10話
自宅についた晴を待っていたのはいつもの奇襲だった。
「おかえり~!晴ちゃ~ん!会いたかったよっブフゥ!」
いつもの奇襲なので晴は鈴に対してかばんを盾にキスをガードする。当然鈴はかばんとキスすることになるのだが、その際晴はみてはいけないものを見てしまった。
「晴ちゃんのかばん・・・!クンクンクン!」
前からわかっていたのだが変態にしても度が過ぎるだろうと鈴を新たな認識に正した。それ以上かばんを鈴の手に置いておくとそのうち舐めはじめそうな雰囲気だったので急いでかばんを救出する。しかし鈴もかばんをがっちり掴んで中々話そうとしない。
「晴ちゃん。このかばんから女の子の匂いがする」
どうやら鈴の嗅覚はこと晴に関して犬すらも超えるようである。鈴の言っている女の子はかなでと考えられるがかばんがかなでの近くにあったのは教室にいたときのみだ。下校はまったく方向が違うのでかなでは由愛と一緒に帰ってしまったし、そうすると当然経由するものは一つしかないわけで。
「晴ちゃん。このかばんと同じ匂いが晴ちゃんからするんやけど、どういうことかな?」
やはりこういうときの笑顔と言うのはとても綺麗であるがためにとても恐ろしい。鈴は飛び切りの笑顔を晴に向けているのだが、目は笑っていなくて後ろから黒いもやがでている。そのとき晴はやっぱり自分が怒ったときの笑顔は鈴を真似して出来たものなんだなと思う。普段は馬鹿なキャラな分鈴の怒ったときのオーラというのは半端ではないのだ。晴いわく『あのオーラだけで吐血しそうになる』とのことだ。
「まっ、事情は知ってるんだけどねぇ。晴ちゃんが誰かと親しくなるなんて珍しいし、ましてや女の子ときたら晴ちゃんの未来のお嫁さんとしては不安になるわけで~」
「誰が誰の未来のお嫁さんだって?」
「私が晴ちゃんの」
さも当然と言わんばかりに鈴は語っている。
晴は鈴に驚かされた仕返しを含めて意地悪を開始しようとするがその前に気になることを一つ聞いておくことにする。
「やっぱり六道俊介は大宮かなでの保護員でこっちの学校にきたの?」
「そうみたいだね~。でも本来なら六道家の人間が出るほどでもないはずだし他に目的もあるはずだけど。まぁ気をつけなさいよぅ。きっと彼、晴ちゃんに興味津々のはずだから」
そういうとハッと何かにひらめいた様で、少し考えてからあの校長のように腕で口元を拭い、それと同時にぐへへへと何やら不適な笑みを浮かべている。
「そういえばさ、鈴は事情を知ってたのに俺に対してかまをっかけたわけだよね?」
晴のただならぬ雰囲気に鈴はビクッと体を浮かせ、にっこり微笑んでいる晴を視野に入れる。
(あの顔は本気だ!)
鈴はこのあと、晴がとる行動が理解できた。だから今回は受け入れれないものなのだ。一目散に部屋から逃走を図る鈴。しかし逃がすはずがない晴は魔法の言葉をつぶやく。
「ケダマ、トラ、マル、久々に三匹で鈴に遊んでもらっておいで」
そう晴が慈愛に満ちた聖母のごとく囁くとどこからか愛らしい姿の三匹の猫たちが姿を現した。
「待って!タイム!晴ちゃん、うちネコアレルギーなんよ~!どうなるか知ってるじゃんか~!」
必死に逃げる鈴を楽しそうに追いかけるネコたち。鈴の目には若干涙が浮かんでいた。
「大丈夫だよ、鈴。そんな顔を腫らして鼻水を垂らす鈴が大好きなんだよ」
大好きという部分だけ抜けばそれは鈴にとって昇天しそうになる言葉だったかもしれないが、悪意百%のその笑顔を見れば誰でもそれがただの嘘だとわかってしまうものだ。
「晴ちゃんのアホ~!いじめっ子!鬼!悪魔!ってぎゃああああああ!」
そうして慌しい晴の入学式のあった一日は終わっていくのだった。