スタァライト水族館(シィパァク) 前編
そろそろ今夜泊まる所を決めないと、宿にあぶれると言う頃、先生がふと足を止められた。先生は空の一角を指差された。
「星が低く輝く場所には、必ず珍しいことが起こりますから、これからちょっと行ってみましょう」
先生が示された、そこだけ既に夜が訪れた地平線の上では、数個の星が低い位置で煌いていた。僕は、先生といる内に随分分別が着いたので、それとなく注意した。
「これから行くなら、ちょっとにはなりませんよ。行った場所に泊まれる所があるかどうかも、分からないんですから」
先生は時々、子供の僕よりもずっと分別が無くなる。何かに夢中になると、周囲が見えなくなる。目を輝かせている様子は、僕ら子供と変わらない。先生は悪戯っぽい様子で、
「時には、暖かい寝床より、勝るものはあると思いますよ」
意味深な言い方をされる。それは先生にとってだけ面白いことなのか、僕にとっても面白いことなのか、その当りは分からない。そもそも星が低く輝く場所では珍しいことが起きるなんて聞き始めだし、漠然とし過ぎている。僕は、上目遣いで先生を見ながら慎重に聞く。
「何か起きると言うのは、経験上ですか、それとも理論上」
先生は、僕の好きな笑顔を浮かべると、仰った。
「どちらもです。何が起きるかは、その時になってみなくては分かりませんし。私が経験したことや、聞いた話をここでするより、自身の目で確かめる方がいいでしょう。実を言えば、何か起きるのは確実だと分かっていても、それがどう言うことなのか、分からないんです。そこがまたびっくり箱のようで、魅力的なんですがね」
楽しそうに目を輝かせている先生を見てしまうと、それ以上僕は何も言えなくなる。そこまで言われては引き下がるしかないが、暖かい寝床が恋しくなかった訳ではない。でもそれを言うと、夜がくるとどんなに面白いことが起きても目を開けていられない赤ん坊のように思われそうなので、黙っていた。
先生のことだから、僕を馬鹿にしたりはしないけれど、きっと先生のことだから、僕に合わせて、珍しいことに出合うチャンスを捨ててしまうだろう。
僕だって、夜の楽しみを知っているぐらいには大人だと、自分で自分に言い聞かせていたけれど、珍しいことと言う話には、がっかりしなくて済むよう、そんなに期待はしなかった。
ここではどれだけ遠く見えても、目指してひたすら進んで行けば距離は縮まる。星の掛かる地平線まででも歩いて行けるが、それでも辿り着いた頃には、とっぷり夜は暮れていた。
辺りに僅かに海の香りが漂い始めたと思うと、僕と先生は擦り鉢状の円形劇場の端に立っていた。擦り鉢の底が青白く光っていて、空を見上げても星は少しも見えなかった。それでも僕にも、すぐにここが目指していた場所だと言うのが分かった。
「スタァライト水族館にようこそ。今夜限りの特別夜間ショウは、もうすぐです」
擦り鉢の底の方から、良く響く少年の声が聞こえていたが、声の主らしい子供の姿は見えなかった。僕は、弾かれたように先生の顔を見上げる。先生は勿論、それ見たことかなんて言わずに、にっこり笑われた。
「間に合って良かった」
僕は喜びを表すのに、先生の手を握った。先生は僕の手を握り返し、
「席に着きましょう」
と、僕と手を繋いだまま、階段席を降り始めた。
擦り鉢の底は、プゥルがその殆どの場所を占めている。プゥルの奥に、少しだけ平らな床があった。そこでアシカや何かが芸を見せるのだろう。
周りを見回してみると、チラホラと観客席に人が座ったり、席を探したりしていた。一人で来ている人が殆どだが、僕より小さな子供を連れた家族連れや、僕の双子の兄ぐらいの少年達のグルゥプもいた。もしかしたらあの少年達は、双子と同じ学校の生徒と言うことも有り得る。
