悲恋
私は、恋を失う途中。
“人事異動”なんて訳分からない手段によって。
気付かないうちに電車の中で泣いてたみたいで声をかけられた。
「なんで泣いてるの?慰めてあげようか」
ウザイ。
あんたはあの人じゃないでしょ。
どうか神様、
私に彼をください。
私には永遠の愛はないかもしれません。
彼の白髪混じりの髪が真っ白になってしまったらこの想いは消えてなくなるかもしれません。
でも神様、
私には彼が必要なんです。
どうしても駄目でしょうか?
どうしても行ってしまうのでしょうか?
どうしても、
どうやっても、
叶わない願いなんでしょうか。
私程彼を必要としている人はいないし私程彼がいなくなって泣く人はいません。私程彼を想って胸を痛ませる存在はありません。
奥さんより、娘さんより彼の帰りを忠実に待つ愛犬より。
彼の故郷の空がこれほど羨ましく憎く思うのは。私だけ。
私の4年分の想いを伝えようと彼の所に行った。出てきた言葉は
“お世話になりました”
そんな薄っぺらい言葉が言いたい訳じゃない。
下げた頭が上げられない。きっとこんな顔を見られたら困らせてしまう。異変を察した彼が口を開こうとする。
言わないで。
何も言わないで。
何か言われてしまったら想いは容易く制御できなくなり溢れだしてパンドラの箱みたいに世界を狂わせてしまう。
下らない笑い話で彼の言葉をやっと遮る。
ほっとした顔の彼の顔をぼやけた目で心に刻み込んで。
願いは叶うことなんてなく時間は死刑執行人になってはっきりとした足音で近づいて来る。
だから私は雪の積もった公園に寝転がり目を閉じる。
明日はもう目を醒まさなくてすむ、それが唯一の救い。
遅すぎた26年目の初恋。
世界は何一つ変わらず。私は心と恋と彼を失った
こんな世界、
無くなればいい。




