11話
入学式を終えて翌日、在校生達も登校を始める日となる今日、晴は朝から憂鬱な気分に浸っていた。ことの発端は昨日ネコを鈴に襲わせるとこから始まる。
簡単に言うと泣いてしてまったのだ。それもかなりの大泣き。それを鎮めようとあたふたしていた晴なのだが何をやっても泣き止まない鈴。困り果てた晴はついに『一緒に登校するから』という最終手段を新生活早々使ってしまったのだ。本来なら何があっても朝の一時位は一人でいようと思っていて、手段としてチラつかせることはあったとしても実行はしないはずだったのだが、結局鈴を大泣きさせた罪悪感には勝てず一緒に登校することにしてしまったのだ。
そのとき鈴がニヤリと影で笑っていたことは晴が知るはずもなかった。
そんなこんなで晴とは裏腹に鈴は常の行動がスキップで行われていそうな錯覚を覚えるほどに非常に機嫌がよかった。
「晴ちゃ~ん!そろそろ行かんと遅刻するよ~!」
「わかってるよ。でももうちょっと自分の迂闊さに失望させて」
「?」
玄関ですでに登校の準備を済ませているのにいっこうに出発しようとしない晴をみて不思議に思う顔をする鈴。
しかしこのままでは本当に遅刻しそうなので鈴は晴の手をつないでそのまま外に飛び出した。引きずられるような形になった晴だが文句を言おうにも、ものすごい勢いでいきなり走り出したため足が覚束無い状態になってうまく言葉が発せない。ただでさえ鈴は足がとても速いのだ。
「ま・・・まった!足・・・足が!」
「ひゃっほおおおう!!」
そんな晴の様子など関係無しに鈴は高いテンションで街中を駆け抜けていく。街の人たちから見ればそれは仲の良い友達に見えたのだろう。おじいさんたちは『若い子はやっぱ元気が一番じゃな』など言っていた。停止させようとして舌を噛んで失敗してなどを繰り返しているうちにとうとう校門前に到着してしまった。
「う~ん!やっぱ一緒に登校すると気持ち良いね!」
「ぜぇ~ぜぇ~、へんへんひも、ぜぇ~」
晴は『全然気持ち良くないから』と言おうとしたのだが十分ほどの全力疾走でうまく話すことが出来ない状態にあった。そんな晴をのぞきこんでいる鈴であったが鼻をヒクッと動かし何かを察知した。
「晴くん?おはよう。・・・で大丈夫?」
「おはよ~ん晴く~ん」
かなでと由愛である。
肩を大きく上下させながら呼吸している晴を心配して近づいてくるかなでと何やらちょっと面白そうと思いながら近づいてくる由愛。そしてその二人の匂いを覚えていた鈴は少し睨みながら警戒する。
新しく出来た友達と話をしようとしていたが近くにいた知らない女性に睨まれたことによって後ずさりしていまったかなでに変わって由愛が前に出て話をしようとする。
「君達晴ちゃんの何?」
しかし由愛を制して先に鈴が質問を投げかけた。由愛はいきなり『何?』と聞かれたとしても昨日会ったばかり彼に対して友達としか答えないので素直に友達ですと答える。そして少し考え始めた鈴はいきなり晴の頬にキスをした。
「「なっ!」」
その様子を見ていた由愛とかなではもちろん、登校中でその場に居合わせた晴が男子だと知らない生徒達は美少女同士がキスとしているとこを目撃して硬直する。晴もさすがに鈴が他の生徒もいる場所でキスしてくるという行動は予想外だったので固まってしまい、そして当の鈴はさっさと一人で校内に行ってしまった。
「今の人いったい誰!!」
いち早く気を取り直した由愛が眼を輝かせて晴に質問する。晴も気を取り直したがみんなに注目されているこの状況で流石に恥ずかしくなりさっさと校内に入ろうとしたが一人の男子生徒に止められてしまった。
「神谷。少し話があるんだがいいか?」
晴の背後にいつの間にか六道俊介がたっていた。
いきなり現れたことに晴と由愛は驚くが六道のここにいる理由と今の一連の流れを考えれば当然そうなるよなっと晴は思い直す。
ここにきてようやくかなでも気を取り直し先ほどのことを聞こうとする。
「晴くん!今の人、誰!?」
そしてかなでは晴に質問した直後に彼の後ろに六道俊介がいることに気がつく。人々に番人といわれ、畏怖される存在を前にして一気に緊張していく。
「六道くん!?いつの間に・・・」
「へ~。彼が噂の六道くんなのね~ん。ふ~ん」
ジロジロと六道を品定めするかのように見る由愛。しかしそんなこともまったく気にしないで俊介は話を進めようとするが晴に『待った』をかけられた。
「俊介。まだかなでにちゃんと詳しいこと話してないんだろ?説明はしとくべきじゃないか?」
俊介は苛立ちを見せ、晴を睨むが彼の言っていることももっともなことなので言われたとおりにする。
「大宮かなで。政府から君の保護員役を頼まれた、これからよろしく頼む」
彼は基本的に無表情ではあるが無礼ではないので保護対象でこれからある程度プライベートでも一緒に過ごすであろうかなでに簡単ではあるが挨拶をする。しかし保護対象であるかなで本人がまだ理解できないでいて一生懸命に首をかしげながら考えている。そして理解したと同時に声をあげた。
「ええー!」
「ちなみにさっきの女の人は俊介の姉さんだよ」
「「ええー!」」
晴がシレっと言うと今度はかなでと由愛二人とも声をあげた。