一人の人は一人の人で、グルゥプはグルゥプごとに、他の人と距離をとって席に着いていく。みんな、これから始まるショウを、自分一人が観客であるかのように楽しみたいのだ。
ここにいる人達はみんな、先生と同じように、空の低い所に掛かる星を目指してやって来たのだろうか。僕と先生は、真ん中より少し左寄りの前から十列目の席に座った。ここなら全体が見渡せる。
先生は内側に、僕は通路側の席にした。僕と先生が腰を下ろして、座り心地を良くするのに身動ぎしていると、横の通路を誰かが通り掛かろうとした。
匂いに釣られて後ろを振り返った僕の目は、僕と同じ年頃の少年が手にしていた物に釘付けになった。少年は、油の染みた新聞の包みを握っていた。僕の視線は流石に無視出来る類のものではなかったので、少年は僕を見下ろして、言ってきた。
「入口の露店で、買わなかったのか。チビ」
見知らぬ少年に、いきなり面と向かって、チビなどと言う言葉で呼ばれた僕は狼狽した。
少年は、ハイネックのセェタァに膝丈のズボンに、長靴を履いているが、その全てが黒だった。長靴を履いてるなんてちょっと変わってるけれど、ここは海の近くのようなので、近所に住む漁師の子なのかも知れない。僕は、しどろもどろになりながら答える。
「うん。ええっと。僕は入口を通らなかったみたい」
少年は、ふぅんと気のない様子で鼻から息を吐いた後、
「今から買いに行ったら間に合わないし、俺はこう言うの良く来るんだ。半分分けてやるよ、チビ」
と言って、僕に揚げ立てで、良い匂いをさせている包みを差し出して来た。少年の髪はボサボサで、お世辞にも言葉使いはいいとは言えなかったけれど、悪い子ではないらしい。少年は摘めよと僕を促した後、独り言ちるように喋り出した。
「それにしても、水族館でフィッシュフライって言うのは、どうなんだろうな。奇麗だの可愛いだの言って魚を見ながら、片一方では食べて。それとも、目でも口でも楽しんでくれってことなのかな。まぁ旨いんだから、どうでもいいけど」
僕は指で白身魚のフライを摘み、少年の言葉が終わるのを待ってから、お礼を言った。
「あ、ありがとう」
僕が魚のフライを口に放り込むのを待ってから、少年は僕の手にフライの入った包みを押し付け、もう片方の僕の手を掴んだ。
「どうせなら一番前に行かないと、来た意味がないぜ。来いよ。星雲のシャワァを一緒に浴びようぜ」
僕は少年に引っ張られて、心ならずも立ち上がらされてしまう。僕は、先生と少年の顔を交互に見ながら迷う。
「え、でも」
セイウンのシャワァ? 外は上着がいるくらいに寒い。少年は、薄手のセェタァ一枚でも平気なようだが。夏ならまだしも、こんな時期にプゥルの水を被ろうなんて酔狂にも程がある。先生は微笑みながら、僕を促した。
「行っておいでなさい。私のような大人には似合いませんが、君には似合うでしょう」
「ほら、この人の言う通りだぜ。子供なら、行かないと」
僕は困惑するが、少年は僕を引っ張って歩き出した。僕は何が何だか分からないまま、少年と一緒に階段を下りて行くしかなくなる。僕は何度か振り返って先生を見たけれど、先生は僕を安心させるように、微笑んで僅かに手を上げられた。僕もそれで、覚悟を決めるしかなかった。
少年は階段の途中で、飲み物の瓶を持った左手で、年上の少年達のグルゥプを指差して僕に言った。
「あいつら、寄宿学校の奴は可愛そうだよな。星屑なんて付けて帰ろうものなら、夜に抜け出したことがバレて、大目玉なんだから。やっぱり自由が一番だぜ」
僕は途惑って、うまく返事が出来なかった。
星屑って。さっきのセイウンと言うのも、星の雲と書く星雲だろうか。
