8話
「う・・・ん・・・」
保健室で横になっているかなでがゆっくりと目を覚ます。ベッドの横には姉貴分を名乗ってる由愛がいた。
「かなでっち目を覚ましたねんよ」
由愛が声をかけた先には二人の少年がいた。
晴と草壁だ。
二人はかなでと男子生徒を保健室に運んでくる途中血相を変えた由愛と遭遇し、一緒に保健室まで来た。由愛はかなでの様子を見ると少し安心して、なぜかいきなり草壁にビンタを喰らわせた。その行動はさすがに驚いた晴と草壁だがビンタを受けた草壁も晴も何も言わなかった。
そして何も言われなかった由愛は罰が悪くなったのか『先輩、ごめんなさい』と謝り、『せめてもう少し力を抜いてくれ』と草壁が許して、そのまま三人で保健室まで二人を運んできたのだ。
保健室の先生はすぐにベッドに二人を寝かしつけそのまま何か用があるといって出て行ってしまった。
さすがに寝ている女子生徒のベッドの横に男子を待機させるわけにはいかないということでカーテンの外側に出されてしまったが二人はかなでが寝ている間もかなでのあの状態のことを探ろうとはせずにただ黙って目を覚ますのを待っていた。
「そうか。目を覚ましたなら俺は戻るぞ。そこで寝ている新入生だがおそらく校長によって記憶の改変も行われているはずだから変に気を使って逆に記憶を取り戻させないようにしろよ。おそらくあれはトラウマになるぞ」
そう言うと草壁は保健室から出て行き、この場には寝ている男子生徒を除き三人になった。
少しばかりボンヤリとしていたかなでの表情が段々と今にも泣き出しそうなものに変わっていき、ついに由愛の胸でを借りて泣き出してしまった。そんなかなでを由愛は黙って抱きしめ、晴はこれ以上女の子が泣いてるのを見ているのも失礼かと思い、草壁に見習って保健室を出て行こうとしたのだが由愛のするどい視線と無言の圧力によって静止されてしまった。
一通り泣いて、若干おさまったかなでは晴のほうを向いてまずは謝った。
「晴くん、怖い思いさせてごめんね。ちゃんと守るって決めたのにまた駄目だった。由愛、まただめだったよぅ・・・!」
そう言うと再びかなでの目から大粒の涙が溢れてくる。
しゃくりあげながら話す様は先ほどの悪魔と同一人物とは思えないものだった。
「かなでっち。ちゃんと説明出来る?もう友達がいないのは嫌なんでしょ?きっと晴くんなら大丈夫だよ。あの状態になったかなでを見てもちゃんとここまで運んでくれたんだから」
由愛が泣き崩れるかなでに優しく気合を入れてあげて、それに答えるように何度もかなでは頷き呼吸を整える。そして大きく深呼吸すると再び話し出した。
「あの状態の話をするには結構昔のことから話すことになるけどいいかな?」
その『いいかな?』は晴が『嫌だ』と答えてくれたら今日はじめて出会ったばかりの人に重荷を背負わせてしまうかもしれない。聞かないでくれたらこれ以上厄介ごとに巻き込まないで済むかもしれない。何より再びあの状態を見られないで済むと思って発言したものだった。
しかし晴は凛とした表情の中にやわらかい笑顔を浮かべて、
「隠したいことなら隠してもらっても構わないし、しゃべりたくないことを無理にしゃべる必要もないけどそれを聞かないと友達になれないなら俺はちゃんと聞きたいな」
かなでが晴をみたときの第一印象はただの可憐な女の子だったのだが、『ただの』部分が取り除かれて『由愛のほかに友達になれるかもしれない』に変わった。
そんな晴の様子を見てかなでも覚悟を決めて話すことにした。
「うん。じゃあ話すね・・・。」
話しづらそうにでも、言葉を選びながらゆっくりと話始めた。
かなでは一般の家庭に産まれたごく普通の少女だった。
しかしそのごく一般の家庭の子が持って産まれてはいけないほどの魔力をかなでは秘めていて、その情報は病院にいる工作員からすぐに裏ルートで各組織にまわっていった。組織が成長する一番手っ取り早い方法は強い戦力を加えることであるため言うことを聞かせやすく、なおかつ魔力が強い子供は色々な組織から狙われるものなのだ。元々産まれてくる子供が強い魔力を秘めている可能性が高い良家の場合政府が保護をするため闇で活動する組織は手を出しにくいものなのだが、その点でかなでは絶好のターゲットだった。最初のうちはかなでをめぐる組織同士の潰し合いがありかなでの家に直接的な被害はなかったのだが、5歳を過ぎ人格が出来始めるころになると不要な感情を持たせたくない組織側の人間の活動が活発になりかなでの家にも被害が出るようになってきた。その為両親は政府に保護を要請しまた組織の動きが収まったようにみえたのだが、かなでが中学二年の修学旅行に行ったときに事件はおこった。