7話
主人公、空気・・・。
今日出会ったばかりの晴が思うのもおかしいが、どう見ても正気とは思えないかなでが気絶している男子生徒に近づく。
(いいからあの生徒助けろよ!本当に死ぬぞ!)
晴はのん気に魔法の分析をしている校長に対して苛立ちの念を目にのせて送った。だと言うのに校長はのん気に晴を見てにやけている。
「やぁ~ん!かわいいー!!校長先生一目惚れしちゃいました!美少女の縛られてる姿も必死に睨んでくるとこもそそられるものがありますねー!」
(馬鹿だ、馬鹿がいる!)
こっちの真剣さとは裏腹に校長は晴の観賞を始めたようだ。校長は晴の頭に手をのせてなでなでと開始するとさっきとはまた別に今度は落ち着かせるような優しい声で晴に言った。
「大丈夫ですよ。ちゃんと二人とも助けますから」
そして校長は晴から離れ、かなでと鬼である男子生徒の方を振り向いて魔法の詠唱を開始した。
『夢心地でぐぅ~ぐぅ~ぐぅ~。きっとそれは夢だった!痛いのはきっと夢だった!』
このとき体育館の周りを他の教員が囲っていて外から魔法行使の補助をしていた。
いくら校長とは言え魔法行使する相手がただの捕縛魔法を即死魔法に変化させるほどの実力者というわけで確実に成功させる為には補助が必要なのだ。
すると男子生徒の体が淡い青色に発光して、徐々にその皮膚も元通りに戻っていった。
『悪夢をみてるなら目を覚まそう!悪い夢から目を覚まそう!明るい朝!』
魔法が完成されると魔方陣が浮かび上がり淡い青色が一瞬強い光りを発して男子生徒をミラージュダンスをかけられる前の状態に完全に戻した。そしてかなでも崩れ落ちるように倒れて深い眠りについたようだった。
校長がグッドモーニングと唱えた魔法は対象者が不快と感じることを指定された時間に起きた事象のみ無効にすることができるものでその事象が起きた時間が古くなるほど使用されるマナは多くなり効力も薄くなるものなのだ。
多くなると言ってもその増加量は異常に増し一分を巻き戻すだけでも並みの魔法使いは倒れると言われている。そこらへんを考えると補助があったとは言えやはりすごい魔法使いなのだなっと晴は思うのだった。そしてこれは多少の賭けを含んでいた。
魔法の効果が対象者が『不快』に思うと言うことだ。もしあの状態のことをかなで自身が知らないもしくは不快に思っていないとなると効果は発揮されず、校長は男子生徒を救出のちかなでを捕縛もしくは殺害しなければいけなくなっただろう。
校長の『二人とも助けます』というのは、信念と信頼でのみ発せられたものだった。
「ふ~何とか終わりましたね。神谷晴くんですね?立てますか?」
校長が手を差しのばして晴を立たせる。
「なんで俺の名前知ってるんですか?」
「校長先生ですよ?すべての生徒を記憶してるに決まってるじゃないですか」
笑いながらそう話す校長はさきほどすごい魔法を使った人にはまったく見えなかった。そして晴はあることを思い出した。
「校長先生。俺のこと知っていて女の子扱いしたんですか?」
「もちろんそうです!」
無い胸を張ってエッヘンと言わんばかりな顔をしている校長をみてヤレヤレと晴は諦めにも似た表情を浮かべた。
「ババア!狩りのほうは良いのかよ?行かないなら俺が狩ってきてもいいか!?」
演台横下の位置から一歩も動いていない草壁がもう限界だと言わんばかりに叫んだ。
すると校長はあっかんべーをしながら狩りの続きをするために体育館の出口に走っていく。
「ふ~んだ!お礼を言おうと思ったけどやめました!お礼は六道くんだけにしますもん!六道くんありがとうでした!そしてババアなんて言う不良生徒はそのまま待機です!」
「あ・の・く・そ・ば・ば・あ!!」
おそらく今草壁の目を見た人は燃え盛る炎がその瞳に宿っていたと錯覚していたであろう。
校長が二人にお礼を言ったのは彼らが魔方陣の内部で校長の魔法の補助をしていたからだ。おそらく先生達のみでもこの魔法は成功したが万が一に備えて二人は補助を開始したのだが、結局は本当に無駄骨で目標としている人物の足元にもまだ到達してないことを実感した草壁であった。
校長が去った後を見た後、遠くから聞こえる悲鳴を聞きながら待機と言われていた草壁は動き出して舌打ちをしながら後始末にはいる。
「チ、まあいいか。神谷だっけか?たぶん外の先生方はみんなぶっ倒れてるだろうからそこの二人を保健室に運ぶの手伝ってくれ、女同士のほうが運ぶときも後腐れないだろ」
草壁が六道に頼まなかったのは女子を運ぶのに男子だとまずいんじゃないかと考えた結果だったのだが、もちろん晴は納得しない。
「あれ?さっきの俺と校長の話聞いてないんですか?馬鹿なんですか?」
草壁は馬鹿と言われてムッとした表情を浮かべ晴に文句を言おうとした。
言おうとしたのだがそこにあったのは純度100%の飛び切りの笑顔。その純度がどちら方面に向かっていると言えばもちろん黒く、何か嫌な汗をかいてきた草壁は何も無かったように前を向いて『悪いなんかわからんが謝るから運ぶの手伝ってくれ』と微妙にビビリながら晴にお願いするのだった。