少年は僕を一番前の席に押し込むように座らせると、僕の膝にサイダァの瓶も載せて、自分はプゥルの硝子の縁に両手を付いた。硝子は良くあるような、透明ではなく銀のラメ模様だった。
水の中に照明を沈めてあるのか、ラメがキラキラと光って、まるで模様が動いているかのようだ。少年は硝子板に手を付いて、何やら子細に眺めていたが、やがて背筋を伸ばして。
「うん。今回のは大丈夫そうだな。渦巻き星雲だ」
僕の方に戻って来た。少年は僕の隣にドサリと腰を掛け、サイダァ瓶を自分の隣の空いた席に移し代えた。僕は少年の言葉の意味が分からず、聞き返す。
「え?」
少年は僕が持ったままの包みから、フライを摘んで口に放り込みながら、口を利いた。
「この前の花火は、ひどかった。奴ら、薔薇星雲なんか持って来てやがったんだ。俺は、火の粉をばっちり浴びたものだから、一週間は薔薇香水の匂いが消えなかったんだ。あの時は本当、参ったぜ」
少年は喋りながら二つ目のフライも口に入れ、喋り終えた途端、お前も食べろよと僕に勧めた。僕は少年のせわしない様子に飲まれて、言われるままにフライを摘んで口に入れた。
カラッと揚がった衣のサクサクしているところも、ビネガァが染みてくったりしたところも、どちらもおいしい。酸味と塩味が、食欲をそそる。僕は、フライを飲み込んだ後ようやく、
「薔薇星雲って」と、聞き掛けた。
途端に少年が、唇に人差指を当てて、シッと僕を制した。
いつの間にかプゥル奥にある舞台に、白燕尾服の男の人が立っていたのだ。僕がそちらに顔を向けた途端、男の人は丁度喋り出した。この劇場自体が、音響効果を考えて作られているからか、その声はマイクなしでも良く響く。
「星の標に導かれ、今夜お集まり戴いた、小さいまたは大きい紳士淑女の皆さん。スタァライト水族館へ、ようこそ。ここにこうしておられると言うことは、口上など要らないと言うことです。どうぞ、この趣向を楽しんで行って下さい」
男の人は、鷲鼻に立派な口ヒゲを生やした紳士で、儼しそうな外見とは裏腹に、戯けた大袈裟な身振りで頭を下げた。少年達のグルゥプが、待ってましたとばかりに手を叩く。僕も同じように手を叩いていると、横合いから蓋を開けた瓶が突き出されてきた。僕の隣に座る少年が、ジュゥスの瓶を僕に差し出しているのだ。
「オレンジサワァだ。こう言う場所では、寒い時でも炭酸水が一番だと思わないか?」
僕は少年の言葉に慌ててうんと頷いて、少年が既に口を付けている瓶を受けとった。少年は、舞台の奥に引っ込もうとしている男の人を顎で差して、
「あれは、アルタイルだ」
僕はオレンジサワァを飲んでいる途中で、むせそうになった。
「あの人、アルタイルさんって言うの?」
僕は聞きながら、飲み物の瓶を少年に返す。僕は、鷲座にあるアルタイルと言う星の名前を思い出していた。スタァライトだから、星に引っ掛けて名前を付けているのかと思ったのだ。少年は、僕を呆れたように見ると、
「お前、物を知らないチビだな。連れのおじさんに聞かなかったのか」
「お、叔父さんじゃないよ。あの方は先生なんだ。僕は先生の助手」
僕はドギマギしながら、言い返す。少年は、僕を面白そうに見つめた。僕は落ち着かなくなって、少年から目を逸らす。少年はフライを口に入れてから、
「誰も親戚とは思わないよ。面白い勘違いをするんだな、チビは。まぁ、先生なんて名の付くものにしては、物分かりがいいじゃないか。まっ、俺は先生なんて絶対信用しないけどね」
僕は再び顔を上げて、抗議しようとする。
「先生はとっても」
しかしその言葉は少年の、
「おっ、始まった」と、言う言葉で遮られた。
オッオッオッと言う奇妙な鳴き声を発しながら、舞台の端から床の上を、三頭のアシカが滑り出てくる。その後ろから、青白いスゥエットスゥツを着た男の子が現れた。男の僕から見ても、とても可愛いと思うような子だった。
