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第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(7)



 そしてその衝撃は地下深くにあるヘテロダインのアジトまで直ぐに伝わった。


「魔術障壁、二十四層のうち半分が一回にして消失! 破壊した相手は……え、人間!?」

「油断するな! 相手は人間じゃない、俺たちと同じ魔術師だ!」


 ヘテロダインアジト、コントロールルーム。

 モニタを見つめながら、二人の魔術師がアジト内部に指示を送っていた。

 とはいえ現状、ヘテロダインは大半の魔術師をアレイスターの魔術師と戦わせるため、外に送り出している。全員が居なくなったわけではないが、少なくともここに居る魔術師だけではとてもあれを抑えることは出来ない。


「いや、そもそも……。あれはほんとうに魔術なのか? 破壊、完全なる破壊……。いいや、違う! あの魔術障壁は三層分だけでもICBMに耐えうると言われているんだぞ……!」


 即ち。

 単純計算でICBMの四倍にも及ぶエネルギーが、僅か一回の魔術で消費されたこととなる。

 属性は不明。完全なる無を産み出す魔術。

 そんな魔術を使いこなす魔術師に――立ち向かうことは出来るのか。

 彼らは不安で仕方なかった。

 彼らは孤独で仕方なかった。

 相手は、ほんとうに自分たちと同じ魔術師なのか――? そう思う魔術師も居た。それは当然の考えであり、寧ろそれを考えないほうがおかしいだろう。


「ボスが居ないとやっぱり……」


 今回の襲撃はボスであるユウ・ルーチンハーグの居ないタイミングで起こった。まるで彼女が居ないタイミングを、どこかで確認していたかのように。


「だが、これは予測では無く確定事項だよ」


 まるでそこだけ空間が綺麗に切り取られたようにぽっかりと開いた穴を、アリスと時雨は降下していた。このように重力に逆らってゆっくりと降下するのも――他ならない魔術によるものだった。


「魔術は凡てを産み出すことが出来る。人の妄想であり想像できるものは、創造出来る。人間の想像力は、人間が思っている以上に実現たりえるものだよ」

「この空中浮遊に似た魔術も、あなたの妄想の賜物……ということ?」

「間違ってはいないかな。したいと思ったから願った。願いは必ず聞き届けられるものではないが、聞き届けられた願いは必ず叶う。その叶えるためのプロセスが魔術で、叶えるための媒体がコンパイルキューブというわけだ。人間というのは、時に与えられた力を自らが手に入れたものだと過信する。だから滅びるのだよ」

「滅びる……って?」

「文字通りの意味だよ。いや、この場合人間は受け身になるから滅ぼされる、と言ったほうがいいかな。神の怒りを買うから、容易に滅びるわけだよ」

「……まるであなた自身が神様になったような言い回しですね?」

「馬鹿な。私はただの一魔術師だよ。……まあ、確かになりたい気持ちはあるがね?」


 そして彼女たちは降下を続ける。最初は底無しの穴に思えたが、徐々にその全貌が明らかになってきた。


「やっと底が見えてきましたね……。えーと、もう一回?」

「そうしないと辿り着けまいよ。大丈夫、今度は調整する」


 そしてアリスは何も言わないまま――右手を振りかざした。

 空気を伝わる振動。そして目の前で再びえぐり取られる地面――その底に、針の穴よりも細い小さい光が見えた。

 それを見て、にい、とアリスは笑みを浮かべる。


「見えたぞ、時雨。あれだ、あれがヘテロダインのアジトだ! こんなに地中深くに沈めておいて……漸くその姿を拝めることが出来たということだ!」

「……まさかこんな地下深くに埋まっていようとは、誰も思いませんでしたよ。さすがですね」

「しかしこんな辺鄙な地方都市の地下に、どうしてこうして作ったのだろうか? ……まぁ、七不思議のエネルギーも手に入れたから良しとしようか」


 そして、アリスと時雨は穴の中に入っていく。

 すとん! と足を着地させたその場所は一つの通路だった。


「……これで潜入、ですかね。まぁ、最初の衝撃で私たちがやってきたのはバレバレでしょうけれど」

「なに、溜息吐いているのかな? 私は全く理解出来ないのだけれど」

「いや、まぁ……。問題無いですよ。ところで、ヘテロダインを制圧してどうなさるつもりで?」

「言ったでしょう? ヘテロダインのボス、ユウ・ルーチンハーグを拿捕する。その後は……出来ることならばあまり言いたくないのだけれど」


 その表情を見て、少しだけそれに畏怖を抱いた時雨。


「……まぁ、いいよ。特に無理して言う必要は無いし。取り敢えず、私としては何を目的とすべきか明確にしたほうがいいかな、と思ってね」

「成る程ね。それは論理的考えだ。いい考えだと思うよ?」


 さて、と言ってアリスは一歩ずつ歩き出す。敵の魔術師がやってこないうちに行動しなければならないからだ――もっとも、そんな魔術師が現れてもアリスはそんなことものともしないのだが。


「さあて……とにかく始めましょうか。ユウ・ルーチンハーグを炙り出すために、先ずはこのアジトに居る全員――私の魔力の『糧』となってもらいましょうか」



 ◇◇◇



「……嫌な予感がする」


 スノーホワイトアジトにて会談をしていたユウは何かの気配を感じ取った。


「嫌な予感……って、どういうことですか?」

「解らない。けれど、アジトに何らかの危険が押し寄せてきていることは間違いないわ!」


 立ち上がり、踵を返して扉へと向かうユウ。


「待って、ユウ」

「……いくらあなたに止められようとも私は行くわよ。組織のみんなを、見殺しになんて出来ない」

「これは罠よ、ユウ。それでもあなたは行こうというの?」

「それが組織を束ねる者としての常識でしょう? 夢実、春歌、あと高知さん、行きましょう。……我々の、戦いの地へ」



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