表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/63

オープニング002 とあるテレビクルーの映像記録

「あなたはどうして木崎へ?」


 マイクを持ったテレビクルーは整った顔立ちの男に声をかけた。


「オー! ワタシ、ニッポンノブンカ、ダイスキネー! トクニ、ジャパニーズミズギー! スクミズー! スクミズ、ダイスキネー!」

「スク水って……スクール水着のことですか?」


 テレビクルーは苦笑いしながらそう言った。

 相手は整った顔立ち、つまり外国人だった。

 木崎市にある空港、木崎空港ではこのような取材が半分日常的に目撃される。


「オー、イエス! イイェッスッ! ソウデース!」


 このままだとスクール水着の話でテープ一本終わってしまう気配すら感じる――そう思ったテレビクルーは早々に取材を切り上げようとした――その時だった。




 白いドレスを着た少女が姿を現した。




 その少女は踊るように歩きながら、笑みを浮かべていた。白いワンピースを着た、アクアブルーの髪の少女。

 それを見たテレビクルーは思った。――あの子を撮影できれば、いい視聴率になると。

 テレビは視聴率の世界である。裏を返せば視聴率さえ取ればどうだっていい。そう思っているのが現状とも言えるだろう。テレビ番組を見てマンネリだと思っても、視聴率さえよければ番組は永遠に放送される。終わることなど考えられない。


「ねえねえ、そこの人」


 少女に声をかけるテレビクルー。

 少女はテレビクルーを無視して歩く。

 テレビクルーは不愛想な人だとしか思わず、再び声をかける。


「あ、あのー……話を少し聞きたいのですけれど??」


 二回目の呼びかけで、漸く立ち止まり、振り返った。

 少女は精悍な顔立ちで、言った。


「ここはもうすぐ――戦場に変わる」

「はあ?」


 予想外の言葉にテレビクルーは思わず溜息を吐いてしまった。

 木崎市は自衛隊基地も米軍基地も縁が無い。だから、そう簡単に戦闘機が襲来する――なんてことは有り得ない。

 いや、もっと言うならば。

 この国家は七十年近く戦争が起きなかった国だ。世界では必ずどこかで戦場になっている場所があるというのに、この国は少々特殊とも言えるだろう。


「お、おかしい話ですよ。戦争が起こる? 戦場になる? そんなことは有り得ませんよ、だってこの国で戦争は七十年以上も起きなかった」

「そこが油断している証拠。七十年も戦争が起きなかった。だから、これからも起きることなんて無い。――そんなこと、ほんとうにそう言える?」

「そうですねえ……」


 どうやってここを脱しようか――テレビクルーはそればかり考えていた。

 と同時にこの少女に声をかけて失敗していた。まさか普通の人間の皮を被った変人だったとは思いもしなかったからだ。

 同時に大きな振動があった。

 その振動は『彼女』を中心に起きていた。

 彼女は笑っていた。


「まさかここまで抑えきれないとは……。ふふふ、ふふふふふふ! さすがは『ホワイトアリゲーター』をニューヨークで仕入れただけのことはある! 力が漲ってくる……!」

「あ、あんたがこれをやっているのか……?」


 さすがはテレビクルー。こんな状況であってもカメラを回し続けている。

 少女はそのカメラに目もくれず、一笑に付した。


「……だとしたら、どうする?」



 ――これは後に語られる『木崎空港テロ事件』の始まりであり、その凡てを記録した映像資料の冒頭である。

 ――そして、魔術師の物語は、ここから再び幕を開ける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