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魔法がかかった紙

扉をくぐる。その先にあったのは、以前コーヒーを飲んだあの場所ではなかった。

店内…違う、校内はまずエントリーホールが迎えてくれる。一面大理石、杖の形をした柱、壁には六枚の幻想的な絵画。四季と他二枚は何の絵かはすぐ判断がつかない。

「すごい、映画の世界みたい。」

今まで見たこともなければ、妄想の世界でも描いたことのない景観に私は唖然としてしまった。

頭がくらくらしそうなほどの素敵な気分を味わっている私の耳にすべてをぶち壊す言葉が入り込んできたのは、数秒後のこと。

「そう?このホールのデザインは私の趣味じゃないんだけど、先代の遺産みたいなもんだから。」

さっきから人の感情を逆なでする発言が多いこの美術講師。こんな奴が魔法使いでしかも先生だなんて。

何度も言うけど、神様不公平よ…

「じゃあ面接をするから私ついてきて。」

菅原が奥の真っ白な扉に足の矛先を向ける。

「あれ?面接してもらえるんですか?さっきは電話してくれって。」

菅原の片方の眉が上がる。

「君が求人の用紙をはぎ取ったからもう応募は来ないんだよ。」

「もう一度作ればいいじゃない。」

お世辞にもデザインや掲載内容に凝った求人用紙には見えなかった。誰でも1分程度で作れそうだった。

「はぁ…。あれには魔法がかけてあったんだよ。その魔法をかけた本人が今いないから、作れないの。」

「えー!!あれに魔法が!!そんな風には見えなかったけど。どんな魔法がかかってたわけ?!」

菅原は更に渋い顔する。

「君に話す必要のないことだよ。」

「あ、そう。別にいいけど。もう応募者がいないてっことは採用者は私で決定じゃない。むしろ面接の必要ある?」

やっぱりもぎ取って正解だったわ!

「あなたは性格にかなりの問題がありそうだから、採用したら逆に問題が増えるなんてことも十分考えられる。それならアシスタントがいない方がよかったということになりかねないからね。君が面接で落ちれば、今回の募集はなかったことにする。」

控えめにを心がけていたが、今の発言には言い返さずにはいられない。

「あなた、人のことを非難する前に自分の性格も見直した方がいいわよ!」

「何だって?!」

「黙ってたけど美術講師の菅原太一、あんたこそ自分の発言や行動に気をつけなさい!」

やばい、言ってしまったー!後悔してももう遅い!!私って何でいつもこうなの?

案の定、菅原の顏は険しい顏をしている。

「きみっ…」

太一が言い返そうと口を開いたその瞬間。

「---?」

私達は黙り込んだ。理由は、耳に入ってきた音楽。

ふんわりとやわらかい旋律に高ぶった感情をなだめるようなコロンカランとピアノの音が響く。

耳を傾けずにはいられないほど、心地よい音楽が流れている。いつからー!?

「二人とも何を揉めているの?もっと冷静に話しなさい、いい大人なんだから。」

学校の先生のような少し高めの声。いかにも生徒をなだめるといった口調。

「葉子さん。」

菅原はふぅと溜息をついた。

「初めまして、橘里さん。お待ちしてましたよ。」

「は、はじめまして。えっと、あなたは…」

三十代後半に見えるふんわり系の女性はにっこり笑っている。

「私は創魔学園の音楽講師、佐伯洋子と言います。」

「葉子さん、まだ採用と決まった訳じゃないから。」

菅原がさらっと冷たく言う。

「あら。橘里さんで決まりよ。」

そういえば、葉子さんはなぜ私の名前を知ってるの?不思議そうにする私の顔を見た葉子さんはクスッと笑う。

「その紙には魔法がしかけてあったのよ。ずっと前からね。」

ずっと前から?

「余計なことは言わないで下さい。とにかく、面接はします。」

ふてくされ気味な菅原はつかつかと白い扉に向かって歩き出した。

「あの、話がよく見えないんですが…」

理解のありそうな葉子さんに話かけた。

「これから分かるわよ。とにかく、契約のサインは必要だから太一君について行ってね。」

「は、はい。えっと、ありがとうございました。」

「これから、よろしくね。」

葉子さんはパチッとウィンクしてみせた。女でもどきっとしてしまう素敵なウィンク。

あの心地良いメロディがまだ流れている。冷静さを取り戻した私は白い扉へと足を動かした。


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