第一話『伝説の勇者』
世界を滅ぼそうと企む魔王グリモアの住まう城。
まさに今ここで世界の命運を欠けた最後の戦いが繰り広げられていた。
「魔王グリモア、お前の命もここまでだ!!」
聖なる炎を宿した聖剣クラウソレイスの刀身が激しく光り輝く。
「勇者アーヴァイン、貴様との因縁今日ここで終わりにしてくれよう!」
殺した相手を魔物に変え意のままに操るという魔剣ダレンスレイヴの刀身を赤黒い靄が包み込む。
命を賭けた戦いを続ける2人の周囲には強力な結界が貼られていた。
それは勇者アーヴァインの仲間である魔法師ユリアが、己の持てる全ての魔力と命を解き放ち築き上げた最強の結界である。
今にも勇者に襲いかかろうとする無数の魔物の軍勢は、結界に触れた者から順に灰になって消滅していた。
そして他の仲間達も勇者をこの場に導く為皆命がけで戦っていた。
斧使いの戦士アルフ、弓使いの射手レーナ、重装甲騎士ドレファス、その他にも各地で魔王軍の侵略に必死に抵抗する多くの兵士達、彼らの命運は全て勇者アーヴァインに託されていた。
「しぶといな勇者よ、ならばこれでどうだ!」
アーヴァインはグリモアの放つ黒炎の魔弾を聖剣で切り裂き接近を試みる、しかしグリモアの足元の影から漆黒の刃が伸びてアーヴァインの脚を斬り裂いた。
苦痛に顔を歪めるアーヴァイン、幸いなことに脚はまだ動いたが傷口から溢れ出る血液は傷が決して浅くないことを物語っていた。
接近を封じられ気を抜けば魔法による遠距離攻撃が襲ってくる。
ならばと、アーヴァインは聖剣を正面に構え叫んだ。
「聖剣よ、我が魔力を糧とし灼熱の竜を呼び醒ませ!」
聖剣から放たれた炎が巨大な龍の形を成しグリモアへと突き進む。
グリモアは咄嗟に回避したものの炎の竜はまるで意思を持っているかのように再び襲いかかってきた。
だがグリモアはまるで怯むこともなく魔剣を地面へと突き立てる。
その瞬間剣から放たれた魔力で地面は隆起し突如巨大な壁が出現し襲いかかる炎の竜の攻撃をいとも容易く防いでみせた。
「今更そのような攻撃が我に効くものか!」
魔剣から放出された靄が空中で形を成し無数の槍へと変貌、それはまさに槍の壁。
「今度はこちらの番だ、無様に踊り、そして死ねい!デモンズランス!」
グリモアが魔剣を振り下ろすと槍は一斉にアーヴァインへと放たれる。
「俺は死んでも構わない、だが俺は1人で死ぬつもりはないぞグリモアー!」
その瞬間アーヴァインの全身を聖なる炎が包み込んだ。
それはまさにアーヴァインの命の炎、己の魔力を全て聖剣に注ぎ込むことで聖剣の持つ真の力が解放されたのである。
奇跡ではない必然、己の命を犠牲にしてでもグリモアを討つというアーヴァインの意思に応えるかのようにクラウソレイスの刀身はまるで太陽の如き輝きを帯びていた。
「切り裂け、シャイニングアーク!」
勢い良く振り下ろされた聖剣から放たれた光の斬撃、迫り来る無数の黒槍を飲み込みグリモアへと一直線に突き進む。
再び地面が隆起し現れた障壁に光の斬撃が触れたまさにその瞬間、激しい衝撃と共に障壁は消し飛んだ。
だがそれでも相殺し切れぬ圧倒的威力。
避けること叶わずと察したグリモアは魔剣で受け止めた。
せめぎ合う力と力、グリモアは魔剣にさらなる魔力を込め振りぬいた。
それにより斬撃は防ぎきったものの受け止めたダレンスレイヴの刀身にはわずかながらヒビが入っていた。
グリモアは決して油断していたわけではない、けれど迫り来る光の斬撃に視界が塞がれたのもまた事実、再び正面を見た時に視界に入ったもの、それは己の眼前へと迫る聖剣クラウソレイスと、その所有者である勇者アーヴァインであった。
「これで終わらせてやる!」
脳天へと振り下ろされた一撃を受け止める力は魔剣にはもう残ってはいなかった。
砕け散る魔剣、そして正中線上を一直線に斬り裂いた傷跡から炎が燃え広がり、やがてグリモアの全身を焼き尽くしていった。
「バカ、な……我が、死ぬなど……」
魔王軍の大半は魔王軍の侵略によって死した者の肉体を用い、黒魔術によって創りだされた生きた屍であった。
屍を操っていた魔王が死んだことで肉体はその呪縛から解き放たれ、後に残ったのはおびただしい数の屍の山、魔王の死と共に魔王軍も消滅したのである。
戦いは終わった。
アーヴァインは負傷した脚を引きずりながらユリアのもとへと歩いていた。
結界を張る為に己の命を犠牲にしたユリア、彼女はアーヴァインを愛していた。
そしてアーヴァインも同様に彼女を愛していた。
「ユリア、勝ったよ。俺達は勝ったんだ」
ユリアの傍らに座りそっと亡骸を抱く。
「すまないユリア……君を死なせたくはなかった……。だが安心してくれ、俺ももうすぐ……そこに……」
全魔力と生命力を使い聖剣の真の力を解放したアーヴァイン、だがそれは同時にアーヴァインの命を確実に削っていた。
崩れ落ちる体、アーヴァインはユリアと寄り添うように横たわり、そしてその命を終えた。