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第五章 少年魔術師と『一度きりの願い事』(1)

 サンジェルマンと対面したユウは、そのあまりにも唐突な光景に目を疑った。

 しかし笑みを浮かべたその老紳士たる姿は、彼女の想像していたサンジェルマンとは似ても似つかないものだった。

 サンジェルマンは鼻で笑い、


「……きっとこう思っているのだろう。私の目の前に立っているこの老紳士は、ほんとうに『サンジェルマン』なのか――と。まあ、そう思うのも仕方がない。だが、あえて言わせてもらうと私はサンジェルマンそのものだよ。人間でもなく魔術師でもない、第三のカテゴライズされた存在。魔神に所属する存在である、不老不死の術を見つけた元・人間。それが私だ」

「サンジェルマン……。まさかあなたがほんとうに実在するなんて……!」


 ユウはサンジェルマンの言葉を聞いて、それが真実であると思ったらしい。

 そしてサンジェルマンの存在が確実になったということは、それと同時に香月の生存確率が上がったことを意味する。サンジェルマンの丸薬を香月に服用させることが出来れば、それによって香月の身体にあった異常はなくなる。そうなれば万事解決だ。あとは香月とともにアレイスターを撃破すればいい。ただそれだけのことだ。

 だが。サンジェルマンの答えは彼女の予想を大きく裏切ることだった。


「君が私にどれほどの期待をもっているのか、それは容易に理解できる。だから、丸薬についても提供することは可能だ。だが……君たちはどうやってここから脱出するというのかね?」

「あ……え?」


 サンジェルマンの答えを聞いて、ユウは一瞬思考を停止させた。


「君たちは鍵を持っている。それで出入りしたのだろう。だが、私はこの永遠の牢獄にとらわれた存在だ。私を閉じ込めた存在……『アリス・テレジア』をどうにかしない限り、私はここから脱出することは出来ない」

「そんな……でも、丸薬は? それは使えるんじゃないの?」

「丸薬は、おそらく出すことはできるだろう。お前たちが何に使うのか、それも知っているからこそあえて言うが、これがほんとうに期待した効果を発揮するかは不明瞭だ。むしろ発揮しない可能性のほうが高い。だからこそ私は、これをできることなら私の居ない場所へ提供したくないわけだ」

「……でも、それがないと私たちは救われない。そしてきっと、あなたも救われない」

「魔神たる私を脅迫するつもりかね?」

「ええ。でもそこまでしないと私たちは救われない。そして、木崎市に住む罪のない住民が殺されてしまう。被害はさらに拡大し、そのまま最悪の事態へと発展することになる」

「最悪の事態、とは?」

「対魔術師法第四十一条の適用により、魔術師組織の力による制圧。それが実行されればもう私たちにカタストロフィを止めることは出来ない。だからそれよりも前に敵を倒す。そうすることで木崎市に平和な日常が戻る。もちろん、木崎市には大きな傷を負ったままになるけれど」

「それでもいいということかい?」

「出来ることならそれは避けたかった。でも、もう遅かった。対立は始まってしまった。そしてもう一つ、警察と魔術師の力による対立はもう始まろうとしている。それよりも早く、アリス・テレジアの暴走を食い止める必要がある」

「でも、アリス・テレジアは強いのだろう? そう簡単に出来るはずがあるまい?」


 サンジェルマンは肩を竦め、そう言った。

 ユウは笑みを浮かべて、


「魔神サンジェルマンが怯えている、ということかしら? たった一人の魔術師に、あなたは怯えているということ? それは少々滑稽な話よね」

「……きみは私を貶したいのか、それとも私に助けを求めたいのか。どっちなんだ」

「後者ですよ。けれど、あなたは弱い。弱い、というのは違う言い回しになりますか。正確に言えば、あなたは力を持っているはずなのに、言葉で捏ね繰り回して自分で動こうとしない。……普通に考えれば最低最悪なヤツですよ」

「……これまで言われて何もしないのは、はっきり言って魔神の面汚しということになってしまうな。上からもそう言われてしまうだろうし、上のやつらはそう思っているかもしれない」

「上?」

「……ああ、いや。あまり君たちには関係のないことだ。だから私は協力しないといけないのだろうな……。それも世界の選択だ。それも世界の判断だからな。……さて、それじゃ、これを授けることにするか」


 サンジェルマンはつまらなそうな表情で、手のひらにのせてある袋をユウに見せた。

 ユウは首を傾げ、サンジェルマンに訊ねる。


「……これは?」

「これは、とは心外だな。君たちがずっと欲しがっていたものではないか。これがサンジェルマンの丸薬だよ。サンジェルマンの丸薬、と私自身が言うのは面白いものがあるが、これさえあればどのような症状だって回復することが出来る。……まあ、私はあくまでもこれで回復することのできる特殊なパターンであって、君たちが必要とするものに満たしてくれるかどうかは解らないが……。まあ、試してみる価値はあるだろう」

「ありがとう。これで……香月クンを救うことが出来る……」


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