男の子がピンクや黄色の台を並べると、アシカ達はそれぞれ台の上に上がって、ポォズをとった。男の子は、先程僕が聞いた案内と同じ声で言う。
「水族館の戯け者。リックとカイ、シィナの三匹です。みんな拍手」
三匹のアシカは、自分達でヒレを叩いて拍手した。僕も笑って手を叩く。少年は、フンと鼻を鳴らすと毒突いた。
「シリウスめ。俺は、ああ言う大人の前でだけいい子ぶる奴が、嫌いなんだ」
あの男の子は、シリウスと言うのだろう。シリウスは、おおいぬ座の星だ。男の子は、舞台映えのする笑顔で歯を見せて笑いながら、アシカ達を誉めてバケツの中の小魚を投げ与えた。僕は、少年に言われた言葉が気になって、
「僕は別に、いい子ぶってないと思うけど」
と言うが、最後の方は尻すぼみになった。それは僕が、先生にはいい子に見られたいと思ってしまうからだ。少年は声を上げて笑うと、僕の肩に肩をぶつける。
「お前は純粋なんだよ。チビ」
初対面にしては、随分馴れ馴れしい態度だが、少年の様子があまりにも自然なので、僕も気にならなかった。会ったばかりでもう、食べ物を分け合ったり、ジュウスを回し飲みしているのだ。まるで何年も付き合いのある、仲の良い寄宿舎の生徒同士みたいだ。
但し、少年の言葉に僕は複雑な気持ちがした。子供っぽいと馬鹿にされているのか、誉められているのか分からなかったからだ。シリウスがアシカ達に金色のボォルを投げてやると、アシカは上手に鼻の先でボォルを突いて投げ返す。
アシカはボォルを投げ返せば、おやつの小魚を貰えると知っているので、自分の方に多く投げてくれと手招きする。芸をするアシカも勿論スゴイが、時々逸れて戻って来るボォルを、上手に受け止めているシリウスも偉い。だから僕は、
「でも、僕らより小さいのに、あんなことが出来て立派だよね」
と言いながら、フライのおやつを摘んだ。隣の少年もフライを摘みながら、
「小さいって言っても、俺達よりずっと古い生き物だぞ。連中は星なんだから。ほら、あのボォルはヴィナスだ」
僕にも、このショウの趣旨が分かり初めてきた。
星明かりの下で行われる特別夜間ショウと言うだけでなく、何もかもが星と関連付けられているのだ。でもあの少年がシリウスなら、小犬座のプロキオンはもっと小さい子になる。僕は、一つ一つの仕草がユゥモラスなアシカに、ついつい頬を緩めながら、
「あのアシカ達、金星をボォルにしたスゴいアシカってことになるね。でも本人達は、分かってないかも。餌さえ貰えれば何でも良くって」と、言って笑う。
金星をボォルにするアシカ! 何て素敵な響きだろう。それだけで胸がワクワクする。
「いいや、あいつらも今夜が特別だってこと良く分かってるさ。何てったって、銀河で獲れる魚は味が違う」
「これも、そうなのかな?」
僕は、揚げ物の包みに目を落とす。銀河で獲れた魚と言う響きは気に入ったけれど、それらしい味はしない。
「いいや。魚を持って来たのはシリウスだろう。あいつは、そう言う手抜きを良くするんだ。これは、そこらで売ってるスズキだよ。本当なら、銀河の底の方にいるマコモガレイを、用意してこなきゃいけないんだ。銀河マコモガレイなら、もっと身が引き締まってて、味も濃いんだ。これは塩で誤魔化してる。その分、一人分がやけに多い。質より量って訳だな」
僕はアシカ達が貰っている小魚は、どんな味なんだろうと思いながら呟く。
「名物のフィッシュフライじゃないのか」
「お前、買わなくて良かったぜ。こう言うのを見る時は、揚げ物一つなきゃ始まらないけど、単なるスズキの空揚げじゃ、ここに来てまで買って食べる程の物じゃない」
