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第二章 少年魔術師と『地下六階の少年』(4)

「首を切ることで、それが意識を保っているという証拠は……どうやって見つけるつもりだ?」

「あ、そう言えばそれって全然考えなかった。どうしよう? そうよねえ……。あなたの首を切ってもあなたが何も言わなかったら嘘か本当か解らないし。何かそれっぽい魔術無かったかなあ……」


 クイーンマリーは足を彼の腹から離すことは無かったが、一瞬だけ意識を香月から遠のかせた。

 そのタイミングを狙って香月はすばやくポケットからコンパイルキューブを取り出し基本コードを詠唱する――!


「……ざんねんでしたー」



 ――彼の顔の目の前に、クイーンマリーは顔を近づけていた。



「ざぁんねんでしたぁ! そんなこと、私が許すと思ったの?!」


 クイーンマリーは彼の掌ごとコンパイルキューブを蹴り飛ばした。

 同時にグシャ、という音とともに彼の右手が激痛に襲われた。


「があああああああっ!!??」

「あらあら。どうしたのかなあー? 一体全体どうしちゃったのかなー? ランキング五位の最強魔術師柊木香月サンが、まさかこうも簡単に自分の武器を奪われたことに絶望しているのかなー??」

「くそ……。確かに想定外だったよ。まさかこうも簡単に自分の骨が折られるとはね」

「おやおや、年貢の納め時と実感してくれたかな?」

「年貢の納め時、ね。僕がいつ悪事を働いたというのかな?」


 息も絶え絶えに、香月はクイーンマリーの言葉に答えた。


「私には解らないけれど、ボスがそういったのよ。柊木香月は我々の手で地獄に送り届けなければならない、ってね」

「地獄、かあ……。死ぬときは天国に行くと思っていたのだけれどね」

「あんた、自分をヒーローか何かと思っているわけ? だとしたらそれは大きな間違いだよ。ミスと言ってもいい。ヒーローなんているはずがない。どす黒い理念ばかり渦巻く世界だ。ヒーローが一人いても何もかわりゃしない。だったら悪事を働く方につけばよっぽど楽に暮らせるし金も手に入る。そういう世界だよ、ここは」

「そうか。そうだったのか。いつの間にこの世界はどす黒くなっていたのかなあ……」

「理論的には魔術師という概念が誕生してからじゃないかしら? 私が言うのも何だけれど、魔術師という概念は非常に特殊な存在だからね。それによって世界の仕組みが歪み始めても、何ら不思議はない」

「難しい話だ。つまり最初から、この世界はどす黒かったってことになる」

「そうだね。とどのつまり、私も君も生まれる前からこの世界は闇だった。光に照らされてなんてなかった。最初から闇に閉ざされた世界で、真っ当に生きようなんて誰も思うわけがない」

「果たしてそうかな?」


 香月の言葉に、クイーンマリーは眉をひそめる。


「……何が言いたい?」


 クイーンマリーは彼の身体にのしかかる。

 彼女の体重と体温を、直に感じる。

 しかし彼女は恥ずかしがる様子も無く、妖艶な笑みを浮かべていた。


「何をする気だ……?」

「ああ、簡単なことだよ。力を奪うの。じっとしていないと、あなたの身体が吹っ飛んじゃうかもね?」


 吹っ飛ぶ。

 おそらくその言葉の意味、そのままのことが起こるのだろう。

 香月は動けない身体をどうにかしようとしたが――一先ず様子を見ることにした。

 クイーンマリーはマイクに何かを呟くと、彼の着ていたジャージをゆっくりと脱がし始めた。チャックを開け、はだけさせる。彼の着ている白いシャツを上から指でそっと撫でた。

 すると撫でたところからシャツが切れていき、彼の裸体が露わになっていく。

 上半身が完全に裸になったところで、クイーンマリーは次の段階へ移る。

 彼女は香月の身体に顔を埋めると、口づけをした。

 一度だけではない。複数の場所に、何度もした。

 彼にとって少し恥ずかしいことであったが、相手は敵。油断してはならない。しかしながら、残念なことに右手を破壊され両腕が縛られている現状、何も出来ないのは事実だった。

