13話
現在午前の授業を終えて初のランチタイムになりこれから晴、かなで、由愛の三人で食堂に向かうことにした。(授業と言っても教員の自己紹介とどんな授業の説明程度)晴はかなでをからかいすぎた罰としてお昼ご飯をおごることを約束させられた。なぜか一緒にからかっていたはずの由愛は罰の逃れている。引き際の線引きをうまくできるのが付き合いの長さなのかとも思う。
どちらにしても奢ることは確定のようで、晴も『友達とこんなことしてみたかったんだ』とうれしそうに笑うかなでにわざわざ横槍を入れることもないだろうと考えた。
そして晴は人数いたほうがかなでも楽しいだろうと考えて自分の友人である俊介に声をかけることにした。
「俊介。お昼一緒にどう?」
チラっと晴のほうを見たのだがすぐに視線を戻して、自分の弁当箱を出して拒否する。しかし晴も俊介が弁当持ちで拒否するとわかっていた。なんといってもこの姉弟との付き合いは長いのだ。
「あーあ。俊介がそばにいなかったばかりにかなでが襲われるかもしれないよなー。それって職務怠慢?下手したら交代なんて可能性もあるよねー?」
俊介は少し睨みを利かせて威嚇したのだが、晴にはまったく効かず逆にものすごい笑顔で返されてしまった。そして仕方ないしに食堂に同行することを決めた。
「晴っち、やるね~」
「いいの・・・かな?」
由愛は関心したように、かなでは少し戸惑いながら晴に話しかけた。
「いいの、いいの。俊介はいい奴だから、気にしなくて良いの」
良い奴ならなおさら気にしないといけないんじゃないかと心の中でつっこみを入れるも、かなでとしては新しい友達が増えるのはうれしいことで笑みをこぼす。
「六道くん、ありがとう」
かなでにお礼を言われて照れながら『礼を言われるようなことじゃない』と言い返したが、それを見ていた晴に『俊介が照れるなんてめずらしいな』と言われ少し動揺が大きくなる俊介。
そしてその様子に晴と由愛がひらめいた。二人は偶然?にも視線が合い今後の予定をアイコンタクトで相談する。
(晴っち。相談したいことがあるんだよん)
(偶然だね。俺もちょっと由愛に相談したいことがあるんだ)
どこからともなくグフフフという声が聞こえた気がしてクラスメイトはあたりをきょろきょろ見渡していたかもしれない。
食堂に向かう途中晴と由愛はアイコンタクトによる打ち合わせをしていたのだが、その為仲介役と外交的な人間が話を交わさない状況になり少し重たい雰囲気になる。かなでは俊介に一生懸命に話しかけようとしているのだが、『ああ』や『そう』などで大体の会話は終わってしまう。
俊介は特に無視したりしているわけではなく、ただ単に口下手でどう返していいかわからないために起きてしまった事故のようなものだ。俊介は俊介で『お前が一緒に来いと言ったんだからこの状況をどうにかしろ』と前にいる晴に念を送っているのだがまったく気がつく様子は無い様だ。
そうしてその後も何も会話が無いまま食堂に到着してしまい、そのまま中に入って行くのだが、なぜか食堂の一箇所に人だかりが出来ていた。何だろうと思いながらも晴たちは食事を注文するために列に並び、弁当持参の俊介には席を先に取って置くように頼んだ。
「俊介、先に席を取っておいてくれない?女の子二人を立ち食いさせるなんて可哀想でしょ?」
「まぁいいが」
やりとりが終わり俊介も自分に課せられた役目を果たそうと四人座れそうな席を探し始めたときだった。
「晴ちゃーん、みっけー!」
並んでいる晴の背中に鈴が抱きつくように飛び込み、腕を体に巻いて晴が逃げられないようにしっかりとロックしている。俊介は席を探すのに動かし始めた足を止めて、代わりに眉をピクリと動かした。
「鈴!何してるのさ!」
慌てて文句を言う晴だったが、すぐさま鈴は他の脅威を感じ取り眼を向けていたため文句は受け流されてしまう。鈴のそのまなざしの先にはやはり由愛とかなでがいる。今朝も親しげに話しかけてきた二人を脅威と感じたのであろう鈴は、晴を引っ張って連れ去ろうとするのだがそれを拒み必死に前に進もうとする晴。
「こーら鈴さん。僕たちの目的は新入生の誘拐じゃないでしょ?」
二人が均衡の取れた戦いを繰り広げている途中に第三者が現れ静止を促すが、鈴は頬を膨らませて文句を言いはじめる。
「そんなこと言ったって、うちの晴ちゃんが取られてしまうんよ。これは仕方ないことなんさ!」
そういうと鈴は晴に腕を回したまま、ぐるんっとその声をかけてきた人のほうへ体ごと向けた。結果晴は人形のように振り回され一緒にその人のほうを向くことになる。
そこには茶髪で眼鏡をかけた男子生徒がいた。その男子生徒は晴を見るとニコっと笑いかけて後ろでことの成り行きを見守っている三人を含めて挨拶をする。
「初めまして、こんにちわ。僕はこの学校の書記を務めています、檜山陽炎と申します。以後お見知りおきを」
すると今度は檜山の笑顔に何かを感じたのか先ほどまでかなでと由愛に向けていた敵対心を彼にむけ、
「檜山くん!いくらうちの晴ちゃんが可愛いからってそんな笑顔で落とそうとしてもダメなんだからね!」
と言い放った。