3話
「騒いですいません!」
かなでは突然本人から声をかけられて由愛とヒソヒソ話していたことも忘れて急いで誤った。かなでの性格がそうさせるというよりも晴の存在がそうさせてしまう部分が大きい。
晴もいきなり謝られて驚きかなでのほうをしっかり見る。そして花が咲くような笑顔で謝罪を受け入れる。
「もういいよ。しばらく隣同士だし仲良くやっていこう」
そうこれは晴のいつもの笑顔。ただ常人にはまぶしすぎるだけのただの笑顔。
そう言いながら晴は握手をしようと手を差し出したのだがそのとき見事にかなではフリーズしていた。
「気にしないで。かなでっちは予想外のことが起きるといつもフリーズするのよん」
惚けてしまった友人の変わりに挨拶をしようと由愛が晴の手をとり握手をした。
「私は隣のクラスの長谷部由愛。よろしくねん」
「俺は神谷晴。よろしく」
由愛は晴と握手しながら軽くウインクする。その様子から明るい性格なのかなと晴は思う。
「ところで晴ちゃんは本当に男子?」
晴は由愛の第一印象を『明るい子』から『うるさい奴』に変わった。
それでも隣の席の子とはどうやら友達らしいし初対面から印象を最悪にしてもしょうがないということで素直に質問に答えることにする。
「うん、男だね。男以外の何者でもないから」
少々、棘のある感じに言ってしまったのは了承してほしい。
晴はこの手の質問を嫌ってほど聞かれてきているのでいい加減鬱陶しくなってきたのだ。
そんな晴の様子をすぐに察知したのか由愛は手を顔の前で合わせて急いで謝罪する。
「ごめん!失礼な質問だったかな。あまりに可愛かったからつい聞きたくなっちゃったんさ。許しておくれ!」
この通りと何度も頭を下げる姿は本当に興味本位であって悪気はないものらしく晴もすぐに許した。許してもらった由愛もいつまでもいじいじせずにすぐに表情を明るいものに切り替えた。
「かなでっちとは小学校からの長い付き合いでね~。私はかなでっちのお姉さんみたいなものよん。うちの子に手を出すなら私の了解を得てからねん」
「はは、わかった覚えておくよ」
由愛はそんな軽口を言ったのだが、隣のかなでの様子を見て『晴くんがかなで手を出すより、かなでが晴くんに手を出しそうだな』と思うのだった。
何だかんだ話しているうちに予鈴が鳴り始めたのでかなでは隣のクラスに戻ることにした。
「んじゃね~。また後でお話しましょっ。あ、あと隣のうちの子がんばって起こしあげてね」
「うん、またね」
そう言い残し走り去って行くかなでを見送り、さてがんばろうと隣の妹さんを起こす作業に入る。
だが何度『おきて』とか『戻ってきなー』など言い肩を揺すっても全然現実世界に戻ってくる様子はない。
(中々強敵だ・・・)
ふっと狸寝入りしていたときの隣の様子を思い出しそれを実行することにする。
「たーてたてよーこよこまるかいてちょん」
するとようやく痛みからかなでがこっちの世界にもどってきた。
「いたひ!いたひ!由愛痛い!」
狸寝入りしていたときに聞いた同じセリフのまま。
「おはよう。起きた?」
「あ!おはようございます!ってあれ由愛は?」
「由愛さんなら自分のクラスに戻って行ったよ。もう少しで先生来るから俺が起こしたんだ」
「え!?ごめんなさい!私またやっちゃったみたいで・・・」
「ううん、いいよ。気にしないで」
晴は一瞬にして表情が変わるかなでを小動物みたいで可愛いと思い、由愛が姉貴分を名乗るのもわかる気がした。すると自然と笑みがこぼれてきてつられてかなでも笑う。かなで自身はそうも思っていないのだが晴の評価通り表情がころころと変わり背丈も小動物と同じく小さく、守ってあげたくなるオーラをかもし出しているため彼女は周囲から保護欲の対象になっているのだ。
そんな可愛い二人の少女(片方は男だが)は周りから少しばかり浮いた存在になっていた。
「みんなおはよう~。席についてるかー?入学式の説明と出席とるから席についてない奴は席につけよー」
そんなこんなをしているうちに先生が教室に入ってきたので少数の立っていた生徒も席について先生の話を聞く。かなでも晴も話をやめてきちんと前を向いた。
「まずは簡単に自己紹介からしてもらうかー。んじゃ安部から順によろしくー」
そういうと先生は座って安部と呼ばれた少年から自己紹介を始める。自己紹介と言っても本当に簡単なもので出身中学と名前を言って最後に簡単な挨拶をするぐらいだ。そしてかなでの順番がまわってきた。
「別府原魔術中学校出身の大宮かなでです!よろしくお願いピまシュ!お願いします!」
勢い良く挨拶して勢い良く噛んでしまったようだ見る見るうちに顔が赤くなっていく。周囲も『ああ、そういう子なんだな』と認識を固めた。そして数人はかなでの出身中学の名前を聞いて少し驚いた顔をしている。実は彼女の出身中学校はエリート魔法使いが通う中学校で間違ってもこの高校に入るような人間が通うようなところではないのだ。
彼女の出身中学校のことなど知らない晴はおつかれさまと小声で労いの言葉を入れて自分の自己紹介を始めた。