2話
晴は無性にイライラしていた。
鈴の言ったようなナンパなどはなかったが同じ学校に入学する新入生の目線がこれでもかと言うほどに降り注いだのだ。
ある男子は素直に晴の可愛らしさに心奪われ、また別の男子は女子が男子の制服を着ていることに疑問を抱き、女子も仲間うちでヒソヒソと晴を見ながら話していた。
(お腹痛くなってきた)
別に便意や持病ではなく、もちろんストレスからくるものだ。結局晴は注目はされど一度も声をかけられずに学校に到着した。
校門には人の情報を読み取る魔法がかけられており通過するだけで部外者かどうか判断できるものという鈴の話だった。
(さっさと受付済ませて教室にいこう)
受付は人の行列があったのですぐにわかった。受付で先生らしき人物から生徒手帳と新入生の証である星型のワッペンをもらいそのまま説明をする。
「入学おめでとう。この星型のワッペンは左の胸の位置につけてね。ワッペンないと入学式からおいだされるからね。あとこれが生徒手帳これに自分のクラスと地図とか入力されてあるからそれ見てね」
この生徒手帳というものは手帳とはあるが時計のようなものでスイッチを押せば様々な情報が立体映像として浮かびあがるものだ。
その中には地図なども入っており晴はそれを見ながら自分の教室に向かうことにした。教室のドアを開けるとやはりというかすでに教室で着席している生徒から注目をあびる。
教室はどうやら大学の講義室のようになっており一クラス30人ぐらいの席の数だった。
晴は軽くため息をはきながら教卓の後ろにある黒板に書かれている自分の席を確認して、そこにつくことにした。
席順は廊下側の前列から出席番号順であり晴は一番前の窓側の席なのだが、すでに隣には女子生徒が座ってこっちを見ていた。
「はじめまして、俺は神谷晴って言うんだ。これからよろしく」
晴はしばらくの間隣同士になるであろう隣の席の女子に軽く挨拶をする。すると挨拶された女子はポカーンと口をあけたまま呆然と晴を凝視し始めた。
そしてしばらくすると挨拶されたことを思い出し、慌てて挨拶しなおした。
「あ!すいません!私大宮かなでと言います!」
と、急いで挨拶したのは良いのだが晴はかなでがほうけ始めるとすぐに机に肘をつき頬を支え外を見ながら日向ぼっこを開始して、すでに半分寝ている状態に入っていたのだ。
もちろんかなでの挨拶には一応返事は返したのだが、それは誰もが空返事だとわかるようなものになってしまった。
だが空返事で返されたかなで自身はまったく気にしていなかった。なんといっても日向ぼっこをしながら眠りに向かっている晴の顔があまりに可憐だったためだ。
見ているかなではその様子になんとも言えない母性本能をくすぐられ、またもや惚けることになる。
そんなかなでにゆっくりと近づいてくる少女がいた。
「いやー!別々のクラスになっちたねぇ~。かなでっち寂しくしてないかと思って様子を見にきてあげたよん」
少女はいつもならすぐに反応する友達の返事が遅いことを変に思い、顔を覗き込む。
「かなでっち、どうしたのさ?どっか違う世界を見てるようだよん?」
一向に反応がないので頬をつねって『縦縦横横丸描いてチョン』をやり始め、そうするとようやく痛みから現実世界に戻ってきたかなでが友達に反応した。
「いたひ、いたひ!もう由愛痛い!」
「かなでっちがいつまでも私をシカトするのが悪いよん。で、どしたの?」
「ハッ!起きてないよね!」
そう言ってかなでは隣で肘をつきながら寝ているクラスメイトになるであろう少年?の様子を見た。
先ほどまでのやりとりはうるさいとまではいかなくともそれなりに大きな声でやりとりされており、結果少年?を起こしてしまったのでは?と心配したものだ。
だがそんな心配とは裏腹に少年?はスヤスヤと眠り続けている。
「かなでっち様子おかしいよ?」
「ねえ由愛。この子って男の子に見える?女の子に見える?」
聞こえるとまずいと思い少々小声で話し合う。
「え?女の子じゃないの?」
「やっぱ女の子だよね・・・。でもね座席表には男の子の名前があったんだよね。それにさっき自己紹介してくれたんだけど何か男の子って感じのしゃべり方だったし・・・」
「でもこんな可愛い子見たことないよ?やっぱり女の子なんじゃないのかな?」
ヒソヒソと二人で話しながら推理をしていたのだが結局結論はでずに『やっぱ男の子?』『いやいや女の子でしょ』と延々くり返され、突然第三者が介入してきた。
「俺は男だからよろしく」
噂のご本人様だ。
相変わらずの体制で顔は外を見ているが声は明らかにかなでたちのほうに向かって発せられていた。そしてその声色は若干怒っているような感じのものだった。
実は由愛という少女が教室に登場してかなでに声をかけた辺りからちゃんと気がついていたのだが、関るのがめんどくさいということで狸寝入りを決め込んでいたのだ。
しかしずっと自分を話題に話している少女たちについに感情を抑えられなくなり話しかけてしまったのである。