やっぱりこう言う野外観覧場では、テイクアウトの食べ物が良く似合う。なかったらきっと、少し物足りない気分がしただろう。先生は、子供みたいだけどやっぱり子供じゃない。僕ら少年にとっては、ポップコォンとコォクは映画の一部で、なかったら変に思うぐらいだけど、先生のような大人にとってはなければないで我慢出来るものなのだ。
僕は、この少年が僕を誘ってくれて本当に良かったと思いながら、
「でも、これもおいしいよ。食べさせてくれて有難う」
「礼を言うなら俺の方だ。ただのスズキの筈なのに、お前と分けたら、すっごく旨く感じるよ」
少年は、僕の頬に鼻をくっ付けてきた。身を引く時に少年は、僕の頬をペロリと舐めた。僕はとても驚いて、何も言うことが出来なかった。
アシカ達は最後にヨタヨタとプゥルの側まで近付くと、サブリと水の中に滑り込んだ。水の中では、アシカの動きはとても優美だ。アシカ達はプゥルの硝子板まで泳いで来て、観客に挨拶した。
大人は席に座ったまま、一番率先して前に行く筈の少年達のグルゥプも、席から動かなかったけれど、小さな女の子を連れたお父さんが、女の子を抱き上げてアシカを撫でられるようにした。
女の子は怖々手を伸ばして、頭を突き出して我慢強く待っていたアシカの鼻面に手を伸ばしたけれど、触れた途端ビクリとしてまた手を引っ込めた。
アシカ達は、プゥルの縁をグルリと回って僕らの所にも来た。僕は硝子のプゥルに手を付いて、水中のアシカ達と顔を突き合わせた。
こうして見ると、硝子がラメ模様なのではなく、水がラメ入りのように光っていることが分かる。
少年は、渦巻き星雲を持ってきたと言っていたっけ。アシカ達は水の中でクルクル回って、身体の位置を替えながら、僕を見て首を傾げて見せる。
二頭はそうだったけど、もう一頭はプゥルの縁に乗り上げて、頭をヒョコヒョコ上げ下げして見せた。撫でて欲しいのかも知れないけれど、子供の僕には手が届かない。
アシカは少年の方に向かって、何かを期待するように手を叩いた。アシカの黒いゴムのような身体の上を、油膜やシャボン玉のような輝きが這い回っていた。
フライの包みは、いつの間にか少年が持っていた。僕が立った時に、渡したのかも知れない。それとも頬を舐められて驚いた時か。少年は、アシカの見ているらしい手元に目を落とした後、再び顔を上げてアシカを見ると、聞く。
「お前、フィッシュフライが食べたいのか?」
アシカはその言葉が分かったかのように、オッと鳴いて頭を上げ下げした。
「誰か、悪い客が与えたのに味を占めたんだな。お前が貰ってる魚とは中身は違うから、旨くないと思うぞ。それに、フライなんて身体に悪いし」
アシカは盛んに鳴きながら、身をくねらせる。頂戴頂戴と言っている小さな子供のようだ。あんなに上手に芸が出来るのに、こう言うところは子供みたいだ。
「仕方ないな。おいしい物が好きなのは、みんな一緒か」
少年はそう言うとベンチに駆け上り、アシカに向かってフライを一つ投げた。アシカは上手に口で受け止めると、パクリと食べて再び水の中に身を沈めた。残りの二頭と一緒に、喜びを表すようにグルグル回って見せた後、アシカ達は泳ぎ去って行った。
「しょうがない奴。挨拶もなしだ」
少年がボヤくのに、僕は声を上げて笑った。言った後で少年は、僕に包みを差し出した。残りは、後二つになっていた。僕が一つを食べると、彼が最後の一つを食べた。それで丁度おしまいだ。
アシカに上げて丁度良かった。他の二頭が欲しがっても、分けて上げられたけれど、残りの二頭はフィッシュフライになんて興味がなかったようだ。
シリウスが誇らしげに微笑みながら、アシカとともに退場すると、再び鷲座のアルタイルが出て来た。
後編は、明日更新します。