 口づけを終え、顔を上げるクイーンマリー。

 そして彼女は香月のズボンを躊躇うことなく少しずつ下げていく。


「おい、何をする気だ!」

「あなたの力は強大過ぎる。だから一度、資格を剥奪するの。コンパイルキューブを使うことの出来る資格を、ね……」


 そして、ズボンを完全に下げられてしまった香月。

 あられもない姿を、見たことも無い女子中学生に見せつけていた。


「面白いことに、コンパイルキューブの力を制御する場所は男女共通なのよ。それぞれ生殖にかかわる部位、そこを無くしてしまえばいい。魔術はおろか、コンパイルキューブに触れても無反応になるという。……面白いよ、ほんとうに面白い。どうしてこんなことが出来るのだろう? 魔力=精神力だと、どこかの博士が言っていたけれど、これを聞くと嘘っぱちに思えてくるよ」


 さすがの香月も、何をされるのか状況が理解出来てきた。

 クイーンマリーが今から彼の身体に何をするのか。


「おい……やめろ! やめるんだ! そんなことをしていいと思っているのか! そんなことをして……何になると思っている!」

「勿論、ヘテロダインから柊木香月という大きな戦力を奪うことが出来る。それだけのためにリスクが高い行為をとっても、何ら不思議はないだろう? 私も君も中学生だ。だから大人の世界なんてこれっぽっちも解らない。だからこそ、これだけは言えるよ。……所属している組織のために行動することが一番だとね」


 彼女はポケットからナイフを取り出した。


「……やっぱりねえ。一応清潔に保っているとは思うけれど、素手で触れるのは躊躇うよ。これは任務であっても、仕方ない」

「やめろ……やめてくれ……!」


 香月の言動にうんざりしてきたのか、クイーンマリーは溜息を吐く。


「煩いなあ、もう決まったことだよ? 男らしくも無い。さっさと諦めたらどう? ……面倒だし、こうしてしまえ」


 彼女は香月の頭に右手を添える。

 刹那、彼の反抗していた言動は少しずつ収まり――軈て眠りについた。


「最初からこうしておけばよかったよ」


 追加でポケットからゴム手袋と袋を取り出す。


「しかしボスも解らない人だなあー。こんなものを欲しがるなんて。ま、コンパイルキューブは未だ解明されていないところもあるし、そのためなのかもしれないけれどね」


 そして彼女は、香月が眠っていることを確認して――ポケットから取り出したナイフをその部分へ突き刺した。

 刹那、その部分から血が噴き出す。そんなこと、彼女にとってはどうでもよかった。彼女はただ、目的を達成できればそれでいいのだから。

 暫く内部を弄っていると、卵型の器官に接着している袋状のものを見つけた。そこから管が陰部へと繋がっている。

 彼女は事前に取り出しておいたメモとにらめっこしながら、場所を把握する。


「先ずはこれから……っと」


 管を切り取り、袋状のものだけ取り出す。切り取った際、その口から白濁液が漏れ出たが、ゴム手袋をしているため心配なかった。

 次に行うのは外部に飛び出ている棒と、袋。

 生殖機能を司る器官であり、いわゆる男性のシンボルというやつだ。


「柊木香月クン、ごめんね? 君に恨みは無いんだけれど、ね」


 そしてその棒と袋がある部分目掛けて、ナイフを突き立てた。

 何度も何度も何度も何度も。

 その部分を切り取るように彼女はナイフを突き刺していく。

 暫くして、それを取り外すことに成功したクイーンマリーは一つずつ袋に仕舞った。

 ゴム手袋とナイフも袋に仕舞い、立ち上がる。

 一息つき、香月の顔を見る。

 香月は眠っていた。あんなことがあったにもかかわらず――まだ眠っていた。


「これで君はただの一般人だ。魔術も使えない、コンパイルキューブも反応しない。物語で言うところのただのモブだ。主人公だったかもしれない君の物語は、ここでおしまいだよ。悪く思わないでくれよ、君が組織に目を付けられるほど、強くなったのが悪いのだから」


 クイーンマリーの言葉に、香月は当然反応しなかった。


「よし、それじゃ帰りますか。鮮度が一番、って言っていたし……」


 そしてクイーンマリーは再び香月を見る。


「……こっちの方がスプラッタ感も出るし、いいでしょ。どうせ死ぬほど血も出てないし」


 そしてクイーンマリーはそのまま歩き出した。

 香月は裸のまま――地面に放り投げだされた。

 彼の身体に起きた異変は、未だ誰も気付かない。

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