6話
「はぁはぁ・・・。ま・・・まいたか?」
息を切らしながら一人の男子生徒が後ろから鬼が来ていないかどうかを確認する。
そこは長い廊下があるだけで人っ子一人いない状態だった。男子生徒は安堵のため息を漏らし胸を撫で下ろした。
「ん~残念。そんなんじゃあ校長先生は撒けないぞ~」
彼が最初の犠牲者だった。
校長自ら逃げないとどんな目に会うか教えてあげるということで先ほどの男子生徒を指名したので他の生徒は校長がその男子生徒を追いかけに行くのを見ていて『うわああああああああああ』と言う叫び声がすぐに誰のものか気がつく。
周囲に一気に緊張の糸が張りある男子生徒の声とともににそれは爆発した。
「ほれ、逃げねーとやられちまうぞ?」
一斉に蜘蛛の子を散らしたように逃げ始め、それを追うように爆弾マークをつけた鬼が彼らを追いかける。体育館には教員と草壁だけが残った。いや、残るはずだった。
草壁は3人ほどいる生徒を眺めて面白そうに呟いた。
「ほう、この状態で逃げないとはお前が六道家の人間か」
ニヤリと笑った顔はまるで獲物を見つけた狩人のようだった。しかしなぜ二人残ったのに彼が六道家の人間だとわかったのか?その答えはしごく単純で残りの二人は明らかに逃げ遅れた女子とそれを介抱している友人だったからだ。
晴は自身もこの場から逃げようとしたのだがかなでが生贄となった男子生徒の悲鳴に驚いて腰を抜かした様が見えた為、彼女の介抱にまわったのだ。しかし途中で由愛と眼があったのにアイコンタクトで『まかせたよん』と言われたことにはさすがに腹を立てた。
「かなで、大丈夫?ほら立てるか?」
「あ・・・ごめんね。わざわざありがとう」
晴の差し伸べた手につかまってゆっくりと立ち上がるかなで。だがそこにいきなり鬼が現れた。
鬼は三人発見すると腰を抜かしているかなでとそれを介抱している晴に照準を合わせる。
「美少女二人を生贄にするのは心苦しいが!あの校長から逃げるためなんだ!許してくれ!」
その顔は鬼気迫るものがあり彼女らに合法的に触れることへの喜びの部分も多々含まれていた。
晴は六道の男子を一度チラ見して助けてくれるかを判断し、『ああ助けてくれないな』と結論を出して目の前にいる鬼をどうするか考えていた。
しかし意外にも晴が動くよりも先に介抱してもらっていたはずのかなでが動いていた。
『偽りの姿を映し出せ!ミラージュダンス!』
彼女が持っていた鏡が光り一瞬ここにいるすべての人間が目を眩ませ、そして視界が戻ってきたときには晴とかなでがそれぞれ五十人ほどいた。
「へぇこいつはすごいな。幻影体をこの人数出せる奴なんて始めて見たぜ」
迫っていた鬼はふっと息を吐いて一気に距離を縮め晴の幻影体の一体に軽く触れた。すると幻影体は徐々に歪み始めて最後には消えてしまった。
「だけど幻影体合計百体いても結局は幻影体!触れればそれで終わりだ!」
そう意気込んだ鬼は次の幻影体に触れようと手を伸ばす。
(違う!これはそんな生易しい魔法じゃない!なんでこんな魔法の行使が許可される!学校の結界は!?いや、それよりもかなではどうしたんだ!)
晴が言ったようにこの魔法はそんな生易しいものではなかった。それに気がついているはずの六道俊介も草壁も何もしようとはせずにただ、事の展開のみを見ていることにしたようだった。
(完全な傍観者かよ!先生方はどこにいった!でもまずい!そろそろあの鬼の人体に影響が出始めるころだ!)
晴が慌てて先生方を目視で探したのだがその姿は一人も見られなかった。
するといきなり鬼の様子が変化して、もがき苦しみ始めた。鬼の皮膚はどす黒く変化していてそれはすでに死に体のようだ。
「な・・・なんだよ・・・!これ・・・は・・・!」
幻影に触れることにより微量の毒を体内に蓄積していき、まずは体が麻痺してだんだんと蓄積していく毒によってもがき苦しみながらダンスを踊るように死を迎える。これこそ死霊術から生まれた禁忌とされているはずの魔法『ミラージュダンス』の真価なのだ。
動けなくなった鬼を確認したかのように『悪魔』がその場に現れた。
その目には光が宿っておらず、その姿は
「死を司る悪魔」
いきなり横に校長が現れて、独り言のように囁いた。
「なるほど・・・。この捕縛魔法はむしろ保護対象と識別するためのものなのね」
そう晴はかなでが魔法行使を始めてからかなでの別の魔法によって動きを制限されていたのだ。
それが校長が言った捕縛魔法スパイダーネット。
しかし本来ならこの魔法には発言を禁するような効果や魔力を押さえ込む効果はないのだ。それは晴の前で変わり果てた姿をさらしている少女の魔力故の追加効果とも言えよう。
そしてこれは晴の推測だがかなでの魔力はこのスパイダーネットですらその気になれば生命活動すらも禁することができるというものだ。
つまりただの捕縛魔法が即死性の魔法に変わるほどの魔力をかなでは秘めていた。