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オープニング001 雨の日もまた憂鬱


 六月。世間一般でいうところの梅雨の時期に突入し、それに比例して気持ちが落ち込んでいく。

 土日を迎えた学生には唯一、学校から解放された日々と言えるだろう。しかし、そんな解放された気分に浮かれて宿題を忘れてしまう学生も少なくない。日曜日の夜にもなれば、焦りを覚えながら宿題を片付け始める学生が居るのも、もはや学生の常識なのかもしれなかった。

 しかし柊木香月にはその法則は通用しない。

 彼はごく普通の中学生――を演じている。しかしながら、それは数名の友人と家族には彼の正体が判明している。

 彼は魔術師だった。それも、少年魔術師として最強。

 彼は夜の街を駆けていた。仕事を終えた彼は、時計を時々確認しながら帰路についていた。

 時刻は午後十一時三十分を過ぎたあたり。彼の家に『門限』というものは無いが、とはいえ時間がかかりすぎた。このままでは明日の『仕事』に差支えが出る――。そう思った彼は溜息を吐きながら、スピードを上げる。

 彼の持っている立方体――キューブに口を付けた。

 コンパイルキューブ。

 魔術師が魔術を行うための、媒体。

 かつてはコンパイルキューブというブラックボックスばかりの技術を悪用して、世界を征服しようとした魔術師組織があった。しかしそれは彼の活躍によって解体させられた。

 それから数か月経ち、彼の生活も平穏を取り戻しつつあった。

 昼間は学生、それ以外は魔術師。

 一般人には言えない、二重生活を送っているということである。

 二重生活を伝えることはおろか、彼が魔術師として活動していること自体――伝えてはならない。



 彼が家に着いた時、日付が月曜日に変わっていた。


「不味いな……。もうこんな時間だったのか。急いで家に戻らないと」


 玄関に入り、ゆっくりと廊下を歩く。彼の家は木崎市の中心部から少し離れたところにある住宅地、その中にある一軒家である。少し前まではマンションで一人暮らしをしていたのだが、『とある理由』により今は家族四人で一軒家、一つ屋根の下で暮らしている。


「香月、帰ってきたのか」


 見つかった瞬間――彼は目を瞑った。

 踵を返し、香月は言う。


「ああ、そうだよ。今日は忙しかったからね。二件掛け持ちして、同時に終わらせてきた」

「……魔術師稼業がいいのも解る。私も魔術師であるからね……。だが、その前に香月、お前は中学生だ。学業もきちんとしないと」

「解っているよ」

「ああ、そうだ。夢実が勉強をしているから、静かにしてやれよ」


 それを聞いて彼は二階に上ろうとした足を止める。


「あいつ、まだ勉強しているのか? 父さんも少し止めてあげたらどうだ?」

「それはお前が言える言葉か? お前も来年は中学三年生だ。受験のことも少しは考えないと……」

「解っているよ。取り敢えず、今日は寝るよ」


 香月は二階に上っていく。


「お前、宿題は?」

「もうとっくに終わらせた。きっと夢実も僕の宿題を見ていると思うよ。本人が居ないことをいいことに、ね」

「そんなことを言うなよ。確かに夢実はそういうところが多いが……」

「多いなら何とか父さんからも言ってくれないか。先生に丸写しを否定するこっちの目にもなってくれ」

「それは夢実にそういうところを注意しないのが悪い。うまくコピーするのがそういうものの極意だろう」


 そんなもんに極意があってたまるか、と思いながら香月は二階にある自室へと向かった。

 柊木香月の土日は――こうして終わりを告げる。


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