表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきの嘘つき。  作者: 吉駄
入学
2/14

1話

「ん・・」


薄暗い部屋のカーテンから僅かな日差しが差し込む中、一人うごめくものがあった。ごそごそと動くそれは一向にその場から離れようとはしない。

そこに近づくひとつの影があった。それはソロリソロリと忍び足でよってくる。

そしてあと1歩というとこでそれは見事なルパンダイブを決めた。だがそこにはさっきまであったはずのものがなくルパンダイブが失敗だと悟った影は愚痴った。


「チ。今日も失敗か・・・」


「鈴。毎回言ってるが犯罪だからやめろ」


そういって鈴といわれた少女が顔をあげると見事に顔からベッドに突っ込んでいたので赤くなっていた。

そして鈴が狙っていた標的は眼で鈴をけん制し肩にかかっている長い髪を後ろに束ねる。


「ああ・・・。うちの髪がああ。一日の初めのサラサラタイムがああ」


「鈴の髪じゃない。俺の髪だ。大体髪を触ること許可したことなんてない」


「なんでそんなに女の子なのに男の子なん?うちめっちゃショックだ」


鈴が自分の言ったことを聞いてないと分かり少し眉がつりあがる。

彼、神谷晴は知らない人が見れば小さく可愛い美少女だとみながみな答えるだろう。

中学三年になっても中々伸びなかった身長は150cmしかなく全体的に丸みをおびた顔立ちと大きく少しばかりつり上がった眼、そして誰もが認めるであろうサラサラとし痛みなどまったく感じさせない綺麗な黒髪。

クローゼットにしまってある制服に着替えようとして、買い物に行ったとき店員に女性物の制服を間違われて持ってこられたことを思い出して少し憂鬱になる。


「しょうがないじゃん。晴ちゃんめっちゃ可愛いもん」


「しょうがなくないし、ちゃんづけで呼ぶのもやめろ」


ニヤニヤしながら鈴は晴をずっと眺めている。


「で、鈴はいつになったら部屋から出て行くのさ?」


いつまで経ってもこっちを眺めているだけで一向に部屋から出て行こうとしない鈴に業を煮やしちょっと邪険気味に晴は言う。その態度すら鈴は楽しいと言う様に笑顔のまま晴を眺めながらいう。


「うちは気にしないよ」


「いや俺が気にするから鈴に後ろから襲われないか不安だから出て行って」


鈴は親指を立てながらとてもいい笑顔で言ったのだが、見事に撃沈したのだった。

えーっと文句を言いその場を動こうとしない鈴を無理やり動かそうとして近づくと今度は「んっ」と言って目を閉じ唇を差し出す。

等々限界に達した晴は呪文を唱える。


「ケダマ、好きにしていいよ」


「まって!それはだめえええ」


さっきまで悠長に構えていた鈴の様子が一変して焦ったものに変わった。

そして一気に部屋から出て行ったのだがそのときにはもう何もかもが遅かった。一体の愛らしいネコが鈴目掛けて発射されたのだ。

そしてしばらく悲鳴が鳴り響いたのち今度はくしゃみがこだまする。

着替え終わった晴が部屋から出て行くとそこには目を真っ赤にしてティッシュで鼻をかんでいる鈴の姿があった。


「うう酷い。晴ちゃんがいじめる」


「少しやりすぎたかなって反省はしてるけど後悔はまったくしてないね」


そう言いながら晴は食卓につく。


「傷物にされた。もうお嫁にいけない」


およおよと泣きまねを始める鈴を尻目に無視を決め込み晴は食事を始める。

鈴もこれ以上やっても意味ないと悟り最後にチと舌打ちをして食事を取り始める。

そして食事を取り終わり晴が「今日もおいしかったよ」と言うとまた鈴がルパンダイブしてきたので今度は足をむけていなし、鈴はまたもや見事に顔面から突っ込んで撃沈するのだった。

こうなることは分かっていたのだが幼いころからちゃんと食事の礼はしなさいと言われていたのでしぶしぶながらもちゃんと感想に礼を込め言っているのだ。


「そろそろ学校にいくかな」


「そんな!まだ大丈夫だよ!ほら時間見て!」


他の身支度を済ませながら(その間にも鈴の襲撃は何度かあった)晴が学校に出発しようとしはじめると鈴がまだ時間があるからもっとかまってと言わんばかりに時計を指差す。


「まだ20分も余裕あるじゃん!もうちょいゆっくりしようよ!」


「鈴の考えることぐらいわかるよ。だから20分早く出発するんだ。それと俺はこれから学校に行って学校にある時計をみるわけなんだけど10分で学校につけるのに30分かかってたらおかしいよね?」


鈴は見破られていると凍りつく。

その笑顔は可憐でついつい抱きしめたくなるはずのものなのに今その可憐な少女の背にはこの世のものとは思えない悪鬼がいるような気がしたのだ。


「でも俺はやさしいから誠意と普通がそこにあれば許すかもしれない。そこのとこよろしくね?」


笑顔で言う晴に対して必死にうなずく鈴。

確かにそこには鬼がいた。


「あぁ~あ。うちも入学式についていこうかな。晴ちゃん可愛すぎるし絶対ナンパとかされるに決まってるもん。む、考えるとイライラしてきた。よしうちもついていってナンパしてくるやつ懲らしめてあげる!」


「まず学校行くのにナンパとかされないし、鈴たち上級生は登校日明日からだから行っても入れてもらえないだろうし、第一に鈴のほうが俺にとって恐い」


「なんで!?うちは愛をもって晴に接してるのに!」


「その愛が恐い」


「晴が意地悪だ。いじめっ子だ。鬼だ。悪魔だ。でも可愛い・・・」


と言いながら隅っこでぶつぶつ言いながらいじけてしまった。

その間を見計らい小さく「いってきます」と言い出発するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