2.
2.
召喚体の使役に慣れ、いよいよ魔法士としての活動が本格化することになった。
そもそも魔法士とは、なにをするものかと言えば。
「魔法を使って、世界に貢献する。」
この一言に尽きる。
その貢献度によって、魔法士の顔にもなる、召喚体がより高位のものになり、結果的に自身の扱える魔法の幅や、レベルが上がっていくことになる。
逆に、犯罪や紛争に魔法を使っていると召喚体は弱体化し、ついには消滅することもある。
これがおよそ現代において、地球を割って争うような魔法大戦が勃発していない、主な理由でもある。
しかし、魔法による犯罪が皆無かと言えばそうではないのだけど…。
「魔法で世界に貢献するっていっても、これは、ねぇ。」
右手には猫じゃらし、左手には、しゅっとした顔の猫の写真。
「仕方ないですよ。残っていた依頼はこれしかなかったんですから。
依頼が残っていただけでも僥倖です、僥倖。」
「あーいや、だからさ、俺、携帯が壊れててさ?何とかやりくりして中古の携帯買って、メール同期したら、依頼の競りの時間がすでに始まってるのが、そこで初めてわかってさ?ダッシュで競りに向かったんだけどさ?
まぁご覧の通り、迷い猫の捜索しか依頼が残ってなくてさ?
…いやなんかほんとすいませんでした。」
言い訳をしても現状が変わるわけでもなく、結果的に班員に迷惑をかけているのは俺だ。
素直にリーダーの自覚が足りなかったことを反省。
「まぁ、これも立派な依頼の一つだ。俺様に任せておけば万事解決だ。だからそんなに気にするな。はっはっ!」
「タクマ…お前、ただの脳ミソ筋肉と思ってたけど、そんなこと無かったんだな。」
珍しい人間に励まされた。
そうだな、次回はしっかりしよう。
「ちょっと、そこの男衆。ちゃんと探す気あるの?
私は、こんな依頼ちゃちゃっと済ませて、早くシズ姉様と修行に行きたいんだから。」
ノンが少し離れたところから呼びかけてくる。
元はといえば、お前が俺の携帯壊したからだろうが、と言いたい気持ちをグッと堪える。
携帯が壊されるときに何をしていたのか、それを俺から説明することは、罪の自白に他ならず、掘り下げれば掘り下げるほど、俺の立場が悪くなるのは、目に見えているからだ。
それでもやっぱ納得は出来ない部分も大いに、ある。
そんな思いで恨めしい視線をノンに向け続けていると、
「な、なによ。まだ携帯の件で怒ってるの?新しい携帯の費用の半額出すから、それで手打ち、っていったじゃないのよ。…もう、ごめんってば!」
そうだ。そもそもその費用がなきゃ、未だに新たな携帯は、手に入れられてないだろう。
まぁノンってやつはこうゆうやつだ。
シズネのことになると、多少行き過ぎた行動が目立つが、その他、悪いことにはちゃんと謝るし、義理も通す。
むしろ、他人の携帯の半額を出してくれたのだ。感謝こそすれ、恨むのはもうお門違いだろう。
「そうだな、俺もいつまでも女々しくしていてすまんかった。
よし、猫の捜索サクッと終わらせちまおうか。」
今日は、シズネとマユは他の用事があるとかで、後程合流の予定だが、このくらいの依頼、二人が来る前に終わらせてしまいたい。
つまりは、今日のメンバーは、俺と、ノン、シン、タクマの四人と言うことだ。
結果から言ってしまえば、今回の依頼は本当に簡単に解決した。
失せもの探しというのは、どうも俺の能力に合った依頼の一つのようだ。
目的の迷い猫は、実は桜子先生の愛猫で、桜子先生の住むアパートの近くの公園でうずくまっているところを保護した。
先生の家のほうが近かったが、勝手にお邪魔するものでもないので、居心地は良くないかもしれないが、学園に連れ帰り、桜子先生と丸二日ぶりの再会と相成ったのだった。
桜子先生からは、こちらが恐縮するほどのお礼を言われ、報酬の食堂の食券をメンバー数分頂いた。
「いやー、ほんともうありがとうございますでした!元が野良なもんで、わたしに愛想尽かして野良に戻っちゃったのかな、とか考えてたんですけど、やっぱ忘れらんなくて、けど先生は先生の仕事も大好きで、仕事抜け出すのも出来なくて、いやほんとこんなに早くに見つけちゃうなんて、ほんともうありがとうございますでした!」
普段からニコニコして可愛らしい先生だが、もうなんだか感謝の言葉が爆発して言葉が支離滅裂だ。
「いえ、大事なくて良かったです。
それにその子も先生に会えて、そんなに喜んでますし。
きっと会いたかったんだと思いますよ。これからも仲良く大切にしてあげてくださいね。」
そういって先生とは別れ、俺たちは記念すべき初依頼を達成したのだった。
その後、今後の依頼の傾向やらの打ち合わせがてら、初任務達成のミニ打ち上げを学園内のテラスで行うことにした。
じきに、シズネとマユも合流して、今後の話と初任務の顛末を話したりした。
「いえ、今回は初のチームとしての依頼だったのに、私用で結局、力になれずに申し訳なかったわね。」
「もういいって。それに私用っていったって、学徒会の仕事だろ。そっち優先しないと、学園行事も全部出来ないわけだ。シズネこそ、お疲れ様だ。」
「わたしももう少し、はやく合流出来るかと思ってたんだけどぉ。ごめんねぇ、みんなぁ。」
「マユも気にすること無いって。お父さんからの呼び出しだっけ?もう平気なのか?」
この神之木学園は基本的に、寮生活だったり、親元を離れて自立しているものがほとんどだ。
通常の社会から切り離されているといっていい。
しかし、なにも檻に囲まれているわけでもなく、実家には帰れるし、家族と共に時間を過ごすことも出来る。
ただ形式上、外出申請は必要だし、制約は色々あるが。
マユは時々実家に顔を出すほうだ。親父さんが子離れしてない、とか言っていたっけ。
「大丈夫ぅ。パパ心配しすぎなんだよぉ。マユもう子供じゃないのにぃ。」
うむ、確かに。
ある一点を見つめつつ。
「そうだな。少なくとも、シズネとノンとは比べるべくも無く、マユは大人だな、うん。」
「「あ゛?」」
つい、口に出てしまった。気付いた時には、既に遅く。
あ、龍と虎がこっち見てる。
ははは、やだなぁもう。怖い顔して一瞬で5mの距離を詰めないでよ。
はは、肘はそれ以上そっちには曲がらないッたら。
ねえ、聞いてる?首はそれ以上締めたら、空気の通る道が無くなるって。
それに、俺の後頭部があばらにあたってるのかすごく痛いし、ははは。
あ、ウソ。冗談。
え、あれ、もう何も見えな…きこえ、な…。
「ヨオオオオオオオウ!?戻ってこぉい!いくなぁ!」
「ヨウさぁぁあん!え、息してな、え、これまずいやつじゃ。」
あぁ、死んだはずの爺さんがこっちに手をふってる。
なんだか、すごく、疲れたんだ。このまま眠りたい。
「うふふぅ。やっぱこのチームはみんな仲良いよねぇ。」
「パパ。マユは、こんな賑やかな友達と一緒だから、今は学校が大好き。
もう心配いらないよ。」
騒がしいメンバーを見て、ふんわり笑う少女。
そこに、少女を抱きしめるような暖かな風が、一迅、通り過ぎていった。
オチテナイヨ。
次回に続く。
オチのところを少し修正。誤字訂正。2015.8.24