惚れ薬をつくってください
タブレットは様々な薬の調合を得意とする魔法使いだった。風邪をひいた時、足をくじいた時、腰を痛めた時、激しい腹痛がする時でも、彼の調合した薬を使えば必ず症状はよくなった。
このように身体の傷を癒やす薬を作っていたのだが、彼には裏の顔がある。小屋から遠く離れた森にある洞窟で、夜だけ別の趣の薬を用意する。そこで彼が調合する薬は――。
「こんばんは」
今日も一人、若い女性が依頼に来た。タブレットは黒い帽子を深々とかぶり、彼女に応対する。
「はい、なんでしょう?」
「私、とても好きな男性がいるの。だけど彼は全く私に興味を持ってくれなくて……」
話し始めた彼女の表情は暗い。時折胸を押さえて辛そうな表情をするのは、恋の苦しみというもののためだろうか。
「だから……彼が私を愛してくれるような薬を作ってくれないかしら?」
女性は哀願するようにタブレットを見つめる。余程追い詰められているらしい。
「それはつまり、惚れ薬をご所望ということでしょうか?」
「ええ。ここならどんな薬でも作れるのでしょう?」
「……とりあえず、お客さんのお名前をお伺いしてよろしいですか?」
「私はヤミーといいます。今まで色々な人と恋をしたけど、こんなに好きになったのは初めてなの」
タブレットはヤミーと名乗る女性の姿を観察した。栗色の髪の毛をポニーテールにし、派手な柄の布で作られた髪飾りをつけている。化粧もばっちりと決まっている。丈の短いワンピースからは今にも下着が見えそうで、コートを羽織っているものの胸の谷間もしっかりと見える。非常に肉感的な身体を持ち、その身体で今まで男を魅了したのだろうかと思うほどだ。
「……惚れ薬、作れるには作れますが」
「本当!? なら作って!」
ヤミーは身を乗り出した。
「しかし強力なため、一度飲ませたら一生あなたのことを愛し続けますよ」
「それで構わないわ。さあ、早く!」
「あなたも一生彼を愛し続けますか?」
「もちろん」
ヤミーは自信満々に答えると、鞄から巾着を取り出した。
「お代はこれで足りるかしら?」
ヤミーは金貨を五枚取り出し、タブレットに差し出す。
「材料費を考えても十分すぎるくらいに足ります」
「そう、よかったわ。他にも何か足りないものがあるなら言って。用意するわ」
「では、お客様の血を少々いただけますか? 惚れ薬を作るのに必須な材料なんです」
「……どのくらい?」
さすがに抵抗があるのだろうか、ヤミーの目が険しくなる。
「ほんの数滴です。包丁で指を切ったくらいの量で問題ないですよ」
「そう。なら構わないわ」
ヤミーは了承し、タブレットに差し出されたナイフで自らの人差し指を切った。血がにじみ出る。
タブレットはそれを異物が入らないように綺麗に洗った瓶に入れると、数日後に来るように告げて洞窟の奥にこもった。
それから三日後、ヤミーは待ちきれないといった表情で洞窟に駆け込んできた。対してタブレットは落ち着いた表情で小瓶を手渡す。薄いピンク色の液体が瓶に合わせて小刻みに揺れる。
「これにはあなたの血が入っています。これを相手に飲ませれば、相手は一生あなたを愛し続けますよ」
その言葉を聞き、ヤミーの顔がぱっと明るくなる。
「本当ね! ありがとう」
ヤミーはすぐさま洞窟を出て行った。薄暗い洞窟に再び一人になるタブレット。
どこか浮かない表情を浮かべ、タブレットは作業机に向かった。そこには惚れ薬に使った材料の余りがあり、彼はそれを綺麗に整頓した。そして棚の取り出しやすい位置にそれをしまった。




