家である猿山と一回も共演したことがないため、猿山とは何かあるのではないかと噂されていたが、その噂は、今日この数分で真実だったと判明したのだ。


 (犬猿の仲ってこのことか…)


二人が争っている間に落ち着きを取り戻した赤子は、二人の様子を観察しながらそんなことを思っていた。しかし、こんなことをしていては遅刻をしてしまう。そう思った赤子は急いでその場から立ち去ろうとした。しかし、こちらに歩いていた人物に気付かず、赤子はその人物とぶつかってその場に膝をついた。


 「いってて…」

 「す、すみません!大丈夫ですか?」

 「いえ、こちらこそ…」


手を差し出され、顔を見上げると、黒髪の少女が転んでしまった赤子を心配そうに見つめていた。赤子は急いで立ち上がり、大丈夫だと伝える。その言葉に安心したのか、安堵の表情を浮かべた少女は赤子に自己紹介を始めた。


 「よかったぁ…あ、私猫又あずさって言います」

 「あ、僕は赤子小虎。」

 「赤子小虎さん、ですね。あの、よろしければ受付まで一緒にいきませんか?一人じゃ心細くて…」

 「あ、うん。僕なんかでよかったら」

 「本当に!?良かった…ここにいる人、すごい人ばかりで緊張していたんですよ」


同じだと、自分と同じことを思っていた人がいるとは思わなかった赤子は嬉しくなり、同時にホッとした。赤子は猫又と一緒に、受付会場である校庭へと向かった。


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